【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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「凪、待たせた」


大学の正門の前。凪は不安げな表情で辺りを見渡していたところ、聞き慣れた声が頭上から降ってきた。


「宗介、遅い……」


そう言って、凪は唇を尖らせながら宗介を見上げる。どこか拗ねたようなその仕草に、宗介はわずかに眉を下げた。


「悪かったって言ってんだろ。そんな顔すんなって」


今日の目的は、馨の大学で行われている学園祭だ。

凪は馨に誘われたものの、知らない場所に一人で行くのはどうしても心細くて、友達も連れて行っていいかと尋ねたところ、馨からはあっさりとOKの返事が来た。そこで、真っ先に思い浮かんだのが宗介だった。

ちょうど宗介も、従兄弟であるバスケ部のキャプテンに誘われていたらしく、話はすんなりと決まった。


「それにしても、凪からデートの誘いが来るなんてなあ」

「デートの誘いじゃない!何言ってるの!」

「強く否定するってとこが、かえって怪しいんだけど?」


宗介はにやけながら、凪のさらさらとした後ろ髪をくしゃりと弄る。凪はそれに構わず携帯を取り出し、馨からのメッセージを確認する。

「“もう着いた?”……あ、馨くんから来てる」


馨と凪は、馨が凪に告白して以降も頻繁に連絡を取り合っていた。たわいもないメッセージや、たまには通話だってする。けれど凪は、まだきちんとした返事を出せていなかった。

このままでは、馨が自分に飽きてどこかへ行ってしまうのではないか。そんな不安が、いつも凪の胸にあった。


“今着いたところだよ。馨くんのお店に行くね”

今日は馨の所属するバスケ部も出展しているらしく、加えてゼミの手伝いもあるようで、かなり忙しい日になりそうだった。


「蓮見馨と友達ねえ」


宗介が、凪の頭に腕を置き、携帯を覗き込みながらぼそりと呟く。


「何?」

「いや、改めて、そんな偶然あるんだなって思っただけ」


その言葉の意味を考える間もなく、凪の携帯が着信音を鳴らした。画面には「蓮見馨」の名前が表示されている。凪は慌てて通話ボタンを押した。


「もしもし……」

『凪、今どの辺にいる?』

「正門のところにいるんだけど……」

『ん、じゃあ迎えに行く。待ってて』

「あ、ちょっと馨くん!」


わざわざ来なくても大丈夫だと伝えようとした凪の声を遮るように、電話は唐突に切れてしまった。


「蓮見馨はなんだって?」

「迎えに来てくれるって……」

「ふーん」


宗介は興味なさそうに呟き、あたりを見渡す。目につくのは女性ばかりで、思わず眉をひそめた。


「それにしても、人多くね?俺たちの学祭の倍以上は絶対いる」

「ほんとだよね。僕もびっくりした。他の大学ってこれくらいが普通なの?」

「いや、色んなとこ行ったけど、ここまで多いのは珍しい」

「なんでだろ……」


凪は顎に指を添えて小首を傾げた。


「凪」

「あ、馨くん!」


振り向いた先にいたのは、白のTシャツにハーフパンツ、キャップを被った馨だった。ごくシンプルな服装にも関わらず、凪はその姿に思わず目を奪われる。周囲の女性たちがさっと視線を向けるほどには、馨の存在感は抜群だった。

そして、あの日以来会っていなかったため、胸が一気に高鳴り始める。

凪が駆け寄ろうとした瞬間、宗介の腕が凪の首元に回った。


「うっ……!」


「なにすんの」とでも言いたげに、凪は丸い目を細めて宗介を睨む。


「お前、俺といる時と反応違いすぎだろ」

「そんなことないっ!」


必死に否定する凪だったが、宗介の顔からは不機嫌さが拭いきれない。


「お待たせ」


馨が微笑みながら近づいてきて、まず凪に視線を落とし、次いで宗介の方へと顔を向けた。その視線はどこか探るようで、やや警戒心を滲ませている。


「凪の誘った友達って……」

「宗介っていうんだ。実は馨くんのチームのキャプテンのいとこなんだよ」

「そう……キャプテンの。そういえば、カッコいい従兄弟がいるとか聞いた事あるかも。確かにちょっと……いや、似てないか。宗介くんの方がイケメン」


馨は特に驚く様子もなく返事をした。


「どうも。蓮見馨くんにそんなこと言われるなんて、光栄っす」


二人の間に一瞬、視線が交わる。穏やかな空気の中に、どこか火花のような緊張感が混じった。

凪はそんな空気に気づかず、興味を引かれたものに気を取られて宗介の袖をくいくいと引っ張った。


「宗介、あれ見て」

「なーぎくん、俺、宗介くんじゃないんだけど」


馨が微笑を浮かべたまま、凪の手を取る。気づけば、その手は馨の袖を掴んでいた。そして馨は凪の顎に指を這わせ、身を屈めて視線を合わせた。


「ご、ごめんなさい。間違えて……」

「あと、その可愛いの俺だけにしてないの、ちょっとイラつくんだけど」


馨は凪の耳元で、他の誰にも聞こえないように低く囁いた。
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