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しおりを挟む桜は馨の言葉に少し悔しそうに唇を噛んだが、すぐに表情を取り繕うように笑みを浮かべた。その笑みには明らかな棘が含まれていて、彼女の内心が透けて見える。
「へえ、そういう態度とるんだ。…ずいぶん変わったんだね、馨」
桜はおもむろにテーブルの端に置かれていた缶ジュースのひとつに手を伸ばすと、無言のまま立ち上がり、凪の方へと歩いていった。
「ねえ、凪くん。なんでそんなとこでしれっと座ってんの?まるで…自分がこの場にいて当然みたいな顔して」
その声音に、凪の心臓が小さく跳ねた。逃げなければ。そんな思いが胸を満たすのに、身体は恐怖で硬直し、ただ椅子に座ったまま、視線を逸らすことしかできなかった。
「近づくなって言ったのに、近づいたあんたが悪いんだから。私の言ったことが理解できなかったの??頭悪いの????」
桜の声が鋭くなると同時に、桜は手にしていた缶を凪の頭上で傾けた。
オレンジ色の液体が勢いよく流れ出し、凪の頭を濡らした。冷たい感触とともに、髪を伝って首筋や背中、胸元にまでジュースが染み込んでいく。服が重くなり、ポタポタとテーブルに落ちる音が妙に響いた。
「お前、何やってんだよ」
馨の声は冷静だが、その中には棘があった。
桜が再び缶を振りかざそうとしたその瞬間、馨がその手首を掴む。反対側では、宗介が自身の服が濡れることを厭わず、凪の身体を抱き寄せて守った。
「やめて!!いたい!!沢木、見てないで助けてよ!!」
悲鳴に似た声を上げた桜が振り返る。けれど、その後ろにいた沢木は困惑したまま動けず、ただ呆然と桜を見ていた。彼女がここまでするとは思っていなかったのだろう。助け舟を出すこともできず、声すら出せていなかった。
「凪に手ぇ出してんじゃねえよ。凪に勝手に近づいてんの、俺だから」
馨の声が低く響いた。冷たさと怒りが混じり合った声音に、桜は表情を引きつらせた。
「だからって、馨がこの子に近づくのが許せないの!意味わかんない!」
桜がなおも凪に迫ろうとするのを、今度は宗介が正面から腕を掴んで止めた。そして、ルイをそれに加わる。
「やめろ。あんた、気でも狂ってんのか?」
「触らないで!!誰よ、あんたなんかに言われたくない!!」
桜はジタバタと腕を振り回すが、宗介はびくともしない。
「宗介くん、りり、悪いけど凪頼んだ。こいつの目につかないとこ行ってて」
その中にはルイの名前は含まれておらず、ルイは馨を睨むが、桜の腕を掴んだ。
「勝手に俺のこと巻き込むなよ、めんどくせぇな」
「今度飯奢ってやるから」
だが、凪はその言葉を聞いた瞬間、首を勢いよく横に振った。
「僕が……僕がいるからこんなことになったんだ……!だから、僕が話をつけないと……っ!!」
肩を震わせ、涙まじりの声を絞り出す凪に、馨が静かに応じる。片手を凪の頭に伸ばしてくしゃくしゃと撫でたあと、指先で頬を撫でる。
「凪、大丈夫だから」
その言葉は確かに凪の耳に届いたが、彼の心を落ち着かせるには足りなかった。
「嫌だっ、そんなの嫌だっ……僕は馨くんを置いていけない!!」
「宗介くん、頼んだわ」
凪が身を乗り出そうとしたその瞬間、宗介が小さく息を吐いた。
「了解」
そう呟いた宗介はしゃがみ込んで凪の体を持ち上げ、そのまま肩に担いだ。凪が必死に身体を捩って降りようとするが、宗介は腕でしっかりと押さえ込む。見た目以上に力があるその腕は、凪の抵抗をものともしない。
背中から遠ざかっていく声、ざわつく周囲の視線。宗介は一瞥もせず、人混みをかき分けて駆けていく。その道すがら、凪の目から一筋の涙が零れた。
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