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しおりを挟む宗介は凪を肩に担いだまま、しばらく歩き続けた。凪は抵抗をやめ、宗介の肩にぐったりと身を任せていたが、それでも時折、震えるように体が揺れた。
「小鳥ちゃん、どんな事情はわからないけど、かおるんとルイルイがなんとかしてくれるから心配しなくて大丈夫だよ」
りりがそっと手を伸ばし、凪のぶら下がった手を優しく握った。その小さな温もりに、凪は堰を切ったように涙を流し、宗介の肩に顔を押し付けた。
「凪、鼻水はつけんなよ」
「つけないっ……」
いじけたように呟く凪に、宗介が小さく笑った。くしゃりとした笑みで、「友達が大丈夫って言ってんだから安心しろ」と耳元で囁く。その声は驚くほど柔らかく、凪の張り詰めた心を少しだけ緩ませた。
しばらく歩いたところで、人の少ない場所を見つけた宗介はようやく凪を肩から下ろした。しかし、凪はすぐに馨たちのいる方へと引き返そうとする。宗介は咄嗟にその手首を素早く掴んだ。
「凪、行くな」
「嫌だっ!だって僕が招いた種なんだ!中学の時、あの人の恨みを買ったのは僕のせいなんだ!だから僕がいないとあの人は絶対に納得しない」
凪の声は必死だった。握り締められた手が震えている。それでも、宗介は凪を離さなかった。
「小鳥ちゃん」
そのとき、りりが呼びかけた。普段の間延びした口調ではない、真剣そのものの声だった。
「小鳥ちゃん、馨がどんな気持ちで『離れて』って言ったのか考えて。小鳥ちゃんを守るためだよ。それなのに小鳥ちゃんが戻ったら、馨は『自分は信用されてないんだな』って思うよ。だから……りり達と一緒にいてくれる?」
りりは言葉の最後をしっかり言い切ると、困ったように笑いながら、普段の可愛らしい笑顔を浮かべた。その笑顔は、凪を少しだけ安心させた。
「凪、こう言ってるけどどうすんだ。俺も、お前が言ったところで心配かけるだけだと思うし、あの女はさらに逆上するぞ」
宗介も続ける。無理やり押し付けるような口調ではなかった。ただ事実を淡々と告げる、そんな声音だった。
凪は唇を噛み締め、目を伏せた。そして震える声で言った。
「……しばらく、ここにいる」
「ん、よく言った」
宗介は満足そうに頷いたが、次の瞬間、苦笑いを浮かべた。
「……つっても困ったな。あの女、ジュースぶっかけやがって。ベトベトになっちまってんだろ、お前」
宗介は凪の髪を一束つまんで持ち上げた後、構うことなくその頭を撫でた。手が汚れるのも厭わず、優しく、慰めるように。
「ね、小鳥ちゃんのサラサラの髪の毛がベタベタになっちゃったよ」
そう言って宗介は苦笑すると、りりに視線を向けた。
りりはうさぎのぬいぐるみ型のリュックを開け、かわいらしいハンカチを取り出した。
「りりさん、大丈夫……ハンカチが汚れちゃう」
凪が遠慮がちに言うと、りりはふわりと笑った。
「いいの~。りりがしたいだけだから」
優しくそう言いながら、りりは丁寧に凪の頭を拭いていった。ジュースでべたつく髪を一生懸命拭うその手つきは、どこまでも優しかった。
りりが拭き終わると、宗介は凪の手を引いて近くのベンチへ向かった。幸い濡れていたのはほとんど上半身だけだったので、ベンチに座ることに問題はなかった。
「凪、いつまで泣いてんだよ」
「泣いてないっ……」
拗ねたように返す凪の顔を、宗介は大きな手でぐしゃぐしゃと拭った。無遠慮なその仕草にも、どこか優しさが滲んでいた。
「俺、ちょっと水とってくるから待ってろ」
宗介は凪の頭に軽く手を置いてから立ち上がった。
りりと二人きりになった凪は、少し気まずそうに視線を彷徨わせた。元々人見知りな凪にとって、打ち解けるにはまだ時間がかかる相手だった。それでも、さっきまでの張り詰めた空気はだいぶ和らいでいた。
りりはそんな凪の手をそっと握ると、優しく話しかけた。
「小鳥ちゃん、私ね。最近気づいたんだよ」
「え?」
凪は不思議そうに目を瞬かせた。
「かおるんの『大好きちゃん』が、絶対小鳥ちゃんなんだなって思った」
「えっ……」
思いも寄らない言葉に、凪は目を大きく見開いた。
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