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しおりを挟む封筒の中身を覗くと、中には二つに折られた白い紙が一枚だけ入っていた。凪はそっとそれを取り出そうと指先でつまんだ。だが、その瞬間、紙の間に挟まれていた何かがふわりと滑り落ち、机の下へと転がっていった。
「えっ……?」
思わずしゃがみ込み、床に手を伸ばして探る。指先が冷たい何かに触れた。拾い上げて、手のひらの上にそっと乗せてみる。
「……何これ……」
小さな光の粒。くすんだ淡い緑色をした石。その形と重み、そして指先に伝わる微かな感触に、凪ははっと息をのんだ。
それは、中学時代に大切にしていたネックレスの最後の一つ。あのとき、馨がネックレスを引っ張ってしまい、紐が切れて床に散らばった石のうちのひとつだった。
その最後の石を、沢木がわざと外へと投げ捨てたのだ。
凪は何時間も探し続けたが、見つからなかった。あの一つだけどこにもなかった。
まさかこんな形で戻ってくるとは思っても見なかった。
指先が微かに震える。目の前の小さな石をじっと見つめながら、凪はゆっくりと紙を開いた。
その中央に、不器用で荒い文字がひとことだけ書かれていた。
『傷つけてばかりだった。ごめん』
たったそれだけの言葉。けれど、その一行に込められた馨の想いが、胸にじんと響いた。丁寧に書かれた字ではなかった。にじむような筆跡は、何度も迷いながらペンを走らせた証のようで、見ているだけで涙が込み上げてくる。
凪が見つけられなかったその小さな石を、馨は一人で、きっと何日も何度も探し続けてくれていたのだ。
どんな気持ちで、どんな顔で。
その姿を想像しただけで、凪の瞳から自然と涙があふれた。手紙の文字が滲み、紙がじわりと濡れていく。
震える指先で涙をぬぐい、凪は部屋の隅に置いてあった小さな棚に目をやった。そこには、祖母がくれたお守り代わりのブレスレットが飾られていた。ずっと大切にしてきたもの。凪はそれをそっと手に取り、静かに紐をほどいた。
そして、拾った最後の石を通し、結び直す。
柔らかな光を放つブレスレットを手のひらの中で眺めていると、祖母の優しい笑顔や、小さな手を引いて歩いてくれた思い出が次々と蘇り、涙がとめどなく溢れてきた。
(もう、諦めるしかないと思ってた……)
失くしたものは戻ってこないと、あの日からずっと思っていた。だけど今、こうして手の中にある。それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
凪は静かにそれを腕に巻いた。石の冷たさが、肌に触れるたび、馨の優しさが伝わってくるような気がした。
そのとき。
机の上に置いてあったスマートフォンが、不意に震えた。画面が明るくなり、通知音が響く。
凪ははっとして手を伸ばす。画面を見つめたまま固まった。
次の瞬間、もう一度スマホが鳴った。今度は着信。
画面に表示された名前を見た瞬間、凪の心臓が跳ね上がった。
「馨くん……!」
慌ててスマホを手に取り、指が震えそうになりながら通話ボタンを押す。
「もしもし……!?」
『もしもし、凪?』
その声だ。少しかすれているが、間違いなく馨の声だった。電話越しでも、どこか息を詰めたような緊張が伝わってくる。
「馨くん、大丈夫だった……!?」
声を大きくしてしまう。涙が乾ききらないうちに、また込み上げてきそうだった。
『うん。……凪、桜のこと、本当にごめん。巻き込んでしまって』
「違うよ。元はと言えば、僕が悪いんだ。あの人の恨みを買ってしまったのは僕だから……。だから、僕と馨くんが仲良くしてるのが、許せなかったんだと思う」
必死で言葉をつなぐ凪。声が震え、喉が詰まりそうになる。
そのとき、馨が凪の名を呼んだ。
『凪』
その一言が、すべてを受け止めてくれるような、優しい響きだった。
『……大丈夫だった? 無事に帰れた?』
「うん……。大丈夫だったよ。」
『……そうか。よかった。やっぱ宗介くんに凪のこと頼んで正解。』
馨の声には安堵が滲んでいた。けれど、その奥に、どこか切なさを含んだトーンがあった。
「あの、馨くん……?」
凪が呼びかけると、電話の向こうから静かな声が返ってきた。
『ん?』
その声は、不安を和らげるような柔らかさを持っていた。けれど、その中には確かな真剣さもあった。
そして、馨はゆっくりと告げた。
『凪……今度、俺と会ったときに話したいことがある』
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