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しおりを挟む凪は家を早めに出たものの、思っていた以上に早く着いてしまい、駅前で時間を持て余していた。
今日は、馨に想いを伝えると決めていた。自分の気持ちが何なのか、ようやくはっきりとわかった。
それは曖昧なものではない。
今すぐにでも伝えたくて、けれどどう伝えればいいのかわからず、落ち着かないまま駅前を歩き続ける。
どこかで時間を潰したほうがいいのか、それともこのまま待つべきか。時計を確認しながら迷っていると、突然肩を叩かれた。
「あれ、君は……」
「わっ」
予想していなかった接触に驚いて、声が出てしまう。振り向くと、見覚えのある背の高い男が立っていた。バスケのユニフォーム姿ではないが、その整った顔と大柄な体格に見覚えがある。
「俺のこと、覚えてますか? 馨と同じチームの……」
「あっ、キャプテン……」
そう口にしてから、凪はしまったと思った。名前を知らないため、とっさにそう呼んでしまい、思わず口を両手で隠した。
「今日はお出かけなんですか…?」
「はい、まあ」
キャプテンは、少し照れたように頬を染め、帽子のつばを引いて視線を隠す。ちらりと凪を見て、小さく咳払いをした。
「服の感じ、結構ボーイッシュなんですね。そういうのも、似合ってます」
「え、あ……」
「不快に思ったらすいません、俺の周りそういうファッションの人少なくて、すごく新鮮で」
凪は、その言葉でようやく気づいた。キャプテンは自分を女だと誤解している。慌てて否定しようとしたが、キャプテンはスマートフォンを取り出して画面を見つめながら、急に早口になった。
「すみません、俺も用事があって。試合、また機会があったら観に来てください。」
そう言い残し、顔を真っ赤に染めながら走り去っていった。騙しているわけではないが、なんとなく申し訳ない気持ちになりながら、その背中を目で追っていると、不意に背後から声をかけられる。
「凪」
振り返ると、白いTシャツに黒のパンツというシンプルな服装の馨が立っていた。飾り気のない格好なのに、どこか目を奪われる雰囲気がある。
「凪?」
凪も目を奪われていると、再び名前を呼ばれて凪は我に返った。
「こ、こんにちは」
緊張のあまり、ぎこちない挨拶になってしまう。
「こんにちは」
馨は柔らかく微笑んで返してくれる。その何気ない笑顔に、胸が高鳴る。時計を確認すると、まだ集合時間には少し早い。きっと馨も早めに来てくれたのだと気づき、嬉しさがこみ上げてくる。
何を話したらいいのかわからないまま、そのまま馨に誘われてカフェに向かって歩き出す。だが、途中からずっと無言が続いていた。普段の馨なら、もっと気さくに話しかけてきてくれるのに、今日はどこか様子が違ったことに違和感を覚えた。
「さっき誰と話してたの?」
ふいに馨が口を開いた。
遠目から見ていたようでキャプテンには気づいていないようだった。
「…馨くんのチームのキャプテン」
「キャプテン??」
馨はその名を聞いて、眉をひそめた。
「偶然そこで会って話しかけてくれて…」
「あれ?二人ってそんな仲良かったっけ??
俺が知ってる限りだと一回しか会ったことなかったような記憶なんだけど。」
「うん、そうだよね…でも、話しかけてくれて…」
「そっか…」
それきり馨は黙り込んだ。無言の時間がまた続く。普段の彼なら、もっと冗談を言ったり、話を振ってきたりするのに。冷たささえ感じるその態度に、胸がざわついた。
「馨くん」
名前を呼びかけると、馨がこちらを見て目が合った。何度も見たはずの瞳なのに、今はまっすぐに見つめ返すことができない。そして、会って一番に聞きたかったことを聞いた。
「この前……大丈夫だった?」
「ああ。うん、大丈夫だよ」
そこから出来事の詳細が語られず、馨は凪から視線を逸らした。
そして、馨の態度がいつもと違うことを確信して、凪の心が不安で覆われる。
言葉がうまく出てこないまま、足だけが進んでいく。
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