【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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凪は馨達から見えない場所に姿を隠し、宗介を待った。しばらくすると馨達はいなくなったが馨だけが残り、凪の去っていった方を見つめ桜に腕を引かれていってしまった。

約ニ十分くらいが経った頃だった。大学近くのバス停から、宗介が急ぎ足で姿を現した。

少し肩を上下させながら、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。まだ夏本番には早い時期だというのに、額には汗がにじんでいて、そのどれだけ急いできたかが一目で伝わってくる。

その姿を目にした瞬間、凪の心に、じんわりと温かいものが広がった。

来てくれた。ちゃんと、宗介は自分のところに来てくれた。

それだけで、ひとりで抱えていた心の重さが少し軽くなった気がした。けれど同時に、何を話せばいいのか分からず、凪の喉は固く詰まってしまう。

馨のことを話すべきなのか。桜の言葉や態度、自分がどう感じたのか。あまりにも整理がついていなくて、口を開こうとしても言葉がすぐには出てこない。

宗介はそんな凪の前まで来ると、じっと真剣な眼差しで凪の表情を見つめた。ふだんは穏やかな印象のその瞳が、今はどこか切実さを帯びていて、凪は少しだけ視線をそらしてしまう。

そう思い、凪がようやく唇を開いた、その時だった。


「何、しけた面してんだ」

「え……?」


意外な言葉だった。もっと深刻な何かを言われるのかと思っていた凪は、一瞬ぽかんとしてしまう。

宗介はいつもの明るい笑顔を浮かべ、ためらいなく凪の頭をくしゃくしゃと撫でた。強すぎず、でもちゃんと伝わる優しさを持ったその手のひらに、凪は思わずまぶたを伏せた。


「迷子になって、家に帰れなくて泣いてたのか?」

「……そんなわけないじゃん!」


思わず凪は宗介の腕をぺしりと叩いた。ほんの少しだけ、笑い声が混じる。泣きそうだった自分がばかみたいで、でもその軽さが今の自分にはちょうどよかった。


「なんだよ、俺はてっきりお前が迷子になって泣いてんのかと思って飛んできたんだけど。だったら、もっとゆっくり来ればよかったわ」


宗介は肩をすくめて笑いながら、今度は凪の頬を優しく片手で挟んだ。その仕草は、ふざけているようでいて、どこか凪を子ども扱いして甘やかしてくれるような温かさがあった。

そんなことを理由にここまで来たわけじゃないって、もちろん凪も分かっている。それでも、明るく空気を変えてくれる宗介の存在が、今は何よりありがたかった。


「お前の好きな甘いもんでも食いに行くか」

「え……?」


不意に出た提案に、凪は戸惑い気味に瞬きをした。


「いいだろ? 俺も今、甘いもん食いたい気分なんだよ」


笑いながらそう言った宗介の声には、無理に明るくしている部分と、本当にそう思っている部分が混ざっている気がした。凪は少しの間を置いてから、そっと頷いた。


「……うん」


ただそれだけの返事だった。でも、宗介には十分伝わったようで、彼は満足そうに笑い、凪の腕を軽く引いた。その手のひらの温もりに、凪は思わず目を伏せた。

宗介の気遣いに少し気持ちが和らいだ。
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