【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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馨からかかってきたあの電話はあの日以来こなかった。一体どういう意図で会いたいと言ってきたのか凪にはわからなかった。
 

「宗介!」


いつもの待ち合わせ場所に行くと宗介が待っていた。

凪が駆け寄ると、宗介は凪の姿を見つけて両腕を広げる。その様子に凪は少し恥ずかしがりながらも、周りに誰もいないこと確認して、宗介にそっと抱きついた。

以前の凪なら、自分からこんなふうにくっつくなんて、照れてしまってとてもできなかった。でも今は、宗介の前なら素直に甘えられらようになった。


「待ってた。久しぶりだな」

「久しぶりってほどじゃないでしょ?5日前に会ったばっかじゃん。」

「5日?なげえよ。」


連休を挟んでいたことや2人の予定が合わず5日ほど2人は会わなかった。
凪が宗介を見上げると、宗介はおどけながらも、額にやさしくキスを落とした。


「それにこの前のは会ったうちに入んねえから。バイト終わりに誰かさんがいきなり『コンビニに来て』とか言い出してきやがってよ」

「…嫌だった?」


凪が不安げな顔を浮かべて下を俯くと、宗介は堪らないといった表情を浮かべて、乱暴に頭を撫でた。


「お前に呼ばれたら夜道だって全力ダッシュで向かうからお前は1人で歩くな。あの辺、ちょいちょいヤバいやついるし。」

「またその話?」

「何度でも言うだろ。お前もちゃんと聞けよ」


宗介の声は本気だった。凪は思わずそのTシャツの裾をきゅっと握る。


「凪が会いたいって言ってくれたのが嬉しかったけど、そういうときは俺が行く。それにせっかく会っても、スイーツとかジュースだけ渡してすぐ帰ろうとすんなよ。」

「だって、宗介疲れてるだろうし、無理させたくなかったんだもん…。」

「その気遣い、嬉しいけどいらねえよ。凪に会えるだけで、俺は元気が出るんだから。」


その時のことを思い出す。結局、公園に移動して、買ったドリンクや凪の作ったお菓子を分け合いながら、近況を語り合った夜。凪にとっては、十分すぎるほどのデートだった。


「さ、行くか」


宗介が手を差し出す。凪は迷うことなくその手を取った。以前のように、どういう意味かなんて考え込む必要はない。宗介が握ってくれるなら、それだけでいいと思えた。

今日は、また宗介の家に遊びに行く約束をしていた。

電車に乗り、最寄り駅から歩いて10分ほど。目の前に宗介の住む家が見えてくると、凪の鼓動は早まった。手をつないでいたのに、なんとなく手汗が気になってしまい、こっそりと拭く。この前いったばかりだというのに少し情けなくなった。


「凪、顔赤くね?変なこと考えてんなよ」


宗介がニヤニヤしながら凪の顔を覗き込んでくる。その顔を、凪は軽く手で押しのけた。

玄関を開けて部屋に入ると、前に来た時とはほぼ変わらず、綺麗な部屋だった。


「手、洗うか。」


そう言って宗介と一緒に洗面所へ向かう。狭いスペースに二人で並び、肩が触れそうになる。その距離がなんとも心地よくて、凪は少し微笑んだ。

手を拭き終えると、宗介が言った。


「好きなところに座れよ。」


凪は一瞬迷い、床にちょこんと座った。ソファは宗介の「指定席」かもしれないと思ったのだ。


「なんでそこ?」


宗介がたったまま凪を見下ろして問いかける。


「えっと…勝手にソファとか座っていいのかわかんなくて…。」


宗介は苦笑しながら、二人がけのソファに腰を下ろした。

(あ、隣座ってくれないんだ…)

そう思ってしまった自分を、凪は少し情けなく感じた。隣に座りたい。でも、言葉にはできない。自分から行動に移す勇気もない。いつも通り、少しの距離を置いてしまう。

宗介はそんな凪の気持ちには気づかないのか、棚から雑誌を取り出して読み始めた。凪はぼんやりと部屋の中を見渡しながら、膝を抱えて座り込む。

しばらくの沈黙が流れた。


「凪」


ようやく宗介から名前を呼ばれたため、隣に来てと言われるのかと思い心を弾ませて立ちあがろうとする。


「飲み物用意してなくてわりい
冷蔵庫にスポドリとかばっかだけど、お茶とか水も入ってるから好きに飲んでくれ」


それだけ言って再び雑誌を読み始める。
他には何かないのなんてやっぱり凪から聞けなかった。
凪は意を決してゆっくりと立ち上がる。


「ん?飲み物取りに行く?
やっぱり俺が取りに行ってやるよ
何がいい?」

「その違くて…」

「そういう気分じゃなかった?
トイレだったら部屋を出てすぐの右の扉にあるぞ」

「そんなのしってる!…そうじゃなくて!」

「そうじゃなくて?」


宗介の元に凪はゆっくりと歩みを進める。

宗介は手に持っていた雑誌を肘掛けに置くと、凪の腰に腕を回して足の間に凪の身体を引き寄せる。座っている宗介を凪が見下ろすような形になった。
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