【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ

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「そうじゃなくてなに?」


宗介は凪を見下ろしたまま、意地悪そうな笑みを浮かべていた。からかうような、けれどどこか期待を含んだ視線。凪はその視線に負けそうになりながらも、小さな声で答えた。


「そうじゃなくて……宗介の隣に座りたい……」


消え入りそうな声と共に、凪は宗介のTシャツの裾をぎゅっと握る。その仕草に、宗介は不意を突かれたように一瞬目を見開き、すぐに笑みをこぼした。


「宗介……?」


凪が恐る恐る名前を呼ぶと、宗介はふっと顔を逸らし、片手で口元を押さえた。


「いや、それは……予想してたけど、破壊力半端ないわ」


くぐもった声に、凪はぽかんと口を開けたまま、何がそんなに効いたのかと首を傾げる。宗介は何かを堪えながら、しばらくその場に固まっていたが、やがて真っ直ぐ凪を見て言った。


「凪、お前ほんとすげえよ」

「……何が?」


宗介は答えず、ただ満足げに微笑んだ。凪はモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、床に座っていた体を起こして宗介の隣に座ろうと立ち上がる。

だが、その瞬間、宗介の腕が素早く伸びてきた。凪の身体をくるりと反転させ、そのまま膝の間に座らせる。驚く間もなく、腕を引かれて宗介の首に回される形になった。


「まじで可愛いな、お前。今までで、ここまで俺のグッとくるポイント抑えてるやつ、いねぇわ」


顔を近づけて囁くように言う宗介の声に、凪は思わず赤面しそうになり、わずかに顔を背けた。けれど、宗介の胸に触れる距離にいることで、自分の心音まで聞かれてしまいそうな気がしてならない。

凪は宗介の満足げな顔を睨むように見つめ、少し目を細めて問いかけた。


「……さっきの、わざとやったの?」

「ん? わざとではねえよ。俺、いつも誰か来たときはあんな感じ。全く変わんねぇ。『適当なとこ座って』って言うだけ」

「……誰か?」


その言葉に、凪の心がざわついた。宗介のように顔が広く、社交的な人間なら、きっと男女問わず多くの友人がこの部屋に来たことがあるだろう。そう思うと、胸の奥がチクリと痛んだ。

(……もしかして、女の子とかも、ここに来たことあるのかな)

そんな考えがよぎり、凪は無意識に宗介の胸元をぎゅっと掴んだ。


「凪、変なこと考えんなよ」


宗介の声が落ち着いていた。まるで凪の心の内を読んだかのようなタイミングに、凪はドキッとして言い訳を口にする。


「へ、変なことなんて考えてないし! ただ、友達多いから……その、いろんな人が来たのかなって思っただけで……」

「……あっそ」


宗介は少しあきれたように息を吐き、それから少し間を置いて、凪の頭に手を乗せた。


「ちなみに、凪と付き合ってからは男しか来てねぇよ」

「……あ、そうなの?」

「そう。ってか、他に来てほしいとも思ってないし。今は、お前が来るだけで十分だから」


宗介がごく自然に言ったその言葉に、凪はつい口元を緩めそうになるのを慌ててこらえた。表情に出たら負けな気がして、頬に力を入れてなんとか平常を装う。

だけど、心の中では嬉しさがじわじわと膨らんでいく。宗介にとって、自分が特別であること。その事実を再確認できたことで、胸がふわりと温かくなった。

宗介の首に回した腕を、そっときつくする。宗介はそれに気づき、満足げに笑った。


「ほら、もっとこっち寄れ」

「もう十分近いってば……」

「いや、もっと」


ふざけながらも、本気の声。凪は苦笑しながらも、彼の胸にぴたりと体を預けた。宗介の体温が、自分の中にゆっくりと染み込んでくる。

この安心感が、今の自分を支えてくれているような気がした。
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