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しおりを挟む凪は最近、バイトや学校行事、サークル活動などで多忙な宗介に、なにか差し入れでもできたらと思い立ち、ひとりで街へ出かけることにした。
宗介のことだから、自分が差し入れを準備していると知れば「疲れてるのはお前のほうだろ」と言いかねない。だから、できるだけ自然に、さりげなく何かを渡せたらいいと思った。特別じゃなくていい。ただ、ほっとできるようなものを。
朝、宗介から「今日は何すんの?」とメッセージが届いた。差し入れのことは内緒にして、「ちょっとひとりで出かけるだけ」と返すと、すぐに着信が鳴った。
電話を取ると、宗介のため息混じりのような声が耳に届いた。
「お前、1人で出かけんの?」
「うん」
「なあ、気をつけて出かけろよ。変なヤツに声かけられても、危なそうなら絶対無視して逃げろ。狭い路地には入るな。暗くなる前にちゃんと帰って家に着いたら必ず連絡。わかったか?」
やけに真剣な声音に、凪は思わず小さく笑ってしまった。
「……笑うなって、こっちは本気なんだぞ」
少しだけ拗ねたような声に、凪は慌てて「ごめん」と謝った。けれど、胸の内では、じんわりと嬉しさが広がっていた。こんなふうに心から自分を気遣ってくれる存在がいる。それだけで、どこか世界が柔らかくなったような気がした。
「宗介って、過保護だね」
そう言って笑うと、電話の向こうから呆れたような声が返ってきた。
「心配すんのなんて当たり前だろ。」
「そっか。じゃあ宗介も、ラブレターもらっても、その子にOKの返事しちゃダメだからね?」
凪がからかうように言うと、宗介は鼻で笑った。
「うるせえ。するわけねえだろ」
そんなやりとりに、ふっと肩の力が抜ける。互いに言葉を交わすだけで、心がほどけていくような気がする。しばらく会話を続けたあと、ふたりは電話を切った。
街は活気に満ちていた。週末ということもあって人通りが多く、カフェのテラス席では笑い声があふれていた。
凪はふと立ち止まり、ガラス越しのショーウィンドウに目をとめた。そこには、丁寧にラッピングされた焼き菓子が並んでいる。
その中にパウンドケーキがあった。レモンピール入りのものだ。宗介が、凪の手作りで一番好きだと言っていたため、買って帰ろうか。
そう思った時だった。
前方から、少し険しい声が聞こえてきた。
「やめてってば! 私、忙しいんだから!」
「いいじゃん、ちょっとくらい! ね? 少し話そうよ!」
「どっか行ってよ! しつこい!」
最初はカップルの痴話喧嘩かと思った。だが、声のトーンが明らかに違う。女の人が困っていて、男がしつこく食い下がっている。周囲の人々は聞こえているはずなのに、誰一人として立ち止まろうとはしない。みんな、知らないふりで足早に通り過ぎていく。
凪は自然と足を止めていた。何かしなければ、と思う一方で、どうしたらいいのかわからない。警察を呼ぶべきか、それとも誰かに助けを求めるべきか。
自分はというと男とは思われにくい外見で、昔から力にも自信がない。何かあってもきっと、誰かを守れるような強さはない。
そう考えながら、ふと女性の顔を見た凪は、目を見開いた。
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