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しおりを挟む「え、なんでここに……」
思わず漏れた声に、女性がぴたりとこちらを向いた。
「あんた、なんでここにいんの?」
その女は桜だった。隣にいる男には気づかれないくらいの小さな声でつぶやいた。
凪に向かって鋭い表情を浮かべる。中学時代、凪に執拗な言葉の暴力を浴びせてきた存在。思い出したくもない記憶が一瞬で蘇る。そして、今の馨の彼女でもあるのだ。
「え~、2人ってお友達ぃ?お友達ちゃん、ちょっとボーイッシュだけど可愛いし、いっそのこと3人で遊んじゃお~よ!」
男が軽薄な声を上げ、まったく悪びれる様子もなくにやけながら凪に向かって手を振る。桜はさぞ嫌な顔を浮かべているだろうと思い桜の顔を見ると、桜は一転して作り笑いを浮かべ、凪の方へと身を寄せた。
「凪ちゃん。私たち今日遊ぶ約束してたじゃ~ん」
ぐいと顔を寄せられて、耳元で小さく囁かれる。
「話、合わせて」
「え、でも……」
「いいから」
有無を言わせぬ声色に、凪は口を閉じた。仕方なく、小さな声で言う。
「……はい、友達です」
「だから、私たちこれから用事あるんで。じゃ、さよなら~」
桜は凪の裾を引っ張るとそのままぐいと歩き出す。足早どころか、ヒールの音を鳴らしながら颯爽と通りを抜けていく彼女のスピードについていくのに、凪は息を切らしながら必死だった。
背後ではまだ、男の声が追ってきていた。
「ちょ、待ってよ~お姉さんたち!ほんとお茶だけ!奢るからさ~!」
それでも桜は一切振り返らない。無視を決め込んだまま、商店街を抜け、裏路地へと足を踏み入れる。少し開けた場所まで来ると、ようやく立ち止まった。
「……はあ、しつこかった」
そう言って、ようやく凪の腕から手を離す。凪は胸を押さえて小さく息を吐いた。
「大変だったね、じゃあこれで」
これ以上、桜と一緒にいたら何を言われるかわからない。そのため、凪はそそくさとその場を去ろうとした。
だが、桜が凪の手首を掴んだ。反射的に目を見開く。
「ちょっと待ちなさいよ」
「え?」
「今日、時間あるの?」
唐突な問いに戸惑う。
「時間?いや、あの」
「デブス、何そんなにビビってんの?私が怖いの?」
その言葉に、体がこわばる。かつて、何度もこの調子で罵られた。からかわれ、貶され、笑われた。桜の目には、今もあの頃と変わらぬ残酷な光が宿っていた。
「いや、別に…」
「嘘。めっちゃビビってるじゃん。まあいいけど。馨について、ちょっと話があるの」
その名前に、凪の中で何かが鈍く揺れた。
「馨…くん?」
「そう。馨。あんた、あのあと馨と会ってたんでしょ?」
「でも、私はもう馨くんとは関係を絶ってるし……」
「はあ?そんなの私には関係ないんだけど?馨があんたに何か言ったのか、それだけ聞きたいだけ」
ぴしゃりとした言い方に、凪は押し黙った。
「で?時間、あるの?ないの?はっきりしてよ。ウジウジされるの、ほんっと嫌いなんだけど」
その高圧的な物言いは、まるで過去の桜そのものだった。だが、今の凪はあの頃と違う。何も言い返せずに泣くだけだった自分を思い返して、ほんの少しだけ、勇気を出して口を開く。そして、これを機会にいっそのこと今まで感じていたことも告げてしまおうと考えた。
「少しだけなら、いいよ」
「ふーん、じゃあ、ついてきて」
そう言って桜は踵を返す。凪はその背中を見つめた。
彼女が何を考えているのかは分からない。でも、馨のことを話題にされて、無視できるほど割り切れてはいなかった。
しばらくして、桜はとあるカフェの前で立ち止まった。外観は可愛らしく、テラス席もある落ち着いた雰囲気の店だ。
「入るよ」
桜の一言で、凪は無言で頷いて後に続いた。
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