【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

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慶也side

  
俺はどこで間違えたんだろう。

俺は小学生の頃、こんなタイトルの作文を書いた。
 
"僕の大好きなお父さん"

家族への愛情が深くて、周りの人にも平等に優しい。頼もしくてかっこいいお父さん。
おそらくそんな内容だったと思う。

小学生の頃に入賞された作文だ。ただひたすら父の大好きなところを綴った作文。なんの変哲もないのに、教師たちの心には刺さったのか大受けでコンクールに入賞することになった。

もちろん、父さんも大喜びだった。
だけど父さんは息子がコンクールで賞を取れたことに対して価値があるのだと喜ぶのではなく、息子がこれだけ自分のことを愛してくれていたことを知って喜ぶような性格。コンクールの賞はおまけみたいな捉え方だと思う。

父さんは彫刻のように整った顔立ちで、洗練された雰囲気をまとっている人だった。身長も周りから抜きん出ていてどこにいっても人々の視線を奪っていくような人。

父さんは若い頃はこれでもかというくらいモテたという話を母さんからよく聞いた。いつもその話をした後には「まあ、私が誰よりも魅力的だったからあの人は私を選んだってわけ」なんて自慢げに語った。

「慶也くんのお父さんかっこいい」なんて周りから褒められるたびに、大好きな父さんが褒められて、まるで自分のことのように鼻が高かった。

そんな父さんがよく言っていたことがある。


「慶也、僕は君が見返りを求めない、優しさを持つ人であってほしいと思っているよ。それはやがて君の強さに変わるからね」


小さい頃はこの言葉になんの疑いも持たなかった。それを守れば優しくて、かっこいい父さんみたいな人間になれるんだなんて純粋な心で感じていた。

そんな大好きだった父さんは俺が小学生の頃に事故で死んだ。外資系企業の役員として世界中を飛び回っていた父さんは出張先でタクシーに乗っていたところ、車と衝突したのだ。

父さんが死んでから、母さんは抜け殻のようになってしまい俺はその様子を直視することができなかった。せめて俺が悲しい姿を見せず、いつも通りの明るい笑顔で接する"優しさ"が母さんには必要だと思ったのだ。

そんな時にそばにいてくれたのが琥珀だった。琥珀は、人を前向きにさせる不思議な力を持っていた。父さんが死んだことを話した時にはなぜか琥珀が大泣きをして「慶也のお父さんの分の愛を俺は慶也にあげる!ずっと慶也の側にいて悲しいなんて思わせる隙を俺がなくすから!」なんて言われて、思わず笑ってしまった。

笑っていたはずなのに、いつのまに瞼は熱くなり、頰には熱い水滴が流れていた。それは父さんが死んでから初めてことだった。

琥珀は自分より身体は小さいのにこんなにも大きい。

その後、母は再婚し、新しい父は本当の息子のように自分を受け入れてくれた。家族の中で喧嘩が起きることもなく、穏やかな日々が続いた。

そんなある日、琥珀から初めて告白をされた。
白い頰を真っ赤にし、恥ずかしさが限界に達したのか目元には薄い涙の膜を張り真っ直ぐに「好きだ。友達としてじゃなくて、恋愛感情で」と告げられた。その瞬間、俺は琥珀を強く抱きしめたかった。

見た目は愛らしくて、小さくて、儚いのに、内面は愛情深くて、素直で、男らしい一面もある。俺はその全てが好きだったと思う。

自分の心が大きく揺れ動いたのは確かだった。しかし、その後にはすぐに「もし自分たちが付き合ったら」という不安が押し寄せてきた。

世間では受け入れられつつあると言っても、男同士の恋人関係は白い目で見られるのではないかと考えた。そして、その非難が琥珀に向けられ、琥珀を傷つけることになるかもしれない。自分が四六時中そんな目から守れるというのは保証できない。

知らない場所で琥珀が傷付かないで欲しい。

そんな考えに至った俺は告白に答えないということが琥珀に対する俺なりの"優しさ"だと思ったのだ。

1度断れば、琥珀は諦めていつも通りの友達関係に戻れると思った。

しかし、琥珀は諦めなかった。琥珀の想いを受け止めたい気持ちはあるけど、自分の理性が邪魔をして受け止められない。この時、完全に突き放してあげるのが優しさだったんじゃないかなんて何回も考えたことはあったが、それを頭の中で巡らせたところで過去は変えられない。

琥珀のそばにい続けて冷静を装い続けるのは限界が近づいた俺は告白してくる女の子達と付き合い、どうにか琥珀への気持ちを捨てる努力をした。

自分でそう決めたくせに琥珀への結局気持ちを捨てきれず彼女たちがいるのにも関わらず、有耶無耶な態度を取り続けた。こんなのは優しさなんて言えないと自分の中でとうに気づいていた。


琥珀が事故にあった日

保健室に向かい美沙に怪我がないか確認したが、幸い怪我はなかった。

「美沙、大丈夫?
痛いところとかない?」

「うん、ごめんね
巻き込んじゃって…」

「巻き込んだっていっても俺が勝手に2人の後をついて行っただけだから。」


美沙は深くうなづいて、俺の手を握った。


「それと1つ気になるんだけどさ…」

「うん、何?」


美沙の機嫌を損ねることになりそうな発言にはなるが、念のため、聞いておく必要があるとおもい俺は美沙に問いかけた。


「琥珀がペアリングを捨てるところを見たって本当?琥珀は美沙と会う前に俺のところに来てた気がするんだけど」


すると、美沙は今にも泣きそうに口元を歪めた後、下を俯き肩を震わせた。


「美沙??」

「…慶也は私のこと疑うの?
琥珀くんにあんなに言われたのに!私は一方的に責められたんだよ?」

「違う、だけど事実を聞きたいんだ
あの場にいたのは2人だけでしょ?証拠がない」

「私が転んだのも、琥珀くんがネックレスを握ってたのも見たでしょ?!
それに慶也だって琥珀くんのこと怒ってたでしょ?それは琥珀くんが悪いって認めたことになるんじゃないの?」


美沙は額に青筋が立ちそうな勢いで怒鳴り出す。こんな美沙を見たことがなくて困惑した。

だが、美沙にそんなことを言われて、俺は何も言い返せなかった。確かに俺は美沙が転ばされたところを見て、咄嗟に琥珀が悪いと判断してしまったのだ。事実を確認していなかったのに。

もし、琥珀にそんなつもりがなかったとしたら…。偶然起こったことだとしたら、俺は取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。

美沙の苛立ちがおさまらなかったため、美沙の気持ちが落ち着いた頃に保健室を出た。部活が終わった後でまた連絡すると伝えてその場を後に、再び体育館に戻ることにした。

もう少しで大会が近いため練習から長い時間抜けると監督から訝しくような目で見られてしまう。

練習が終わり、外に出るとここ最近では珍しい大雨が降っていた。周りからは「やべえ、傘持ってきてねえ」なんて声が聞こえてくるし、遠くからは雷まで聞こえてきた。

さっき険悪な空気になったばかりだというのに、琥珀は雷が苦手だけど大丈夫だろうかなんて自然に頭の中に浮かんできてしまい、その思考をすぐに取り払おうとする。

そして、タオルや服を鞄に詰めて帰ろうとしている時だった。


「なあ、今そこの校門近くに人が集まってから見に行ったら、ぶっ壊れた車が止まってた」

「ええ、まじ!!??」

「なんか事故ったらしいよ
車にうちの学校のやつが轢かれたんだって」

「え?!それやばくね?!誰?」

「ほら、あの…うちの学校のさ、ほら男なのにめちゃくちゃ可愛い子いるじゃん。」


それを聞いた途端、心臓が大きく嫌な音を立て始めた。
まさか…まさかそんなわけないよな…。

恐る恐る部員たちの方を振り返り、俺は震えそうな唇の動きを堪えながら尋ねる。


「………それって琥珀のことじゃないよな??」


どうか違ってくれと強く願う。だけどその最悪の予想は的中してしまった。


「ああ!そうそう!その子!!
あ、そういえば慶也となかよかった
って、慶也!!おい!!どこいくんだよ!!外土砂振りだぞ!!」


俺は相手が話している途中にも関わらず、体育館から飛び出し、傘もさすことなく事故現場に向かったがそこには琥珀の姿はなかった。俺はその事実に身体から血の気が引き地面に膝をついて呆然としていた。

琥珀…琥珀…!!脳内で必死に名前を叫ぶ。
お願いだから無事でいてくれと願った。
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