【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ

文字の大きさ
40 / 56

40

しおりを挟む


「琥珀くん…俺は琥珀くんの嫌がるようなことは絶対にしたくありません。俺がこれ以上近づくことがもし嫌であれば、嫌だとはっきり告げてほしいです。」


昴がそう告げると、琥珀は大きく目を見開いた。次の瞬間、間髪入れずに言葉を返す。


「嫌なわけない! 昴のこと大好きだから。」


琥珀の言葉に、昴は驚きのあまり碧色の瞳を見開いた。まるで予想もしていなかったかのように。陶器のように白い頬は、一気に熱を持ち、みるみるうちに赤く染まる。


「大好き、すごく大好き。」


涙の跡を残したままの顔で琥珀はそう繰り返しながら、昴の首元に腕を回した。その行為に完全に固まってしまった昴の耳まで赤く染まる。


「っ……ちょっと、琥珀くん、それは……!!」


耐え切れなくなった昴は、片手で顔を覆い隠しながら自身の感情を落ち着かせるため、顔を天井の方へと向けた。しばらくその体制でいた後、ふとした衝動に駆られたように、琥珀の背中に腕を回し、さらに膝の裏にも手を添えると、そのまま軽々と持ち上げた。


「……!?」


琥珀は突然の出来事に驚き、困惑の表情を浮かべながら昴の首元にさらに強くしがみつく。まるで小動物のように震える。


「琥珀くん、あまりにも刺激が強すぎませんか?」

「え?」

「あなたがもし無意識で他の男にそんなことをしているのだとしたら……俺はきっと狂いそうなほど嫉妬してしまう。琥珀くんの行動の一つ一つ、言葉の一つ一つが、あまりにも愛おしすぎるんです。」


耳元で呟かれる昴の低く甘い囁きに、琥珀は再び頬を染めた。しかし、その言葉が嬉しくないはずがない。

昴は琥珀をベッドの上にそっと降ろすと、そのまま上から覆い被さった。そして再び、顔を至近距離まで近づける。だが、琥珀は昴から顔を逸らした。


「俺の顔、変じゃない……?」


琥珀が不安そうに問いかける。先ほどまでの涙のせいで、瞼はほんのり腫れ、頬には美沙に叩かれたことによる赤みが残っていた。


「全く変じゃありません。むしろ、ますます愛おしいですよ。琥珀くんの姿も、表情も、どんな形であろうと、琥珀くんという存在そのものに変わりはないんですから。」


昴はそう言いながら、琥珀の頬を優しく撫で、顎を指先で軽く触れると正面を向かせた。その仕草は、まるで壊れやすい宝石に触れるかのように繊細だった。


「昴……」


琥珀は昴の瞳をじっと見つめた後、そっと昴の頬を両手で包み込む。そして、ゆっくりと顔を引き寄せた。


「昴……俺のこと、好き?」

「……当たり前です。愛してますよ。そうやって何度も伝えているでしょう?」


昴はやや拗ねたような口調で答えた。その声に琥珀は蕩けるような笑みを浮かべる。


「昴、耳貸して。」


琥珀にそう言われ、昴はおとなしく耳を近づけた。すると、琥珀はそっと囁く。


「俺も大好き。」

「……っ!!!」


その瞬間、昴は目を見開き、勢いよく起き上がった。真っ赤になった顔を両手で覆い隠し、まるで動揺を隠すように袖で口元を押さえる。その様子があまりに可愛らしくて、琥珀は小さく笑った。


「俺のこと、嫌い……?」

「嫌いなわけない!!」


昴は思わず声を荒げた。しかし、言い切った直後にハッとした顔をする。


「……すみません、いきなり大声を出したから怖かったですよね?」


眉を八の字に曲げる昴に、琥珀は静かに腕を伸ばし、昴の腰に回して引き寄せた。


「俺から逃げないで……」


琥珀の掠れた声が、昴の耳に届く。


「逃げるわけないでしょう。こんな天使に囚われたら、もう逃げることなんてできません。むしろ、捕まえておくことで必死なのですから。」

「……昴、俺、昴のこと友達としてだけじゃなくて、恋愛的な意味で大好きだって言ったら、どうする?」


その言葉に、昴の瞳が大きく揺れる。そして、すぐに真剣な表情へと変わった。


「それは本当ですか? 無理してない?」


昴は動揺を隠しつつ、できるだけ落ち着いた声で琥珀に語りかける。


「うん。」

「……もし無理やり言っているのだとしたら、俺はその言葉を受け止めたくないです。」


そう言いながら、昴は再び琥珀と額を合わせた。その体が微かに震えているのが伝わってくる。だが、その瞳には、これまでにはないほどの真剣な光が宿っていた。


「昴。俺は無理なんてしてない。昴のことが好き。」


琥珀は、昴の目を見てはっきりと告げた。その言葉が嘘ではないことを証明するかのように。

昴は息をのむ。その瞳は、かすかに潤んでいるように見えた。そして、次の瞬間。

昴は、力が抜けたように琥珀の方へと倒れ込んだ。


「……っ!」


体重がかかり、重いはずなのに、琥珀はその重みすら愛おしく感じてしまう。思わず、ぎゅっと強く抱きしめた。


「俺は……こんなに幸せでいいんでしょうか?」


昴は、琥珀の耳元で力なく囁く。その声は、今にも消えてしまいそうなほどに儚かった。


「昴、俺のことも幸せにしてくれる?」


琥珀がそう尋ねると、昴は迷いなく答える。


「もちろんです。」


その言葉の直後、昴は琥珀の頭の両脇に手をつく。そして、片手をそっと琥珀の後頭部に回し、自分の顔を近づけた。

そして――。

琥珀の緊張で震える唇に、自身の唇を柔らかく重ねた。

それは、まるで確かめるように、そして誓うような、甘くて温かい口づけだった。

しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

処理中です...