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しおりを挟む「実は今日が転校初日なんだけど、どこが職員室入り口かわからなくて」
正直に告げるのに、多少の恥ずかしさを覚えつつ言葉を口にした。
「職員室だったらこっち!」
声が弾む。目の前の人物は俺の数歩先に進み、「早く、早く~」なんて間延びした声を上げて、後ろを振り返り手招きをした。
「この学校、広いから迷うよなあ。俺も入学式の時迷子になったことあるよ! そん時は幼馴染に助けてもらったけど。」
そう言いながら、彼のふわふわの髪が風に揺れた。
「てかさ」
突然、彼は立ち止まり、俺の方へと振り向く。
そして、俺の瞳をじっと見つめた。
その瞬間、嫌悪が募った。
この国では、周りと違う容姿のせいで、昔から好奇の目で見られてきた。特に言われることが多かったのは、「碧眼の瞳が怖い」というものだった。
確かに、自分と似たような個体の中に一人だけ違うものがいれば、排除しようとしたり、気になってしまったりするものだ。
久しぶりにこの国へ戻ってきたせいで忘れていたが、そんなことを言われてきた過去を思い出し、思わずため息がこぼれそうになった。その時
「眼の色、宝石みたいですごい綺麗。」
彼はぽつりと呟いた。
「同じような眼の色の人でも、きっとその色はあんた以外の人じゃ似合わない。特別な色だ。」
子供のような無邪気な笑みを浮かべた後、彼は前に向き直り、再び歩き出す。
俺は不意に「あんたの方が綺麗だ」と言いそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。
じっと彼の後ろ姿を眺めながら歩いていると、気づけば職員室の前についていた。
「…ありがとう…」
「どういたしまして! 同じクラスだといいな! じゃあね!」
彼は手を軽く振ると、教室の方へと歩いていった。
思わず、その背中を視線で追ってしまう。
それが、一目惚れかと聞かれたら、そうなのかもしれない。
後に、俺は彼の名前を知ることになる。
早乙女琥珀。
その名前に聞き覚えがあった。
琥珀、琥珀……思い出せそうで思い出せない。
胸の奥で、もどかしさが渦巻いていた時、頭に電撃が走ったような衝撃が走った。
"俺は、この人を知っている。"
小学生の頃。
ほんの短い期間だけ、日本の小学校に通っていた。
日本には集団で登下校をする習慣があって、俺がその班に入ったとき、そこにいたのが琥珀くんだった。
琥珀くんは俺より1学年上だったが、小学生にとってはそんなの誤差みたいなものだった。
だから、名前も呼び捨てで呼んでいた。
イギリス育ちの俺は、日本語が不慣れで、うまく話せなかった俺は周りの子供ともあまり話すことはなかった。そのため琥珀くん以外の人の記憶はない。
クラスメイトには「カタコトだ」とからかわれることもあったが、琥珀くんだけは違った。
彼は呆れることなく、分かりやすい日本語で、いろんな話をしてくれた。
周りの男子から「外国人」と揶揄われる俺を庇い、集団登校のときも、いつも俺が仲間はずれにならないようにしてくれた。
女の子のように愛らしい見た目をしているのに、仲間思いで、心が広く、優しい。
まるでヒーローのような存在だった。
そして、俺が転校する直前。
あの出来事が起こった。
"琥珀くんの誘拐未遂事件。"
いつもの帰り道、琥珀くんと別れたはずだったのに、ゆっくりと後ろを走る車が気になった。
不安が胸をよぎり、俺は思わずその車の後をつけた。
すると、琥珀くんが1人になった瞬間、運転席の男が突然ドアから姿を現し、琥珀くんを車の中へ引き入れようとした。
「……っ!」
琥珀くんは必死に抵抗したが、大人の男の力には敵わない。
このままでは、連れ去られてしまう。
俺の体は恐怖でガタガタと震え、目尻から涙が溢れた。
けれど、琥珀くんがいなくなることへの後悔を考えたら、今の恐怖なんてどうでもよかった。
俺は駆け出した。
全身の力を込めて、男に体当たりをした。
一か八かだった。
もし、倒れなかったら俺も一緒に連れ去られていたかもしれない。
けれど、幸いにも男はよろめき、琥珀くんの腕を離した。
琥珀くんは呆然と俺を見つめていた。
「えっ……どういうこと?」
「逃げるぞ!!!」
俺は琥珀くんのか細い腕を掴み、勢いよく駆け出した。
足がもつれそうになりながらも、とにかく走った。
自分の家へ駆け込み、鍵を閉めた瞬間、俺はようやく息をついた。
琥珀くんが無事であると分かった時、俺はこんな生意気なことを言った。
「琥珀は1人きりだと危ないから、俺が守ってあげる。」
もうすぐイギリスに帰るのに、どうやって守るつもりだったのか。
その場の勢いで出た言葉だった。
彼と離れることが、あまりにも辛すぎて。
結局、俺は何も言えないまま、日本を離れた。
イギリスに行った後も、しばらく琥珀くんのことが忘れられなかった。
時間が経つにつれ、彼の記憶を辿る機会は減っていったけれど、「もう二度と会えない」と思っていたからこそ、意識しないようにしていたのだ。だからこそ、顔を見た時も思い出せなかった。
あまりに綺麗な姿で成長していたからというのも理由にあるが。
なのに今、目の前にいる。
琥珀くんが目の前に現れてから俺の心は掻き乱され続けていた。今までに感じたことのない気持ち。
遠くからでも、見かけると目で追ってしまう。
視線が合ったら、琥珀くんに対する思いを全て見透かされてしまいそうで、近寄ることもできなかった。
声をかけることも悩んだが、あんな短い期間に出会った人間を琥珀くんが覚えているという自信もなかった。
こうして、琥珀くんを思う日々が続き、俺は気づいてしまった。琥珀くんに強い思いを寄せていることに。
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