54 / 56
52 (最終話)
しおりを挟む慶也ははっきりとした口調で告げる。
「ずっと、好きだった」
「小さい頃から今になるまでずっと。」
「…今になるまで?」
「うん。」
慶也は小さく頷いた。
琥珀はこの状況に頭が追いつかないまま聞き返した。
「でも、彼女を作ってたし、俺のこともただの男友達だって…」
「……俺と付き合ったら、琥珀が不幸になってしまう気がして、どうしても一緒になるべきじゃないと思ってた。でも、もうそんなこと関係ないって思えるくらい、お前のことが好きなんだ。」
そう言って、慶也は琥珀を強く抱きしめた。
記憶をなくす前、何度も感じた慶也の香りが鼻をくすぐり、押し込めていた思い出が一気に溢れ出す。頬を涙の粒がつたった。
ずっと夢見ていた慶也の「好き」。
本当なら心の底から嬉しいはずなのに。
以前の自分だったら、素直に「俺も好きだ」と言えていたはずなのに琥珀の口からは同じ返事が返せなかった。
「慶也、今日伝えにきたことがあるんだ。」
「…うん」
「俺、大切な人ができたんだ。」
その瞬間、慶也が息を飲む音が聞こえた。
「…それって、琥珀のそばにいた、あの男の子?」
「うん。」
「……そっか。」
絞り出すような声だった。
どこかでその答えを予感していたのか、慶也は困ったように微笑んだ。しかし、口元は今にも泣きそうに歪んでいて、抱きしめる手が小さく震えている。
「……あの子は、琥珀に優しくしてくれる?」
「優しくしてくれるよ。すごく。」
「じゃあ、琥珀のわがままも聞いてくれる?」
「慶也?」
質問の意図がわからず、琥珀は戸惑いながら慶也の表情を覗き込もうとした。だが、慶也は後頭部に手を回し、視線を交わさぬようにしながら「いいから、答えて」と低く呟いた。
「……うん、どんなわがままでも聞いてくれるよ。俺の独占欲にだって応えてくれる。本人はなぜか嬉しそうだけど。」
昴の姿を思い出し、琥珀の口元に自然と笑みが浮かぶ。
「……っじゃあ次。どんな辛いことがあっても、悲しいことがあっても、お前の傍にいてくれる人?」
慶也の声が、問いかけるたびに震えていく。
「うん。昴なら、どんな時もそばにいてくれると思う。悲しい時も、辛い時も、そして楽しい時も嬉しい時も、俺が一緒にいたいと思える人だから。」
「……これで最後。琥珀のことを、幸せにしてくれる人?」
「うん。『絶対』なんて言葉は信じてこなかったけど、昴ならきっと、絶対に幸せにしてくれると思う。」
「……なら、よかった。本当によかったっ…。」
慶也はなんとか声を絞り出し、琥珀の肩に手を添え、そっと体を離した。
「え?」
琥珀は思わず聞き返してしまう。
「俺には叶えられなかったことを、全部叶えてくれる人だから……よかった。」
慶也の瞳に涙が浮かぶ。
それでも琥珀を真っ直ぐに見つめ、しっかりと言葉を紡いだ。
「琥珀、今まで本当にありがとう。
こんな俺を好きでいてくれて、嬉しかった。……自分の気持ちを誤魔化してばかりで、お前の心を傷つけて、ごめん。」
「……慶也。」
「どんな時も琥珀の存在が唯一の支えだった。琥珀の人生の一部になりたいとも思った。でも、これからは琥珀の幸せを見守る幼馴染でありたい。」
慶也は深く呼吸をして決心したように告げる。
「琥珀、幸せになれ。」
そう言って、琥珀の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「ありがとう……慶也。」
琥珀の瞳から、再び涙がこぼれた。
慶也はその涙を拭おうと手を伸ばしたが、触れる直前で止めた。
「……ほら、あの子のところに行くんだろ?
涙は、あの子に拭いてもらえよ。」
優しく背中を押され、琥珀は静かに頷く。
袖で涙を拭い、昴の元へと走り出した。
慶也はその背中を見つめながら、そっと呟く。
「……琥珀、ありがとう。ずっと好きだったよ」
慶也とは琥珀は息を切らしながら、廊下を走り屋上へと向かった。
屋上の扉を開くと、白金色の髪を風で揺らし、フェンス越しに遠くを眺める男の姿があった。
男の広く逞しい背中はその体格と反して、悲哀に満ちていた。
琥珀は乱れた息を整えながらゆっくりと男の方へと歩みを進めた。
「何やってんの?授業サボっちゃダメだろ」
男の体は大きく揺れ、ゆっくりと振り返る。
「…こは…くくん?なぜここに…」
「慶也に俺の思い伝えてきたよ」
昴は琥珀の姿を視界に入れた途端、苦い表情を浮かべ、声を震えさせた。
「なんでここにいるんですか?
慶也さんと一緒にいるはずじゃ…?」
「昴がここにいるかなって思ったから来た」
昴は戸惑いながら視線を彷徨わせた。
そして、自身の顔を手で覆った。
「…俺に対する同情でも向けに来ましたか?
俺はあなたの幸せを願ったとしても、心の狭い男ですから祝ったりまではできないですよ」
昴は自嘲する様に笑った。
昴の顔は見えないものの、辛い表情を浮かべているであろうことは琥珀にも伝わった。
「違う。」
「…では、慰めですか?」
「違う。
なんでそうなるんだよ」
琥珀は昴の背中に抱きつき、頬を寄せた。
慶也とはまた違う香りだけど、それが心を落ち着かせる。昴は琥珀に抱きつかれて体を強張らせた。
「俺、慶也に伝えてきたよ
今までありがとうって。」
「そこから2人が付き合うことになったのでは…?」
昴が緊張の面持ちで琥珀に問いかけるが、琥珀は首を横に振った。
「俺には大切な人がいて、もうその人と一緒にいるって決心が決まったとも伝えてきた。例え記憶が戻ってもその意思は全く変わらなかった。」
「琥珀くん、その大切な人って…」
琥珀は昴の腕を引き、正面から抱きしめた。
「大好きだよ。昴。
甘えてばかりでごめん。でも、これからもずっと甘えさせてほしいし、守ってもほしい。幸せにしてくれるのを昴だけだと思ってる。
俺のお願い叶えてくれる?」
昴は胸の奥から込み上げてくるものを抑える様に拳を握りしめ、小さく息をついた。
そして、琥珀の背中を包み込む様に体全体で抱きしめる。
「…はい、もちろんです。
俺にその願いを叶える大役を任せてくれますか。」
昴の声は少し震えていた。
顔を上げた昴の顔には微笑みが浮かんでいて、目元は少し赤くなっていた。
「うん、2人で幸せになろう」
「はい、2人で…」
互いの思いを通じ合わせるように額を合わした後、2人は口づけを交わした。
2,773
あなたにおすすめの小説
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定
累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」
学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。
生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。
静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。
しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。
「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」
玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。
それから十年後。
静は玲に復讐するために近づくが…
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる