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28、旅の途中の寄り道
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日の高くならないうちに館を出た。
旅を経験するのは初めてで、エマの目に全てが新鮮に映る。馬車での移動中、ハミルトン氏は姉妹によく話しかけた。
「あなた方はよく似ている。仲のいい姉妹はそういうものなのかな」
背格好や外見は生まれ持ってのものだが、エマは姉を手本にして育った意識が強い。母に似て優しく温和なダイアナのようになりたいと、言葉も仕草も意識して過ごしたことを覚えている。
「幼い頃から何でも姉を真似てきました。でも、そっくり真似られなかったのは優しさです。わたしは姉ほど思いやり深くなれなくて…」
ハミルトン氏の子供たちに向ける情愛は、エマには尊敬に値した。また、何か物を言う時も、いつも相手のことを気遣った発言をする。好きになれない相手にもそうだ。
以前、耐えかねた彼女がオリヴィアに言い返したことがある。それも、ダイアナならもっと上手く、こちらの品も下げることなく切り返しただろうと思う。
「エマはわたしより強いわ。どうしようかと次の手を考えられるもの」
「上手くいかないけれどね」
「そんなことないわ」
エマの手をダイアナが握った。
「我が家の姉妹もそのように育って欲しいものだ。先生が優秀だから、大いに期待しているよ」
姉からも聞き、彼女も小さな姉妹に会うのが楽しみだった。
話して接して、ハミルトン氏は好人物だと思った。年齢と責任から落ち着いた物腰で、立派な資産家でありながら高圧的でない。
妹の目から見て、控えめにしているが、姉の様子で彼への思いはもう明らかだ。
(ダイアナが好きになった人だもの)
自然、エマもそんな目で彼を見るようになる。信用も好感もより増すのは当然だった。
途中休憩を挟み、旅は続く。
ハミルトン氏は無理な旅程を組んではおらず、そのおかげでエマも道中を楽しめた。奇岩の名所を歩くことも出来たし、景色の美しい高台も眺められた。ある村で宿を取って一泊し、その翌日だ。
昼を過ぎたところから、彼女はダイアナが体調を崩しているのに気づいた。青ざめた顔をし、無理をしているのがわかる。
手や頬に触れるとひどく熱かった。
「大丈夫よ、少し馬車に酔ったのかしら?」
力なく微笑む。
ちょうど休憩で馬車を下り、散策していたところだった。ハミルトン氏は姉妹と離れ、別な旅人と会話をしていた。
「いつから? ごめんなさい。わたし気づかなかった」
姉の腕を取り、馬車に戻った。御者の手を借り座らせる。もたれるようにしている様は辛そうだ。
「…少し休めば、平気よ」
「ハミルトンさんにお知らせするわ」
「いいの」
止める姉を置き、彼女は小走りにハミルトン氏の元へ向かった。ダイアナの様子を伝えると、彼はすぐに馬車へ取って返す。
「気づけずに申し訳ない」
と、詫びた。御者へ指示を出す。
「ワーグスビューが近い。そちらへ向かってくれないか。閑散期でちょうどいい。どこも空いているだろう」
のち、エマに有名な観光地へ向かうと告げた。
「季節外れで寄るつもりもなかったが、そこなら医者も呼べる」
ぐったりとしたダイアナをエマは自分の肩にもたれさせた。苦しそうに目を瞑り、呼吸も浅い。早く横にさせたいため、彼の判断はありがたかった。
風が冷たく感じることもあった。その中を歩くことも多かった。それらが疲れの蓄積したダイアナの身体に障ったのかもしれない。
ハミルトン氏の言葉通り、ワーグスビューはひと気がまばらだった。海に近く、季節さえ合えば国中から客が訪れる繁華な観光地だ。
その目抜き通りの一角の邸宅に部屋を取ることが出来た。通常なら予約で埋まり、飛び入りでは決して宿泊は叶わない。海風が冷たく吹く中ではどこも開店休業状態で、閉めた店も多い。
ハミルトン氏は医者を呼ばせた。エマはダイアナに付き添い、力の弱い手を握った。
医者の見立てでは疲労とのことで、処方された薬を飲み休むことになった。
「三日は動かれてはいけません。無理がたたると肺炎になることもありますから」
ハミルトン氏はそれに頷いた。
「せっかくのいい宿だ。ダイアナさんにはゆっくり休んでもらおう」
熱のため、潤んだ目でダイアナは詫びを言う。
「……明日には起き上がれると思います。早くお帰りにならないと、アメリアたちが寂しがるわ……」
「乳母もいるし、邸には至急わたしから手紙を送る。大した遅れではないから、安心してほしい」
何の躊躇もなく言う様子に、エマはありがたいと思った。日延だけでなく、滞在することで余計な出費を強いるのに、気にする様子もない。
裕福だから当然、とは言い切れない。資産家であっても、予定外の出費に吝い者は多い。
(しかも、他人のために)
この振る舞いだけでも、彼女は姉に彼が相応しく思えた。
旅を経験するのは初めてで、エマの目に全てが新鮮に映る。馬車での移動中、ハミルトン氏は姉妹によく話しかけた。
「あなた方はよく似ている。仲のいい姉妹はそういうものなのかな」
背格好や外見は生まれ持ってのものだが、エマは姉を手本にして育った意識が強い。母に似て優しく温和なダイアナのようになりたいと、言葉も仕草も意識して過ごしたことを覚えている。
「幼い頃から何でも姉を真似てきました。でも、そっくり真似られなかったのは優しさです。わたしは姉ほど思いやり深くなれなくて…」
ハミルトン氏の子供たちに向ける情愛は、エマには尊敬に値した。また、何か物を言う時も、いつも相手のことを気遣った発言をする。好きになれない相手にもそうだ。
以前、耐えかねた彼女がオリヴィアに言い返したことがある。それも、ダイアナならもっと上手く、こちらの品も下げることなく切り返しただろうと思う。
「エマはわたしより強いわ。どうしようかと次の手を考えられるもの」
「上手くいかないけれどね」
「そんなことないわ」
エマの手をダイアナが握った。
「我が家の姉妹もそのように育って欲しいものだ。先生が優秀だから、大いに期待しているよ」
姉からも聞き、彼女も小さな姉妹に会うのが楽しみだった。
話して接して、ハミルトン氏は好人物だと思った。年齢と責任から落ち着いた物腰で、立派な資産家でありながら高圧的でない。
妹の目から見て、控えめにしているが、姉の様子で彼への思いはもう明らかだ。
(ダイアナが好きになった人だもの)
自然、エマもそんな目で彼を見るようになる。信用も好感もより増すのは当然だった。
途中休憩を挟み、旅は続く。
ハミルトン氏は無理な旅程を組んではおらず、そのおかげでエマも道中を楽しめた。奇岩の名所を歩くことも出来たし、景色の美しい高台も眺められた。ある村で宿を取って一泊し、その翌日だ。
昼を過ぎたところから、彼女はダイアナが体調を崩しているのに気づいた。青ざめた顔をし、無理をしているのがわかる。
手や頬に触れるとひどく熱かった。
「大丈夫よ、少し馬車に酔ったのかしら?」
力なく微笑む。
ちょうど休憩で馬車を下り、散策していたところだった。ハミルトン氏は姉妹と離れ、別な旅人と会話をしていた。
「いつから? ごめんなさい。わたし気づかなかった」
姉の腕を取り、馬車に戻った。御者の手を借り座らせる。もたれるようにしている様は辛そうだ。
「…少し休めば、平気よ」
「ハミルトンさんにお知らせするわ」
「いいの」
止める姉を置き、彼女は小走りにハミルトン氏の元へ向かった。ダイアナの様子を伝えると、彼はすぐに馬車へ取って返す。
「気づけずに申し訳ない」
と、詫びた。御者へ指示を出す。
「ワーグスビューが近い。そちらへ向かってくれないか。閑散期でちょうどいい。どこも空いているだろう」
のち、エマに有名な観光地へ向かうと告げた。
「季節外れで寄るつもりもなかったが、そこなら医者も呼べる」
ぐったりとしたダイアナをエマは自分の肩にもたれさせた。苦しそうに目を瞑り、呼吸も浅い。早く横にさせたいため、彼の判断はありがたかった。
風が冷たく感じることもあった。その中を歩くことも多かった。それらが疲れの蓄積したダイアナの身体に障ったのかもしれない。
ハミルトン氏の言葉通り、ワーグスビューはひと気がまばらだった。海に近く、季節さえ合えば国中から客が訪れる繁華な観光地だ。
その目抜き通りの一角の邸宅に部屋を取ることが出来た。通常なら予約で埋まり、飛び入りでは決して宿泊は叶わない。海風が冷たく吹く中ではどこも開店休業状態で、閉めた店も多い。
ハミルトン氏は医者を呼ばせた。エマはダイアナに付き添い、力の弱い手を握った。
医者の見立てでは疲労とのことで、処方された薬を飲み休むことになった。
「三日は動かれてはいけません。無理がたたると肺炎になることもありますから」
ハミルトン氏はそれに頷いた。
「せっかくのいい宿だ。ダイアナさんにはゆっくり休んでもらおう」
熱のため、潤んだ目でダイアナは詫びを言う。
「……明日には起き上がれると思います。早くお帰りにならないと、アメリアたちが寂しがるわ……」
「乳母もいるし、邸には至急わたしから手紙を送る。大した遅れではないから、安心してほしい」
何の躊躇もなく言う様子に、エマはありがたいと思った。日延だけでなく、滞在することで余計な出費を強いるのに、気にする様子もない。
裕福だから当然、とは言い切れない。資産家であっても、予定外の出費に吝い者は多い。
(しかも、他人のために)
この振る舞いだけでも、彼女は姉に彼が相応しく思えた。
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