【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

第二十九話北の激戦、覚悟の一矢

第二十九話：北の激戦、覚悟の一矢

北部要塞での攻防戦は、帝国の存亡をかけた戦いとなった。補給拠点を破壊したことで、グランゼル王国の軍勢は足踏みを余儀なくされていたが、その遅れも長くは続かない。

「敵軍が動き出しました！」
見張りの兵士が叫ぶ。要塞の高い防壁から望遠鏡を覗くと、山の麓に広がる平地にグランゼルの軍勢が集結しているのが見えた。数千を超える兵士が整然と並び、旗を掲げている。その光景には圧倒されるものがあった。

「奴らは明日には総攻撃を仕掛けてくるだろう。」
ゲラルト将軍の声には重い緊張が滲んでいた。

「兵の士気を高めるためにも、私が前線に立つ。」
俺はそう宣言すると、将軍も深く頷いた。

「カシム殿、あなたの戦いぶりが兵たちの士気を大いに鼓舞するだろう。しかし、無茶はしないでくれ。」

決戦前夜

夜になると、要塞全体が静まり返った。明日が決戦であることを知る兵士たちは、それぞれに覚悟を固めている。俺は壁際で夜空を見上げながら、ゼイドとサリナ、そしてアゼルと話していた。

「アゼル、お前がもたらした情報のおかげで、ここまで準備が整った。だが、戦いはこれからだ。」

「承知しています。グランゼルの兵たちも自分たちが優勢だと信じているでしょう。しかし、それを覆すのが私たちの使命です。」

「カシム様、今回の戦いでまた帝国内での評価が上がるでしょうね。」
サリナが微笑みながら言った。

「評価なんてどうでもいい。ただ、帝国を守る。それだけだ。」

そう言いながらも、内心では自分の行動が未来にどのような影響を与えるのかを考えていた。俺がこの戦いに勝利すれば、冷遇されていた第六皇子という立場が変わる可能性もある。だが、それ以上に重要なのは、ここで命を懸けて戦う全ての人々を守ることだ。

総攻撃の開始

翌朝、グランゼル軍は動き出した。山を越えて要塞に向かって進軍する様子は、まるで押し寄せる大波のようだった。

「敵軍、接近！ 全兵配置につけ！」

ゲラルト将軍の号令が響き渡る。要塞の兵士たちはそれぞれの持ち場で武器を構え、緊張感が極限に達していた。

俺は弓兵部隊の近くに立ち、状況を見守る。最初に動いたのは敵の弓兵だった。遠距離から矢の雨を降らせ、こちらの士気を削ろうとしている。

「盾を上げろ！ 弓兵は迎撃準備！」

要塞の防御が厚いとはいえ、弓の攻撃はじわじわと兵士たちを消耗させる。俺は周囲の兵を鼓舞するために叫んだ。

「恐れるな！ 俺たちはこの要塞を守るためにここにいる！ 敵がいくら多くても、この防壁を越えることはできない！」

俺の言葉に応じて、兵士たちの士気が少し上がったように感じた。

奇襲作戦

グランゼル軍が要塞の正面に集中している間、俺たちは裏手から奇襲を仕掛ける計画を進めていた。

「サリナ、ゼイド、準備はいいか？」

「もちろんです、カシム様。」

「これが成功すれば、敵の隊列を乱せるはずだ。」

俺たちは選りすぐりの兵士を連れて、密かに要塞を出た。山道を抜け、敵の側面へと回り込む。敵は正面攻撃に夢中で、こちらの動きに気づいていない。

「狙いは敵の補給車両だ。これを破壊すれば奴らの攻撃力が大きく削がれる。」

アゼルの案内で補給車両を見つけた俺たちは、音もなく接近し、一気に攻撃を仕掛けた。火薬を仕掛け、馬車を破壊する。補給物資が燃え上がり、敵陣が混乱に陥る。

「撤退だ！」

俺たちは混乱の中を抜け出し、再び要塞へと戻った。

最終防衛線

奇襲が成功したとはいえ、グランゼル軍の圧倒的な数を覆すことは容易ではない。敵の総攻撃が本格化し、要塞の防壁が次々と破壊され始めた。

「持ちこたえろ！ ここが正念場だ！」

俺は剣を手に取り、兵士たちと共に最前線で戦った。敵が壁をよじ登ってくるたびにそれを阻止し、攻撃の手を緩めない。

だが、敵の猛攻は止むことを知らない。防壁がついに突破され、敵兵が雪崩れ込んできた。

「ここで引くわけにはいかない！」

俺は渾身の力で敵兵を斬り伏せながら、仲間たちを鼓舞した。

勝利の兆し

その時、遠くから号令が響いた。

「帝国軍の援軍が到着しました！」

後方から現れたのは、ゲラルト将軍が密かに呼び寄せていた主力部隊だった。援軍の到着により、グランゼル軍は一気に劣勢に立たされる。

「押し返せ！ 敵を撃退するんだ！」

俺たちは援軍と共に反撃を開始し、ついに敵軍を撤退に追い込んだ。

戦いの後

激戦の末、北部要塞は守られた。俺たちは疲労困憊だったが、勝利の喜びに包まれていた。

「カシム様、あなたの指揮のおかげでこの要塞は救われました。」
ゲラルト将軍が深々と頭を下げる。

「皆が力を合わせた結果だ。これで帝国を守ることができた。」

だが、この勝利は一時的なものに過ぎない。帝国と王国の緊張は依然として続いており、さらなる戦いが予想される。

「次の戦いに備えよう。俺たちの戦いはまだ終わっていない。」

俺はそう言い、再び剣を握り直した。