【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

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第八十話黒紋の幹部

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第八十話:黒紋の幹部

◇◇◇

「ならば……お前を倒して、俺を狙った黒幕を吐かせてもらう!」

カシムは剣を構え、一気に間合いを詰めた。

目の前の男——黒紋の幹部とされる者は、薄く笑うと悠然と短剣を抜いた。

「面白い。第六皇子殿下、自ら剣を振るうとはな。」

男の声には余裕があった。それもそのはず、彼の背後にはまだ数名の暗殺者が控えている。カシム一人に対し、敵は複数。

だが、カシムの目は揺らがない。

「黙れ。」

その言葉と同時に、カシムは踏み込み、剣を振るった。

◇◇◇

——倉庫街の闇に舞う剣閃

カシムの一撃は鋭かった。

黒紋の幹部はすんでのところで短剣を交差させて受け止める。しかし、その衝撃で足がわずかに後退する。

「……ほう。」

幹部の目が細められた。

「見かけによらず、なかなかの腕前だな。」

「お前のような下手な挑発には乗らない。」

カシムは即座に二撃目を繰り出した。

斬撃の速度が一瞬上がる。幹部の短剣がカシムの剣を受け止めるが、その力に押され、さらに数歩下がった。

しかし——

「——フッ!」

幹部の口元がわずかに歪む。

直後、彼の周囲にいた暗殺者たちが一斉に動いた。

「チッ!」

カシムは瞬時に体を回転させ、背後から迫る刃を紙一重で避ける。

そして、反撃。

剣を振るい、一人の暗殺者の胸を深く貫いた。

「ぐっ……!」

血が噴き出し、暗殺者の体が崩れ落ちる。

しかし、残る者たちは怯むことなく動き続けた。

「なるほどな、数で押すつもりか。」

カシムは素早く状況を分析し、次の動きを決める。

(このまま囲まれ続けるのは得策ではない。)

一度距離を取るべく、カシムは足を踏み込み、壁を蹴って跳び上がった。

倉庫の梁へと飛び移る。

——高所を取れば、視界は有利になる。

敵の動きを上から把握しながら、カシムは一瞬で戦局を見極めた。

幹部はまだ動かず、傍観している様子。

(……自分が出るまでもない、というわけか。)

ならば——

「お前たちを一掃する!」

カシムは梁の上から跳び降り、勢いをつけて地面に着地する瞬間、一気に剣を振るった。

鋭い風圧と共に、数名の暗殺者が吹き飛ぶ。

◇◇◇

——戦闘の趨勢

「チッ……!」

暗殺者たちは冷静さを保とうとしながらも、確実に動揺していた。

カシムはそれを見逃さない。

「終わりだ。」

次の瞬間、カシムは残る敵の一人の懐に踏み込み、剣を横薙ぎに振るった。

「——ぐっ!」

斬撃が相手の鎖骨を裂き、暗殺者が膝をつく。

その隙を逃さず、カシムはさらにもう一人を突き倒し、剣を振り下ろした。

——瞬く間に、残る暗殺者たちも沈められていく。

そして、倉庫の中に立つのはカシムと幹部、二人だけとなった。

◇◇◇

「……まさかここまでやるとはな。」

幹部は苦笑しながら短剣を持ち直した。

「さすがは皇族……いや、“戦場の申し子”とでも呼ぶべきか。」

「……時間稼ぎのつもりか?」

カシムは剣を向けながら睨みつける。

幹部は微かに笑い、ゆっくりと後退した。

「さて……そろそろお開きとしよう。」

そう言うや否や、彼は懐から何かを取り出し——

「——煙幕か!」

瞬間、濃い煙が倉庫内に広がった。

カシムはすぐに反応し、剣を振るって煙を払おうとする。

しかし、視界は一気に閉ざされた。

「逃がすか!」

カシムは気配を頼りに前へと突進する。

しかし、すでに幹部の姿は消えていた。

「……ちっ。」

剣を収め、カシムは煙が晴れるのを待った。

そして、ようやく視界が開けると——

倉庫内には、幹部の姿はなかった。

「逃げられたか……。」

カシムはわずかに唇を噛みしめる。

しかし、今回の戦闘で得られたものもあった。

「黒紋が俺を狙う理由……それがどこに繋がるのか、追うしかないな。」

戦いは終わったが、カシムの闘志はさらに燃え上がるばかりだった。
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