【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう

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第八十六話影に潜む刃

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第八十六話:影に潜む刃

戴冠式の前夜、王宮の空気は張り詰めていた。

貴族たちは表向きは華やかに振る舞いながらも、その裏では静かな駆け引きを続けている。グレンを皇帝として迎える者もいれば、内心では彼の即位を快く思わない者も少なくない。

だが、王宮の中で最も緊迫していたのは、警備に当たる近衛兵たちだった。

「異常はないか?」

近衛兵の隊長が王宮内の巡回を終えると、部下たちは一斉に敬礼した。

「はい、現在のところ特に異常は見当たりません。」

「そうか……だが、気を抜くな。何かあればすぐに報告しろ。」

「承知しました!」

隊長は部下たちに指示を出しながら、内心で焦燥感を募らせていた。

(どうにも落ち着かない……まるで嵐の前の静けさのようだ。)

彼はふと、通路の奥に影が動くのを感じた。

「誰だ!」

鋭い声と共に剣を抜き、影の方へと駆け寄る。

しかし——

「……っ!」

彼が辿り着いた時には、そこにはすでに誰もいなかった。

(気のせい……ではないな。)

かすかに残る血の匂いが、暗殺者の気配を物語っていた。

◇◇◇

その頃、カシムは王宮の地下に潜入していた。

「……やはり、ここに通じていたか。」

彼が足を踏み入れたのは、かつて皇宮の脱出口として使われていた隠し通路。

普段は封鎖されているはずのその通路が、今はかすかに開いていた。

(誰かがここを通った形跡がある……やはり内部に裏切り者がいるな。)

カシムは慎重に奥へと進む。

すると、前方から小さな明かりが見えた。

「——準備は整ったか?」

「問題ない。あとは戴冠式の最中に——」

(……やはりここか。)

カシムは壁際に身を潜めながら、会話の内容を探る。

どうやら、暗殺計画の首謀者たちがここで密談しているらしい。

(このまま突入してもいいが……まずはもう少し情報を引き出すか。)

カシムは息を潜め、さらに耳を澄ませた。

「標的はグレン陛下だが……もう一つ、排除すべき者がいる。」

「……?」

「カシム殿下だ。」

「——!」

カシムの目がわずかに細められる。

「彼は危険だ。今すぐでなくとも、いずれ陛下の脅威になる。」

「確かにな。ここで一緒に始末しておくか?」

「ふん、それがいい。だが、慎重にやれ。彼はただの皇子ではない。」

密談の内容を聞き終えたカシムは、ゆっくりと短剣を抜いた。

(さて……どう動くか。)

「わかっている。だが、戴冠式の混乱に乗じれば——」

その瞬間、わずかに空気が揺れた。

「——っ!」

男たちは反射的に身を引く。しかし、彼らが動いた時にはすでに遅かった。

「——そう簡単にいくと思うか?」

静寂を切り裂くような声とともに、カシムは影の中から姿を現した。

彼の手には抜き放たれた短剣が握られている。

「……貴様!?」

驚愕に目を見開く男たち。

「悪いが、密談の内容はすべて聞かせてもらった。お前たちの計画はここで終わりだ。」

「チッ、やれ!」

男たちはすぐに行動を起こす。懐から短剣を取り出し、一斉にカシムへと襲いかかった。

しかし——

「遅い。」

カシムは最小限の動きで攻撃をかわし、一人目の男の手首を掴むと、そのまま短剣をひねり奪い取る。

「ぐっ……!」

奪われた武器が一瞬のうちに男の喉元に突きつけられる。

「一人目。」

淡々と告げると同時に、カシムは短剣を深く突き刺した。

「が……!」

男は崩れ落ちる。

「貴様ぁ!!」

残った二人が怒りに燃えながら襲いかかる。

カシムは素早く後退し、壁を蹴って跳躍すると、天井の梁を掴み、そのまま背後に回り込んだ。

「なっ……どこへ——!?」

「後ろだ。」

次の瞬間、二人目の首筋に手刀が打ち込まれる。

「ぐっ……!」

意識を刈り取られた男が崩れ落ちた。

残るはあと一人。

「くそっ……!!」

最後の男は必死に剣を振るうが、カシムはそれを見切っていた。

「終わりだ。」

鋭い蹴りが男の膝を砕き、続く一撃でその意識を奪った。

◇◇◇

カシムは倒れた男たちを見下ろしながら、静かに息を整えた。

(これで密談をしていた連中は片付いた……だが、黒幕は別にいる。)

戴冠式の直前、これほど周到な計画を立てている以上、王宮内部に協力者がいるのは間違いない。

(……となれば、次に狙うべきは——)

カシムは懐から小さな巻物を取り出した。それは、王宮内の極秘通路の地図だった。

(黒幕を突き止めるには、さらに奥へ進む必要があるな。)

カシムは剣を握り直し、王宮の地下深くへと足を踏み入れた——。
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