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優子のブラジャーを救出せよ

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 優子のブラジャーを救出せよ


「今日もいい天気~♪」

 学校帰りたる真治のとなりを歩くクラスメートの橘高重が、有名な曲を口ずさんだ。

「なんかノッてるねぇ」

 なんかいい事あった? と真治が聞いてみると、重はなかなかかっこよい事を口にする。

「いい事なんかないけど、でもたのしくふるまっていれば、たのしい事がやってくると思って」

「おぉ、橘高って前向きな人間だ」

「ふふ、そうさ、そうやって前向きにいれば夢だって叶う」

「夢と来た! 橘高の夢ってなに?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれた!」

 要するにこれが言いたかった! とばかり、ちょっぴり顔を赤らめながら言い始めた。

「おれさ、真治のお姉ちゃんみたいな彼女が欲しい!」

「えぇ……どうしたんだよ、どっかでアタマ打った?」

「お姉ちゃんを侮辱するな、それ絶対許さないぞ」

「じゃぁ聞くんだけど、どこがどんな風にいいんだよ」

「もちろん今から語っちゃる!」

 真治の友人たる橘高重は、いまこそおれの出番! とばかりアツい思いを語った。

 真治の姉こと中野優子、2つ年上の小6女子。それ重のハートにとっては、最上級の好み。英語でいうベリーを100個つけてもまだ足りない。それはなぜか?

「たしか……ショートレイヤーだっけ? あの髪型が似合ってかわいいし、少しふっくらして美白でやさしい感じだし、しかもすごいおっぱいが大きい! これってもう女神じゃん! 真治はそう思わないのか?」

「ま、まぁ……けっこう巨乳なのはたしかなんだけど」

 真治は優子が巨乳女子になっていく物語を、一番ちかい所で見ていたひとり。それがゆえ、おっぱいが大きいという点には感情込みではげしく同意。でも他の部分にはちょっと突っ込む。

「そ、そりゃまぁかわいいとは思うけど、そんなに興奮するほどではないような気が」

「真治は女を見る目がないなぁ」

「やさしいっていうのも、半分は当たってると思うけど、別にそんな……甘えさせてくれるようなわけでもないよ?」

「おれが真治だったらさぁ、絶対告白してる」

「えぇ……」

「真治、変われよ! あるいはお姉ちゃんを譲ってくれよ」

「あほか……」

 話していてあきれた。でもくわしく聞かされると同情するところもあった。橘高重には姉ではなく兄しかいないからだ。

「兄とかめっちゃうざい」

「そ、そうなの?」

「毎日思う、早く他界すればいいのにって。真治にはわからないよ。かわいくておっぱいが大きいお姉ちゃんを持っているやつに、おれのこのつらいキモチがわかってたまるもんか」

 重はちょっとすねた。そんな姿を見て、真治はちょっとばかり思った。そうか、自分はけっこうシアワセだったんだなと。

ー一方そのころー

「あぁ、面倒くさいなぁ」

 一足先に帰宅していた優子は、洗濯物を取り入れるためにベランダに立っていた。ずらーと並ぶ衣服だの下着だのを見て怠け者のためいきを落とす。

「さっさと取り込んじゃおう」

 風にやわらかい髪の毛を撫でながら、テキパキと洗濯物をカゴに放り込んでいく。そして優子の手は白いフルカップをつかんだ。Eカップってサイズのそれは自分のモノだだ。

 そのときヒューっとイタズラな風が吹く。油断しまくりだった手から、たいせつなブラをうばいとられた。Hな神さまにイタズラされてしまった。

「あ! やだ、なにそれ?」

 青ざめる優子の目は飛んでいく白物を見る。風に乗って泳いでいくは乙女のフルカップ。手を伸ばそうにもすでに手遅れ。たまらず優子は大きい声を出した。

「ブラが……」

 そのとき中野家のすぐ近くに来ていた真治と重が立ち止まる。

「い、いまさお姉ちゃんがブラとか言わなかった? ブラってブラジャーの事だろう?」

 重が言って顔を上げると、そこにはいとしい巨乳女子の姿がある。その目先には白い大きいサイズのブラジャーがフワフワ流れていく絵。

「あ、あれって……」

 真っ赤な顔する真治はすぐに理解した。あの泳ぐように飛んでいくホワイトブラは姉のモノだって。

「お、お姉ちゃんのブラジャー?」

 真治より頬を赤くする重。とつぜん真剣な顔になって、真治に自転車を出せとギャーギャー言い出す。

「じ、自転車? なんで?」

「決まってるだろう。お姉ちゃんのブラジャーを救出するんだ」

「救出って……」

「真治、女の子のためにがんばるのが男だろう?」

 重はアツい姿を見せられたら、真治だってジッとはしていられない。愛機こと水色の自転車をひっぱりだすのは当たり前。

「真治、おれが運転する、おまえ後ろ」

 正義のヒーローみたくやる気マンマンの重がいた。好きな人のために心を燃やす正しい姿がそこにあった。

「レッツ・ゴー」

 のっけからグワーッとペダルをかき回す重、それは水色物体にすごい速度を出させる。

「ちょ、速すぎ……」

 後ろにのっている真治がぞっとする。それはもうチーターもびっくりするほどの速度。やったぜ危険運転! というレベルそのもの。愛する人のブラジャーを守るために少年はとまらない。
 
「お姉ちゃん……」

 重の中に妄想っていうのが芽生えてきた。ムクムクっとデカくなってきたそれは、とっても甘いストーリー。

ー橘高重の妄想ー

 ブラジャーを救出して持ち主に感謝される。そこからはじまった恋愛は急成長。数年後にはムフフな時間で甘くとろけてしまうなどなど。

 ここでいきなり風がよわまった。ふっと肩の力を抜いたようによわまったので、白いフルカップが落下し始める。それを見知らぬオバさんが手に取ろうとする。

「あ、やばい」

 重は自転車をはげしく回転させる。オバさんなんて口うるさい生物に取られたら、返してくれと言っても何か突っ込んでくるだろう。

「守る! お姉ちゃんのブラジャーはおれが守ってみせる!」

 それはいわゆる愛だった。猛スピードで突進すると、オバさんより先に白いブラをつかむ。優子のために役立ちたいと思う心の勝利だ。

「こらぁ!」

 オバさんが後ろでなぜか怒っている。

「うっせーよ、これおまえのじゃないだろう」

 そう言って重は白いEカップをカゴに入れようとする。ところがイヤな強風が再発したせいで、ブラジャーが再び空に舞い上がっていく。

「不覚……」

 イライラする重は、真治を後ろに乗せて再始動。汗いっぱいいなりながら自転車をこぎまくる。

「橘高、疲れてないか?」

 友人を心配して声をかける真治。

「へっちゃら。好きな人のためなら、男はいつだって全快でなきゃダメなんだ。持てる力をフルに使う。だって、それが男が女にできる愛だと思うから」

 感動的なセリフを吐く重だった。それを神さまが評価したのか、また風が弱まる。そうして優子のブラジャーは公園ってところへ落ちていく。

「は? なんだ……」

「天から白いブラジャーが落ちてきたぞ?」

 公園のベンチでだべっていた大学生らしい男2人組は、とつぜん舞い降りてきたモノにびっくり。思わず立ち上がって近づいてみた。

「な、なんかそれなりにデカいな……」

「巨乳サイズじゃん! これは欲しい気がする!」

 ヘヘヘと一人がうれしそうに笑って、地面のモノに手を伸ばそうとしたら、そこに自転車がかけつけ声も出した。

「ちょっと待った!」

 ゼーゼー息を切らす重は、自転車を止めると訴えた。これは友人の姉のモノだから触ったりしないでと訴える。

「姉? そいつの姉ちゃんのブラジャー?」

 男は真治の方を見た。それは小4くらいにしか見えない。それの姉ってことは……中学生くらいか? と言ってみたりする。

「小6……です」

 言いたくなかったが、言わなきゃいけないって状況ゆえ真治が答えた。

「おぉ! おまえの姉ちゃんって巨乳か! だったら紹介してくれよ!」

 いきなりぶっ飛びなことを言われて真治は面食らった。イヤに決まっている! と思うから、イヤです! と即答。

「じゃぁ返さない。これはおれがもらう」

 男がそう言って手を伸ばそうとしたら、ここで橘高重が男を見せた。それはダメだ! と言ったのみならず、欲しかったらおれを倒してからにしろとか続けたのである。

「は? おまえ本気?」
 
 ヘヘヘと笑いながら近寄ったら、男は重の胸倉をぐっとつかむ。

「ほ、本気……だ」

「じゃぁよ、殴ってもいいんだな?」

「な、殴られたって負けない」

「そうか」

 ガン! といきなり重はなぐられた。ハデにやられたから、ズサっと音を立て地面に転がる。たまらず鼻を抑えようとしたら、こんどは顔面っていうのを足蹴りされた。でも小学生がしぶとく頑張るから、男は大きな声で言う。

「おまえ、このブラジャーの持ち主が好きってか? だから勇者になって戦うとかいうのか?」

 ケケケと笑いながら重のアタマをぐりぐり踏みつける男。しかし踏みつけられても重はくじけない。もう一人の男に抑え込まれている真治も、胸を痛めながら重を応援する。

「言ってみろ、ぼくは無力だ……好きな女の子を守ってやれない弱虫だって。そしたら許してやる」

 男にそう促されても橘高重はへこたれなかった。そうして10分後くらいすると、公園の真ん中に仰向けに倒れていた。自分のプライドと優子のブラジャー守ったゆえに。

「橘高、だいじょうぶか?」

 真治の目にうかぶ少量の涙。

「へへ……おれ……負けなかったぞ」

 ググっと体を起こした重、水道の水で顔を洗って自分を誇る。その姿を見て真治は言った。

「橘高……おまえこそほんとうの勇者だよ。世界で一番かっこういいよ」

 夕方の公園を背にして、2人の自転車は中野家に向かっていく。こんどは真治が運転しているのだが、前かごに入れた姉のブラジャーを見ながら、きょうの事は包み隠さず報告しようと思った。

(お姉ちゃんが橘高にホレてしまうかも……)

 そう思うとややキブンは複雑になる。でも、そうなったら素直に2人を祝福してやろうとやさしく思う真治であった。

「ただいま! お姉ちゃん、ちょっといい?」

 帰宅した真治、すぐさま優子ルームのドアをたたいた。

「いいよ」

 内側から聞こえはダラけ中って感じの声。真治がドアを開けると、ベッドに仰向けコミックを読む優子がいる。色白むっちりな両足は色っぽい大根! なんて思いつつ、真治は手に持っていたブラジャーを差し出した。

「は、はぁ? なにこれ」

 ギョッとして慌てる優子。立ち上がると勝手に話を決めつけ、真治の頬を思いっきりひねり上げる。

「勝手に人のブラを失敬して何してたのかなぁ真治!」

「ちがうってば」

 真治はヒリヒリする頬を抑えながら事情を説明した。これはホメられてしかるべき話なんだよとにっこり。一方の優子は顔を赤くしてググっと唇をかんだ。まさか見られていなんてと、言いようのないイライラに襲われる。
 
「余計なことしなくていいんだよ」

 ふっと飛び出した優子のつめたい言葉。

「よ、余計なこと?」

 信じられない! と真治は目を丸くした。

「思いっきり飛ばされた時点で、わたしはブラをあきらめていたんだよ。それに地面に落ちたブラなんて使いたくない。そんなの乙女のおっぱいが許しませんって話」

「そんな……こっちは必死で救出してきたんだよ?」

「救出してくれと頼んだおぼえはない」

 白いフルカップをベッドに置くと、早く出て行ってくれと、弟の背中を両手で押す優子。

「ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃん」

「なに?」

「お、お姉ちゃんのブラジャーを守るために、友達ががんばってくれたんだよ? それには感謝しないの? 勇者に感謝の言葉はないの?」

「がんばった? 勇者?」

「そうだよ、友だちはお姉ちゃんのためにミッションをクリアしたんだよ」

「真治……いいこと教えてあげようか?」

「女が頼んでないことをがんばっても無意味なんだよ」

「えぇ……」

「ありがとう、すごくうれしい! って女が言うのは、自分がお願いした時だけ。それ以外は余計なことするなって話」

「お姉ちゃん、それひどくない?」

「うるさい、早く出ていけ!」

 弟を部屋から追い出す優子。ふん! と鼻息を荒げ、両手をパンパンと払う。それからベッド上のブラを見て、頭をかきながら大きくためいき。

「あぁ、巨乳でこういうトラブルってイヤだぁ……」

 そんな事を言いながら、戻ってきたブラは葬ると決めた。そして神さまに一つお願いをする。どうかふつうの女の子として平穏に暮らさせてください! と。
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