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トンネルの幽霊2

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 トンネルの幽霊2


 世界が静まり返る午前1時、真治、優子、重の3人がトンネルの前に到着した。さすが真夜中という中にある暗いトンネルの入り口。

「だ、誰が行くの?」

 ドキドキしながら真治が言ってみたら、重が勇ましい態度で声を出す。

「そりゃぁ、おれと真治の2人じゃん!」

 コルクガンを持ってかっこうよく振る舞っている。でもそれは優子というあこがれの巨乳女子に、自分をよく見せたいって思惑が大。どのくらいデカいかっていえば、激アツの太陽くらい。

「わたしはここで見張ってるよ。なんかあったらすぐ駆けつけるから」

 大人っぽく言っている優子の声は、こわい話には男が先頭であるべき! 的な感が漂っている。

「じゃぁ……行こうか」

 真治は重と並んでゆっくり進み始めた。ぽっかり開いている口みたいなトンネルは、ゾーッとするほど真っ暗。あの世への入り口って表現が似合いまくっている。

「幽霊がかわいくて巨乳な女子だったらいいのになぁ」

 トンネル内で大きな声を出す重。

「ったく……少し声のボリュームを下げて……」

 真治はあきれながら言っていたが、途中でセリフが切れた。歩行の足もストップした。

「あ、あれ……あれ!」

 右人差し指を前方に向け、重にあれを見ろ! と促す。

「いきなり幽霊だ!」

 重が言った事は正しい。トンネルのど真ん中に、学校で使っているのと同じ机とイスがあって、青白いオーラを立てながらひとりの少女が座っている。

「真治、行け!」

 いきなり重は真治の背中を押す。

「なんだよ、いっしょじゃないのかよ」

「だいじょうぶだ、何かあったらおれが幽霊を撃ってやるから」

「まったくもう……」

 ガクガク、ブルブル、おびえながら真治が歩き出す。あれはどう見てもこの世の人様でない。そんなところへ自ら歩み寄るっていうのは、心臓が冷え冷えするように怖い。

「きみ、わたしの彼氏になってくれる?」

 突如として幽霊少女から言葉が出た。

「え、え? か、彼氏?」

 おどろいた瞬間、びりびり! として真治が身動き不能と化す。

「わたし小6の女、きみも同じ小学生でしょう? だったら付き合おう。それともなに? わたしみたいな女はダメかな?」

 ユラユラっとイスから立ち上がる少女。その動作はすべてがエア的でうつくしい。ユラーっと空気の海を泳ぐようにして、真治へ向かってくる。

「い、いや……ぼ、ぼく……」

「どうしたの? わたしってそんなにブスかな?」

「ぶ、ブスじゃないけど……」

 真治はちょっと言いづらかった。幽霊少女は決してブスではない。でもそれと好みは別の問題。さらに言うと、幽霊少女は巨乳とはまったく無縁。真治のハートがブルブルする事はない。

「真治! どけ、おれに任せろ!」

 後方にいた重が、腕につけたライトを照らしながら、持っていたコルクガンを撃つ。それが幽霊少女の顔面に当たる。

「どうして? かわいい女の子を攻撃して胸が痛んだりしないの?」

 幽霊少女に言われると、重は連射しながら叫んだ。

「かわいいけど好みじゃない! それに全然巨乳じゃないアウトオブ眼中! 立ち去れ幽霊! ここはおまえのいる世界じゃない!」

 重が吠えて攻撃する。でもそれは幽霊少女を怒らせた。途端に表情が本格ホラーとなる。口が避けトラのような犬歯が出る。

「失せろ!」

 幽霊少女が腕を降ると、触られてもいないのに重はつよく押された。固いカベに背中をはげしく打ち付けたことで、ばったり倒れて気絶する。

「えぇ、橘高……いきなり気絶?」

 両足をガクブルさせる真治、幽霊少女に睨まれ問われた。

「おまえは巨乳が好きなのか?」

「は、はい……大好き……」

 バカ正直に答えたりするから、幽霊少女の顔がますます崩れておそろしいモノになる。今にも泣きだしそうな真治を、猛獣みたいな口で食い殺しかねない。

 そのとき、2人の戻りが遅いからと心配していた優子がやってくる。弟を心配する姉は、当然ながら名前を読んだ。

「真治!」

 その声を聞くと幽霊少女の目が、真治から優子へと移動。そうして突然に何かを思い出したかのようにワナワナ震えだす。

「女、おまえ……わたしと同じ小6くらいだろう!」

 幽霊に怒鳴られドキドキしながらも、優子は毅然と返事をする。

「そ、そうだけど……それがなに?」

「おまえ……そのTシャツのふくらみ具合はかなりの巨乳と見た! 何カップか言え!」

「え? え?」

「言わないとおまえの弟を食い殺す!」

「ま、待って、い、今のところ……い、Eカップ……」

「Eカップ? 乳は? 乳は何cm?」

「ち、乳っていうかおっぱいは……89cmくらい……」

「89cm……Eカップ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 優子のサイズを聞いたら幽霊少女が発狂した。トンネル内に響き渡るほど絶叫すると、憎しみの目を優子に向けて言うのだった。

「わたしが生きていたとき……めちゃくちゃ性格の悪い巨乳がクラスメートにいたんだ。おまえはその女にちょっと似ている。自分の乳が豊かだからって自慢ばっかりして、全然胸の無かったわたしを散々バカにした。だからわたしは自殺なんかしてしまったんだよ」

 すると優子はおびえつつもキッパリと反論。

「わたし、そんなひどいこと思ったりやったりしない。そんな女と一緒にされたくない」

 するとますます幽霊少女は怒りに燃えていく。

「だまれ、だまれ、だまれ! 巨乳はみんな性格が悪いんだ。乳ばっかり考え、頭と心を何も養わないボンクラ。人の心を学ばず乳しか育成しないクソったれなんだ。それが巨乳って女の正体なんだ」

 かなしい、あまりにもかなしい……そんな幽霊少女は真っ赤な目で優子をおびえさせると、ギッとつよく睨みつけた。

「ぁぅ……」

 優子の体に生じたビキビキ縛り。それは極上の金縛りと呼ぶにふさわしい。まったく、どうあっても解けず動けない。そこに幽霊少女の声がかけられる。

「いい事を思いついた。今から巨乳の体をのっとる! 自分の体が巨乳だったら、どれくらいたのしくてキモチイイかたっぷり味わう。それからあの世に旅立たせてもらうわ。そうすれば巨乳、おまえはわたしの仲間になるんだ。かわいくて巨乳だけど、誰とも愛し合えない惨めな幽霊になるんだ」

 ハハハハと笑い、おびえ涙うかべる優子に近づく幽霊。そしてほんとうに優子の中にスーッと入っていた。消えたのではなく入ったってことは、優子に生じる変化が証明となる。

「ふふふ」

 突然に優子の両目が赤くなる。そうして口からトラもびっくりするような犬歯を出す。そうして物騒な事を言うのだった。

「これが巨乳の体か……今からたっぷりたのしもう。でもその前に、犬歯が疼くからひとり葬ろうかな。弟とかいうのをこの世から抹殺しようかなぁ」

 腰が抜けて動けない真治、おそろしき存在と化した姉に見つめられ絶体絶命。

「お、お姉ちゃん……」

 殺されてしまう、真治はそう思った。思えば短い人生だったなぁとか、かわいくて巨乳な彼女が欲しかったなぁとか、心残りがジェットコースターみたいに駆ける。

 だがそのとき! 突如としておそろしい優子が胸に手を当てた。何やら非常に苦しいようで、両膝がガクっと落ちた。

「な、なんだこの不快感は……」

 優子の中にいる幽霊少女は、乗っ取りがうまくいっていない? と呼吸を乱す。それから両手を地面につけると、ぜーぜー息を切らしつぶやく。

「この感じ……これは……まさか人が持つ優しさとかいうのか……これは……この巨乳女子が持っている優しい心とかいうのか。それがわたしの持つ憎しみを包み込んでいるというのか」

 ダラダラっと流れ落ちる汗。幽霊少女は優子の体を完全に乗っ取れないどころか、このままでは自分の存在が消されるような気がした。なぜなら優子のやさしさは負を払拭するだけの、まさに女神のように大きなものだったからだ。

「う……うそだ……巨乳の女に優しさなんかあるもんか……巨乳はみんな性格が悪いんだ。乳のデカい女が優しさを知っているわけがない……そんなのって……そんなのって」

 幽霊少女は優子の体から追い出されそうになる。そして追い出されたら浄化されるとわかった。もう二度と苦しまないで済むという、安らぎの世界へ旅立つのだと。

「く、くやしいけど……で、でも……わたしが持っている憎しみは……この優しさには勝てない。多分、憎しみは優しさに勝てないって事なんだ」

 ここでスーッと優子から青白い光が抜け出る。少女のカタチはしておらず、おだやかでかわいい玉のように見えなくもない。

「ごほごほ……」

 汗いっぱいになってむせる優子。息を切らしながら立ち上がったら、とってもおちついたかわいい声で言われるのだった。

「ありがとう。あなたの優しさに触れたことで、わたしはやっと苦しみのない世界に逝ける。あなたのような優しい女の子と友だちになりたかった。でも……これで十分。ありがとう……ほんとうにありがとう」

 そうして光が消えた。一瞬でトンネルは真っ暗に逆戻り。シーンと静まり返り、真夜中の休息感と波調を合わせる。

「真治、だいじょうぶ?」

 立ち上がれなかった真治に、そっと手を伸ばす優子。

「お姉ちゃん……お姉ちゃん!」

 立ち上がった真治は、泣きながら優子に抱きつこうとした。

「アホか、甘えすぎ!」

 優子が真治にビッターン! とビンタする。てっきり優しく包んでくれると思っていた真治は、ジンジン痛い頬を抑えることになった。

「さ、帰るよ」

 こうして優子と真治は真夜中の世界を自宅へ向け戻って行った。そして家にたどり着いてから気づいた。橘高重を置き忘れていた……と。
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