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ブラの変な事情あれこれ

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 ブラの変な事情あれこれ


「ふわぁ……」

 歩きながら優子がアクビをつくった。もちろん思いっきり口を開けるような、乙女の美学に反するような振る舞いはしない。ちゃんと片手を当て顔を赤らめながらつくる。

「今日はずっと眠そうだねぇ優子」

 となりを歩いていた香苗がちょっと意外そうな声でつぶやく。

「コミックの読破しちゃったんだよ……朝の5時まで」

 言いながらおニューのアクビを繰り返す優子だった。信号によって立ち止まるとアタマをグラグラさせ、早く眠らせて……という心を雰囲気で思いっきりアピールする。

「優子にしてはめずらしい失態だね」

「いいよ……なんと言われても……帰ったらすぐ寝る……」

 今にもぶっ倒れそうな優子だった。「巨乳少女パイン」なんて、男子向けのエロコミックを12冊も読んだとは言えない。それは弟の持っていたモノであるが、読んでみたら意外とおもしろいから……ついつい……なんて事をやってしまったのである。

 そうして信号が変わる。フラフラっと歩き出す優子、そうして無事に渡り終えたと思ったそのとき、突然に香苗が興奮する。

「優子、ちょっと、ちょっと、あれ、あれ!」

「ん? なに?」

「あの人、あの人……ブラしてる!」

 えらくぶっ飛びって声を香苗が出す。

「はぁ? 女だったらブラするのは当然でしょう」

 言いながらまたアクビをする優子。小6ながらもバストというふくらみは89cmで、それをサポートするフルカップブラはEカップというサイズ。つまり優子は早くから巨乳コースにのっかったエリートみたいなモノ。だから香苗の興奮なんか全然興味がない。

「ちゃうちゃう、そうじゃない!」

「だからなに……」

「あの人っていうのは男性! 男なのにブラジャーしてるってこと」

「ズコ!」

 優子はいま本当のほんとうに転びかけた。もし転んでいたらめちゃくそに格好悪いから、乙女のプライドにキズがつくところだっただろう。

「お、男?」

「そう、男、オス、XY、メンズ」

 香苗は優子の目を引っ張るかのように右手の指を動かし、向こう側にいる男性の後ろ姿を指す。

「あぅ!」

 これまで散々に眠気虫だった優子も、いきなり覚醒のごとくびっくり。上半身に纏う白いシャツの下、そこにはどうみてもブラでしょう? というモノの背面がある。

「う、うそだぁ……なんていうか……ブラに似ている別の何かでしょう?」

 眠気を吹き飛ばされた優子、片手を自分の胸に当て戸惑う。我ながらほんとうに豊かとかやわらかい弾力……と思うふくらみを感じながら、自分は女という事実を噛みしめる。そうして理解できない現実に脳をギュウギュウ締められる。

「あれがブラジャーでなくて何?」

 香苗はきっぱりと言い切った。自分は優子とちがいブラジャーを必要とするような女はないが、ブラジャーというモノ自体は知っていると。

「あの人ってさぁ、後ろから見てもデブだってわかるじゃん? だからブラをしてるんじゃないの?」

 香苗がさっくり言うと、優子が赤い顔でマジに怒った。

「それ、おかしいでしょう! デブだろうとなんだろうと、男でしょう? 意味がわかんない。香苗
、どぎつい事をさっくり言うの止めてよね」

 中野優子、小6で女神レベルのバストを持つ女子。多少の事は大らかに考えたいと思っているが、あまりにきつい冗談は好まない。そういうのをひどくニガテとしているって部分が吹き出している。

「あぁ、優子、どうどう落ち着いて、落ち着いて」

 両手を開きコーフンしている優子をなだめる香苗。冗談が通じない人のやっかいさを思いながら、とりあえず巨乳少女の荒ぶったキモチを沈めてやる。それからゆっくり語りだしてみる。

「ブラっていうのは女のふくらみのためにあるわけで、そうでしかないんだけど、それを真似た変なアイテムって事かも」

 言ってすぐ優子をなだめる香苗。ただいまの優子はひどく不機嫌。いつ爆発してもおかしくないダイナマイトのよう。

「まぁ……女のモノはたいせつな乳だから、胸のふくらみは正当なモノだよね。優子が持っている豊かでやわらかい弾力のそれは、神さまから授かった正しいモノだよね。それは女しか持てない。どんなに欲しいとか思っても男は持てない。だから絶対に同類のモノじゃないと断ってから話をするんだけど……男の場合はデブの証という名の汚れたたるみ。もしかしたら極度のデブで手の施しようがなかったら、たるみを除去できないって事かも。だったら……もしかすると男でも、どうせならたるみをきれいにしたいとか考えて、それで男専用のブラジャーが生まれたって事かもしれない」

 ここまで言って一呼吸つく香苗。真っ赤な顔で怒りだしそうな優子をなだめながら、女には関係ないんだから気にしなくてもいいじゃんと言ってみたりする。

「香苗さぁ、いくら今は胸がないとか言っても女でしょう? わたしと同じ女って生き物でしょう? だったら男がブラをするとか、そんなの許せない! と思うべきでしょう? なんで平然とした顔でいられるの?」

 どうあってもまちがいは許せません! と全力で訴える優子だった。香苗の態度は同じ女として許せない! って目が燃えている。

「じゃぁ、聞くけど優子、女になりたいとかいう男がブラジャーを欲しがったら、それも変態で片付けるわけ? それって心が狭くない?」

 香苗は優子に反撃したつもりだった。優子は心が狭いのか? とか、優子はおっぱいは豊かでも人間は小さいのか? とか、言ってやろうかなと構える。

「そういう話は全然かまわないよ。そりゃまぁ……何かしら思うとしても、人間色々あるわけで、男が女になってみたいとかあってもいいと思う。自分の弟がそれを言うと困るけど、他人だったら別にいいかあって。だけど、今言ってる話違うじゃん。男がデブの証をブラで飾るとか、そんなの同情できるわけがない。心がせまくてけっこう。そんな気色悪いの、絶対に関わりたくない」

 ドン! と言い放つ優子。この世の悩みには理解を示すことは出来ても、この世の腐れは嫌いだ!とがっちり宣言している。それはもう香苗が冗談で攻めたりできるモノではなかった。

 こうして両者はここでバイバイすることにする。あまり長々やるとケンカになってしまいそうだったから。

「はぁ……ふつうの男がふつうにブラをするなんて……ダメだわ、どうしても理解できない。狂ってる……絶対この世の中は狂ってるよ」

 ネチョネチョって感じに引きずる優子だった。家にたどり着いてもキブンはすさまじくモワモワしている。それは手でギュッと大量の納豆をにぎった感じそのものだった。

「ただいま」

 疲れた声で家内に声を出す。

「おかえり」

 二階から聞こえるは弟の声。その声を聞くと優子はちょっとホッとした。たとえ呆れ返るほどのおっぱい星人であっても、自分の弟は変な方向には行っていないと信じられると思った。

「お母さんはいないのか」

 今でバリバリっとおにぎりせんべいをかじる。腹が立つと腹が減るからだったが、そこで母の置きメモに目をやった。

「洗濯物入れておいてか……」

 面倒くさいというより、ストレス発散に動くか! という前向きな思考が働く。だからイヤな顔を作ったりせず、素直にベランダへと出る。

「ったく……早く忘れないと……」

 洗濯物の並びを見たとき、もっと言えば自分のフルカップブラを見たとき、先ほどの話を思い出し背筋がゾッとする。

「わたしは女だから……女だからちゃんとした胸のふくらみがあって、だからブラ必要なんだ。そんな……デブな男の話といっしょにされたりしたら……そんなのって女として生きていけない」

 自分の白くきれいな豊満ブラジャーを手に取って落ち込む。Eカップというそれに包み込むのは89cmの女神パイ。その美形ぶりや揉み応えや手触りの良さは、同じ女子からも大絶賛されている。そんな優子がベランダで憂鬱に落ち込んでいく。

「あぅ……早く忘れよう……忘れよう」

 ブンブン! と顔を振って立ち直った。もうちょっとで死んでしまいそうだったが、なんとか復活した。

「よいしょっと」

 自分の洗濯物を畳んで豊かな胸に抱えると、自室めざして階段を上がる。

「あぅ!」

「あっと……」

 優子が階段を上がり終えたとき、階段を降りようとしていた真治がぶつかりそうになる。その結果として優子が胸に抱えていた洗濯物の一部、女子の命とも言えるホワイトブラが床に落ちる。

「……」

 真治はそれを見てドキッとした。落ちたのがハンカチなら拾ってあげられる。でも優子のEカップブラジャーは神々しくて手が出せない。

(お、大きい……)

 床に落ちた白いフルカップブラを、真治は真っ赤な顔でドキドキして見つめる。それは露骨なまでに恋するような目。大きくてやわらかいおっぱいに哀しい片思いという目。触ってみたいとか、甘えてみたいとか、妄想が拡大するって目。もし自分が女の子だったら、そういうブラジャーが着けられるような巨乳になってみたいって、番外的な想像まで発動しそうな目。

「真治……」

 ブラを拾い上げた優子が声を出す。

「あぅ……な、なに?」

 怒られる! と真治は思った。もしかしたらビンタされるかも! と不安になった。ところが姉の優子はジーっと真治を見つめたと、クルっと背を向ける。そうして部屋に入る前に一言だけつぶやいた。

「真治はかわいいよ。ずっとそういう感じであり続けるように!」

 言い終えると優子が部屋の中に入ってしまった。廊下に立つ真治は赤い顔のまま、へ? 今のはどういう事? と思ったりする。

 かわいいとか言われたら悪い気はしない。姉とて言うまでもなく女だから、女にホメられて嬉しいのは当たり前。でもどういう意味で言ったのかはわからない。なんだろう? と真治は思う。

 でも……そこはさすがにおっぱい星人。姉がどういうつもりでホメたのかはどうでもよくて、即座に先ほど見つめたEカップブラジャーを思い出す。そうして全力で赤らみドキドキを味わう。

(お姉ちゃんのブラジャー大きいなぁ……)

 そんな事を思いボーッとしたせいだ、真治は階段を踏み外してしまった。派手に転がりおち、ドカドカって大きな音が家中に響く。

「痛いよぉ……」

 アタマを抱え嘆いていると、上からひょいと下に顔を向ける姉がいて、さっきとは違うことを言う。もしかしたら弟が階段から落ちた理由がわかっているのかもしれない。

「真治」

「なに?」

「やっぱり真治ってバカだよね」

 弟は姉にやさしくしてもらいたかった。可能ならギュッとやさしく胸に抱き寄せたりしてもらいたかった。でもバカって言われただけで終わった。まるで悪いことをしたかのように見捨てられ哀しいキブンを味わってしまった。
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