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番外編
名もなき愛の行方・1「未来への布石」
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皇国歴に百二十五年の秋。
ヴァイド帝国にて全面戦争での大敗をきっかけに政変が起きた。中央政権は和平派に掌握され、翌年の二百二十六年には北ザルトベルン共和国となった。
15年前の帝国による侵略戦争に始まり、全面戦争という大局を経てレゲムアーク皇国は平和な時代を迎えた。
ここにきて、エクスプレド大戦と名付けられた全面戦争の英雄である魔導騎士、ネウクレア・クエンティンに注目が集まりつつある。
出自不明、無名の騎士ではあるが、かの魔導公ゼス・トウルムントが育てた魔導の達人。先の戦争において魔導銃を用いて戦局を覆し、レゲムアーク皇国魔導魔導騎士団を勝利に導いた立役者だ。
終戦から一年余りが過ぎ、昏睡状態にまで陥っていたネウクレアの傷は癒え、駐屯地の治安も落ち着き始めた今――かの英雄に褒賞を与えるべきだという声が上がっていた。
この事柄に当たり、ネウクレア宛てに皇王直筆の書状が届いている。
褒賞として、男爵位と皇室直轄領の一部を与えたいという内容だった。
この書状を見てセディウスは、彼の後ろ盾となることを決意した。
従兄弟である皇王にも、その旨を申し出ている。
私情を挟まなくても、戦災孤児であり人格形成が未熟なネウクレアには、セディウスのような確たる『保護者』が必要なのだ。
英雄の威光に集ろうとする、有象無象のよこしまな輩も湧くだろう。
これか起こるであろう、全ての煩わしい出来事から彼を守りたい。
……ネウクレアに抱いているこの感情を、何と言い表せばいいのか。
まるで親子のような愛……というには近すぎる。
だが、恋人のそれともまた違うような、熱を帯びながらも柔らかなこの関係。
自分が騎士団長である間は、ネウクレアを手元に置ける。だが、その後はどうだ。
引退した後は、部下というつながりは消えてしまう。そうなったとき、ネウクレアは次の団長の指示に従うのか。
……それは、嫌だ。
確かな、つながりが欲しい。
彼を自分の養子にできれば、後ろ盾として申し分ない立場になれる。
しかし、そのためには魔導研究機関と掛け合う必要がある。あのおぞましい魔導狂いの老翁と、対峙しなくてはならないのだ。
ネウクレアは、共にありたいと望んでくれている。
セディウスのことを『大好き』だと告げてくれるあどけなく愛おしい彼の想いに応え続けるためにも、二の足を踏んでいる場合ではない。
セディウスは、エルトラン山脈中腹にある、魔導研究機関トウルムントへ向かうことに決めた。
ネウクレアと離れ難い気持ちはあるが、連れてはいけない。
彼に非人道な扱いをしてきた公に、できるだけ近づけたくはないのだ。
駐屯地にネウクレアが配属されてから、初めて傍を離れることになる。
互いに寂しい思いをするのは目に見えているが、これは乗り越えねばならない試練だ。致し方ない。
駐屯地から研究機関までの道のりは、少なく見積もっても往復で一ヵ月ほどはかかる。
出発する数日前の夜に、ネウクレアにそれを告げた。
「ネウクレア、しばらくは自分の天幕で過ごすように。私は……トウルムント公と話をつけてくる。お前と、ずっと一緒にいられるようにするためには公の許可が必要なのだ。理解してくれるか」
「……了解した」
言葉少なく応えて、ネウクレアはセディウスの胸に顔を埋めて甘えてくる。
少しばかり不満を訴えるようになってきた彼が、了解の一言だけで沈黙した。
これが自身にとっても重要な事項であると深く理解しているからだろう。
引き留めたい気持ちを抑え込んでいるのかと思うと、いじらしくてなおさらに可愛い。
「寂しいだろうが、我慢してくれ。私も寂しい」
「ん……」
ぎゅっと背中に腕を回してしがみついてくる彼のあどけない仕草に、胸の中が愛おしさでいっぱいになる。
こんなに愛らしい彼を、独りで残していくのは身を千切られるように辛いが……行かなければならないのだ。
「ネウクレア……」
つむじに口づけを落とし、強く抱き締めて何度も頭を撫でてやった。
※今回は、ゼスお爺ちゃん登場回です。三話構成。
人格破綻っぷりに不快になられる方もいらっしゃるかと思いますが、お爺ちゃん根っからの純粋外道なので仕方ないんです……(遠い目)。ご了承ください。
ヴァイド帝国にて全面戦争での大敗をきっかけに政変が起きた。中央政権は和平派に掌握され、翌年の二百二十六年には北ザルトベルン共和国となった。
15年前の帝国による侵略戦争に始まり、全面戦争という大局を経てレゲムアーク皇国は平和な時代を迎えた。
ここにきて、エクスプレド大戦と名付けられた全面戦争の英雄である魔導騎士、ネウクレア・クエンティンに注目が集まりつつある。
出自不明、無名の騎士ではあるが、かの魔導公ゼス・トウルムントが育てた魔導の達人。先の戦争において魔導銃を用いて戦局を覆し、レゲムアーク皇国魔導魔導騎士団を勝利に導いた立役者だ。
終戦から一年余りが過ぎ、昏睡状態にまで陥っていたネウクレアの傷は癒え、駐屯地の治安も落ち着き始めた今――かの英雄に褒賞を与えるべきだという声が上がっていた。
この事柄に当たり、ネウクレア宛てに皇王直筆の書状が届いている。
褒賞として、男爵位と皇室直轄領の一部を与えたいという内容だった。
この書状を見てセディウスは、彼の後ろ盾となることを決意した。
従兄弟である皇王にも、その旨を申し出ている。
私情を挟まなくても、戦災孤児であり人格形成が未熟なネウクレアには、セディウスのような確たる『保護者』が必要なのだ。
英雄の威光に集ろうとする、有象無象のよこしまな輩も湧くだろう。
これか起こるであろう、全ての煩わしい出来事から彼を守りたい。
……ネウクレアに抱いているこの感情を、何と言い表せばいいのか。
まるで親子のような愛……というには近すぎる。
だが、恋人のそれともまた違うような、熱を帯びながらも柔らかなこの関係。
自分が騎士団長である間は、ネウクレアを手元に置ける。だが、その後はどうだ。
引退した後は、部下というつながりは消えてしまう。そうなったとき、ネウクレアは次の団長の指示に従うのか。
……それは、嫌だ。
確かな、つながりが欲しい。
彼を自分の養子にできれば、後ろ盾として申し分ない立場になれる。
しかし、そのためには魔導研究機関と掛け合う必要がある。あのおぞましい魔導狂いの老翁と、対峙しなくてはならないのだ。
ネウクレアは、共にありたいと望んでくれている。
セディウスのことを『大好き』だと告げてくれるあどけなく愛おしい彼の想いに応え続けるためにも、二の足を踏んでいる場合ではない。
セディウスは、エルトラン山脈中腹にある、魔導研究機関トウルムントへ向かうことに決めた。
ネウクレアと離れ難い気持ちはあるが、連れてはいけない。
彼に非人道な扱いをしてきた公に、できるだけ近づけたくはないのだ。
駐屯地にネウクレアが配属されてから、初めて傍を離れることになる。
互いに寂しい思いをするのは目に見えているが、これは乗り越えねばならない試練だ。致し方ない。
駐屯地から研究機関までの道のりは、少なく見積もっても往復で一ヵ月ほどはかかる。
出発する数日前の夜に、ネウクレアにそれを告げた。
「ネウクレア、しばらくは自分の天幕で過ごすように。私は……トウルムント公と話をつけてくる。お前と、ずっと一緒にいられるようにするためには公の許可が必要なのだ。理解してくれるか」
「……了解した」
言葉少なく応えて、ネウクレアはセディウスの胸に顔を埋めて甘えてくる。
少しばかり不満を訴えるようになってきた彼が、了解の一言だけで沈黙した。
これが自身にとっても重要な事項であると深く理解しているからだろう。
引き留めたい気持ちを抑え込んでいるのかと思うと、いじらしくてなおさらに可愛い。
「寂しいだろうが、我慢してくれ。私も寂しい」
「ん……」
ぎゅっと背中に腕を回してしがみついてくる彼のあどけない仕草に、胸の中が愛おしさでいっぱいになる。
こんなに愛らしい彼を、独りで残していくのは身を千切られるように辛いが……行かなければならないのだ。
「ネウクレア……」
つむじに口づけを落とし、強く抱き締めて何度も頭を撫でてやった。
※今回は、ゼスお爺ちゃん登場回です。三話構成。
人格破綻っぷりに不快になられる方もいらっしゃるかと思いますが、お爺ちゃん根っからの純粋外道なので仕方ないんです……(遠い目)。ご了承ください。
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