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番外編
名もなき愛の行方・3.5「寂しい」
しおりを挟むセディウスが不在の夜。
ネウクレアは彼の指示に従って、自分の天幕でベッドに横になった。
……眠れない。
胸の奥に空洞があるような、何もかもが不足している感覚。
これが、『寂しい』ということなのか。
掛布を被っているのに、なぜか体が冷えているようにも感じる。セディウスの体温が足りない。逞しい腕に抱き締められて、頭を撫でられたい。
「セディウス……」
早く帰還してほしい。
魔導術式による遠距離通信を使うことを提案したが、却下された。
セディウスは、『これは、お前にとっても、私にとっても大切な事項だ。直参でなければならない』と言っていた。ネウクレアは『駐屯地から研究機関まで、合計一ヵ月の期間をかけて往復するのは非効率だ』と反論したのだが――それでも、セディウスは頑なに直参を止めなかった。
直参の必要性をまったく理解できなかった。
だが、非効率な行動をしてまでゼスに直接会うことが、絶対的に必要だと彼が判断したのならば……直参すること自体に意義があるのだと自分も認識すべきなのだ。
「寂しい」
言葉にするとなおさらに、胸の中の空洞が大きくなっていくようだ。
ネウクレアはおもむろに起き上がり、鎧を手早く着て天幕を出た。そして、巡回の騎士の目をかいくぐり、夜闇を駆け抜けてセディウスの天幕へと忍び込む。
自分の天幕とは違う彼の天幕の匂いに、寂しさが少しだけ減ったようだ。
鎧を脱いで肌着姿になったところで、棚に置いてある砂糖菓子の器が目に入った。いつもセディウスが供給してくれるそれを、蓋を開けてひと粒だけ取り出して口に含む。
「……」
いつもと同じように甘くて美味しい。
だというのに、多幸感を感じない。セディウスに供給されるときと違う。
……理解不能だ。
ひと粒だけで食べるのを止めて、浄化術式を発動してから、ベッドにもぐりこむ。
セディウスの使っている大きな枕を抱えて顔を埋めると、また少し寂しさが減った。
「ふぁ……」
目を閉じてしばらくすると、欠伸が出た。セディウスのベッドは、睡眠の導入に効果的なようだ。
自分の天幕で眠れない以上、やはりここで眠る以外に選択肢はない。指示に反するが、睡眠をとるためには止むを得ないだろう。
彼が帰還した際に、今夜ここで感じたことをすべて報告すればいいのだ。
こうして、セディウスのベッドで充分な睡眠をとることができたネウクレアは、彼が帰還するまでの一ヶ月間、もう二度と自分の天幕には戻らなかった。
※おまけのような話。近況ボードの小話に加筆したものです。
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