【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり

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番外編 

口づけたい

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 ――とある静かな夜。


 ネウクレアは、いつものようにセディウスの天幕に音もなく滑り込んだ。


 鎧を手早く脱ぎながらふと……、あることに気づく。


 ……自分は、解析のためにセディウスに接触を求めていたはずだったが、今は接触そのものが――撫でて抱きしめてもらうことが――目的となっている。これはもう解析ではない。

 自分の欲求を満たすための行為だ。撫でられ抱きしめられる心地良さは、十分に知った。


 ……それなしでの就寝を選択できないほどに。


 セディウスとの接触は、ネウクレアにとって興味深い変化をもたらしてきた。もっと、その変化を体験したい。新しい行為を実行してみたい。


 逆に自分から一方的にセディウスを抱き締めて、撫でてみるのはどうか。


 求める行為ではなく、与える行為。自分は何を感じ、セディウスは何を感じるのか。彼は、自分と同じように心地よさや充足感を感じるのだろうか。



 ……そうであるのなら『嬉しい』。



 その思考が浮かび上がってくるのと同時に、胸の奥がとくりと脈打った。

 これは、ぜひ実行してみたい。



「――ネウクレア、どうした」



 セディウスの声で、思考が中断された。

「具合でも悪いのか。それとも、悩みでもあるのか」

 どうやら、自分は鎧を脱ぎ終えても思考が終わらず、ずっと立ったままだったようだ。

「こちらにおいで」

 夜着姿でベッドの上に座っているセディウスが、腕を広げた。

「……新しい解析方法について考えていた」

 するりと逞しい腕に収まりながら、ネウクレアは率直に質問に答えた。

「それは、どんな解析なのだ?」

 緩く抱き込まれて背中を撫でられると、体の力が解けて蕩けるような感覚がもたらされる。

「セディウスを抱き締めてなでることで、自分が何を感じるか、貴方が何を感じるかを知りたい」


 頭を撫でる手が、止まった。


「私をか」

「そうだ」

「……なぜ、そう結論を出したのだ?」

「なでて抱き締めることで得られる変化はもう十分に知った。新しい行為を試してみたい」

「そ、そうか。だが……お前が私を撫でるのは……」

 口ごもるセディウス。

 拒絶ではないようだが……彼の少し体温が上昇しているのを感じる。

「なでてみたい」

 温かい胸板に頬を押しつけて、頬ずりをしながら要求すると「……っ、わ、わかった」と声がして、背中に回されていた腕が解かれていった。

「好きに、撫でてみるといい……」

 ベッドの上で膝立ちになり、ネウクレアはセディウスの青く深い色をした瞳をじっと観察した。

 嫌悪の表象は浮かんでいない。頬の血色もいい。完全な了承だ。

「なでてみる」

 セディウスの仕草を記憶の中で反復しながら、彼の頭を腕の中に引き寄せて胸に抱え込む。そして、褐色の手触りのいい髪へと白く細い指先を滑らせ、たどたどしい手つきで撫で始めた。

「……セディウス、心地いいか。そうであるのなら『嬉しい』」

 問い掛けると、びくりとセディウスの体が震えた。

「あ、ああ……、心地いい……」

 深い吐息混じりの返答が返された。

「そうか。貴方をなでていると、胸の中が温かくなる。自分の手に感じる貴方の頭部の熱も、髪の感触も心地がいい。これは、とても興味深い感覚だ」


 ……そういえば、セディウスは髪に唇を当てる行為もしている。これも解析するべきだろう。


 ネウクレアは、無造作にセディウスの髪に唇を押しつけた。

「ん……これも……、いい……」

 胸の奥がわずかに締め付けられた。痛みや不快感ではない。何とも言い難い感覚だが、悪い心地ではない。もっと、触れたい。この行為を継続したい。そう思わされる感覚だ。

「ネ、ネウクレア……!」

 腕の中で、セディウスが大きく身じろぎした。

 頭を撫でながら頭部への唇による接触を何度も繰り返していると、セディウスの肌が次第に熱くなっていく。自分が与えられているときと比べて、セディウスに与えた場合の反応は激しい。

 これも興味深い反応だ。


「ああ、どうしてそんな……」


 低く呻くような声とともに頭を抱き締めていた腕を解かれて、逆に強く抱き込まれた。


「可愛いことを言うな! 私を殺す気か!」


 しきりと頭を撫で回されて、何度も髪に唇を押し付けられる。
 
「殺す気などない。セディウスにはずっと、生きていて欲しい」 

「ネウクレア……」

 頬にも唇で触れられた。

「んっ、セディウス」

 とくとくと強く心臓が脈打って、胸がさらに締め付けられた。無意識のうちに熱い吐息を漏らし、瞳を潤ませながら身を伸び上がらせて、セディウスの頬に唇を押しつけた。

 「……っ! ああ、まったく……お前は……」

 彼は蕩けた顔でネウクレアの白くすべらかな頬を両手で包み、額にゆっくりと唇を触れさせた。

 「可愛すぎる……堪らない……。ネウクレア、愛しているぞ」

 唇を触れさせたまま囁かれた『愛している』という言葉に、ネウクレアは瞳を瞬かせた。

「愛しているとは……」

「お前が大切で、こうして触れ合いたいと感じる、この気持ちが、愛している……というものだ」

「『愛する』という行為に付随する感情が『愛している』なのか」

「そうだな。私はお前を愛しているし、愛したいと思っている。だから抱きしめて、撫でて、口づけるのだ」

 身体に唇を触れさせる『口づけ』という行為も、『愛する』ことの一端であるらしい。

「では、感情を付随させず、解析を目的として行為を実行した自分は、貴方を『愛していない』ことになるのか。……理解不能だ」

「そう捉えることもできるのは、確かだ。しかし、そうではないとも言える」

 セディウスは青い瞳を潤ませながら、鼻先にも軽く口づけをしてきた。

 「お前は、私が心地良いいと感じれば『嬉しい』と言ってくれた。私のことを思って、抱き締めて、撫でてくれたことが、私は嬉しい。それだけで、幸せだ……」

 深い青の瞳が潤んでいて、頬には薄く朱が走っている。この表情は『嬉しい』と感じて、『幸せ』も感じているという証拠なのだろう。

 そんな彼の顔を見詰めていると、ネウクレア自身もまた『嬉しい』と改めて感じた。

「……『幸せ』とは……なんだ」

 
 ……胸の奥から何かが込み上げてくるような……この感覚が、『幸せ』というものなか。


 まだよく分からない。

 理解するためには、これからもっと多くのことを経験して、解析する必要がある。


「……まだ、はっきりと理解できなくてもいい。お前の感じたものを、これからも私に教えてほしい。二人で、ひとつずつ理解していこう」

「了解した」

 ふわ、と軽く唇にふれる柔らかい感触。

「……んっ……」


 ……どうしてか、触れたところが熱く感じた。


「んんっ、……セディウス、自分も……したい」

 もっとしたい。

 セディウスに、自分からも口づけたい。

 全身が熱くなっていって、強い欲求が湧き上がる。口づけのために顔を近づけようとしたところで、胸板に頭を抱え込まれて動けなくなった。

「駄目だ。お前に口づけされると……、我慢が利かなくなる」

 セディウスの胸の奥から伝わってくる心臓の鼓動は、先程よりもっと強く速くなっている。

「我慢、とは」

「お前がもっと『愛』というものを理解できたら、教えてやろう。……それまでは、お前からの口づけは禁止だ」

 いつ理解できるのだろう。

 それまで一切の口づけをしてはいけないのか。

 もどかしい。早くしたい。

「したい……。もっとしたい……」

「堪えてくれ」

「……セディウス……、口づけしたい……」

 ネウクレアは高まっていく熱を持て余し、セディウスの広い背中に腕を回してしがみつく。そして、しきりと胸に頬ずりをしながら何度もねだった。

「くっ、可愛い……! だが……、駄目なのだっ……!」

 強まる抱擁と、髪への口づけが心地いい。

 セディウスにも、もっと与えたい。

「んっ、セディウス、今したい。貴方に与えたい」

「だ、駄目だ。大人しく眠ってくれ。お願いだ……」

 低く穏やかな声で囁かれ、背中を優しく撫でて宥められているうちに眠気に襲われたネウクレアは、いつの間にか瞼を閉じてしまった。






















































 ――ネウクレアがその後、いつセディウスに口づけをすることができたのかは……二人だけが知っている。

























































































「く、口づけは、私だけにしてくれ。わかったな?」 

「セディウスにしか、しない(ちゅ)」 

「……!!!!!!」
    
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