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第15話 魔法の絨毯
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翌朝、「オハヨー」と言いながらやって来た殿下に、私は「帰ってください」と答えた。
「え? なんで?」
殿下は本気で驚いていた。全ての原因は殿下でしょう。訳のわからない溺愛劇場を演出しやがって。
「あっ、顔にケガしているね?」
彼はテーブルを回りこんで、急いでそばにやって来た。
「これは……」
私は額に触ろうとした殿下の手をはたいた。殿下はショックだったらしく、手を引っ込めた。
だが、痛々しそうに聞いた。
「これはアランソン姉妹の鉄扇じゃないのか?」
よくわかるな。
「扇の形に傷がついている」
そこまでわかる程、アランソン姉妹の鉄扇のことを知っているなら、未然にどうにかしてくれたらいいのに。
と言うか、何もしないでくれたらいいのに。
そしたら、こんなことにはならなかったと思う。
「殺すと言われました」
「殺す……」
さすがに殿下も絶句した。
「なので、殿下にもし会ったら、その行動を逐一アランソン様たちへ報告すると約束しました」
「えっ? 裏切る気?」
「裏切るも何も。鉄扇で一回打たれただけで済んだのは、約束したからです。殿下が来たら教えるって。あと、それから、退学が決まりました」
「えっ?」
殿下の顔が引き攣った。
私はなだめるように言った。
「ちょっとだけ猶予をくれるようです。その間に生活基盤を整えて、ここを出たいと思います」
「ポーシャ」
殿下は私の手を取った。
「ポーシャ。僕の婚約者。昔から一緒だったのに。君は忘れてしまったの? あんな下劣なアランソン姉妹なんかと婚約したい人間なんか誰もいないよ」
訳の分からないたわごとを。腹が立ったが、王子殿下に向かって怒った様子を見せるほど馬鹿ではない。
「それでも、あなたの婚約者になると、洩れなくあのアランソン姉妹が付いてきます。ちゃんとした貴族のしっかりした親が付いていないと無理でしょう。しかも、こんな不細工な女」
自分で言ってて涙が出て来た。
私は確かに器量が良くない。でもだからって、あんな仕打ちはないだろう。どの先生も高位貴族の顔色をうかがうことしかしない。
こいつ(註:ルーカス殿下)だって、自分のしたいことをしているだけだ。
私のためになる事なんか一つも考えてやしない。私があのアランソン姉妹の鉄扇に打ち据えられて死んでも、間抜けだなあとか言って笑うだけじゃないだろうか。
何時だって、私の話を聞いてもいなかった。ポーションの作成授業の見学を頼んでも、自分の格闘技大会の話しかしなかった。
何を言っても無駄である。
「明日からは来ないでください。でないと、私はアランソン公爵令嬢をここへ呼びます」
できれば、それはしたくない。
寮に異性を呼んでただなんて、何を言われるかわからない。
「ポーシャ、君は!」
殿下は叫んだ。
「そんなに僕のこと、嫌いなのか?」
「そうではありません」
私は答えた。
関心がないだけです。強いて言うなら邪魔。
でも、そんなことを公言するほど、身の程知らずじゃない。王侯貴族の怖さは知っている。
アランソン姉妹は悪意しかないが、ルーカス殿下は好意的だ。ならば、その好意を利用しない手はない。
なんだかストーカーを利用しているみたいで、危険な気はするが。
「私は食堂で食べます。近づかない方がいいです。アランソン姉妹がやってくると思います」
「ポーシャ」
殿下の私の手を握る力が強くなった。
「君は、アランソン姉妹を恐れ過ぎているよ」
私は額に手をやった。この傷、見えてます?
ルーカス殿下は手を取った。
「ああ、すまない。傷の手当てが先だ。行こう! セスを紹介しよう!」
「あの、すみません、どこへ?」
殿下は無理やり手を引っ張って、部屋の外に出た。
「やめてください! 誰かに見られたら……」
あれ?
これまで殿下はどうやって私の部屋まで来てたんだろう? 人に見られずに?
彼は、廊下に出て、隣の部屋のドアを開けた。
「え?」
隣の部屋?
その部屋はもちろん全く同じサイズと設備の部屋だった。
寮生は私以外いないから、ベッドも寝具がなくガランとしている……はずだったのに、部屋の真ん中には、とても派手な絨毯が敷いてあった。
殿下はニコリと笑って説明した。
「魔法の絨毯だ」
「えっ? これで飛ぶのですか?」
こんなのに乗って学内を飛んだら、人目についてしかたない。歩いて来た方がよっぽどマシだ。
すぐに殿下は私の目つきに気がついたらしい。
「誰が飛ぶって言った?」
「いえ、まだ、誰も」
私も言ってない。思っただけだ。
「これは転移魔法だよ! 俺の部屋とここを繋いでんの!」
えええええっ? なんて危険な!
知らなかった。こいつ、危険人物だ。
私の目つきが一挙に厳しくなったことに気付いた殿下はあわてて言い訳を始めた。
「いや、だって、朝だけだったでしょ? 夜なんか来なかったじゃない」
「夜……」
私はつぶやいた。
そう言えば、世の中は夜這いと言うヤバい言葉がある。聞いたことがある。
村に住んでた頃、村の娘がそれで結婚した。
男性が夜やってくる、強制力のある見合いみたいなもんらしい。そのお姉さんは、結構嬉しそうに結婚してたから、あまり細かいことは聞かなかったけど。
それでも、のべつまくなしにやって来られるのは都合が悪い。こっちにも都合がある。
「撤収しましょう」
私は絨毯の端に手をかけて、巻こうとしたが、ガンとして床に張り付いている。
殿下が冷笑した。
「あ、むりむり。真ん中に乗って巻かないと取れないよ?」
軽い調子で言われ、上に乗った途端、体が浮遊した。
騙された!と思った時には、殿下と一緒に全然違う部屋に移動していた。
「え? なんで?」
殿下は本気で驚いていた。全ての原因は殿下でしょう。訳のわからない溺愛劇場を演出しやがって。
「あっ、顔にケガしているね?」
彼はテーブルを回りこんで、急いでそばにやって来た。
「これは……」
私は額に触ろうとした殿下の手をはたいた。殿下はショックだったらしく、手を引っ込めた。
だが、痛々しそうに聞いた。
「これはアランソン姉妹の鉄扇じゃないのか?」
よくわかるな。
「扇の形に傷がついている」
そこまでわかる程、アランソン姉妹の鉄扇のことを知っているなら、未然にどうにかしてくれたらいいのに。
と言うか、何もしないでくれたらいいのに。
そしたら、こんなことにはならなかったと思う。
「殺すと言われました」
「殺す……」
さすがに殿下も絶句した。
「なので、殿下にもし会ったら、その行動を逐一アランソン様たちへ報告すると約束しました」
「えっ? 裏切る気?」
「裏切るも何も。鉄扇で一回打たれただけで済んだのは、約束したからです。殿下が来たら教えるって。あと、それから、退学が決まりました」
「えっ?」
殿下の顔が引き攣った。
私はなだめるように言った。
「ちょっとだけ猶予をくれるようです。その間に生活基盤を整えて、ここを出たいと思います」
「ポーシャ」
殿下は私の手を取った。
「ポーシャ。僕の婚約者。昔から一緒だったのに。君は忘れてしまったの? あんな下劣なアランソン姉妹なんかと婚約したい人間なんか誰もいないよ」
訳の分からないたわごとを。腹が立ったが、王子殿下に向かって怒った様子を見せるほど馬鹿ではない。
「それでも、あなたの婚約者になると、洩れなくあのアランソン姉妹が付いてきます。ちゃんとした貴族のしっかりした親が付いていないと無理でしょう。しかも、こんな不細工な女」
自分で言ってて涙が出て来た。
私は確かに器量が良くない。でもだからって、あんな仕打ちはないだろう。どの先生も高位貴族の顔色をうかがうことしかしない。
こいつ(註:ルーカス殿下)だって、自分のしたいことをしているだけだ。
私のためになる事なんか一つも考えてやしない。私があのアランソン姉妹の鉄扇に打ち据えられて死んでも、間抜けだなあとか言って笑うだけじゃないだろうか。
何時だって、私の話を聞いてもいなかった。ポーションの作成授業の見学を頼んでも、自分の格闘技大会の話しかしなかった。
何を言っても無駄である。
「明日からは来ないでください。でないと、私はアランソン公爵令嬢をここへ呼びます」
できれば、それはしたくない。
寮に異性を呼んでただなんて、何を言われるかわからない。
「ポーシャ、君は!」
殿下は叫んだ。
「そんなに僕のこと、嫌いなのか?」
「そうではありません」
私は答えた。
関心がないだけです。強いて言うなら邪魔。
でも、そんなことを公言するほど、身の程知らずじゃない。王侯貴族の怖さは知っている。
アランソン姉妹は悪意しかないが、ルーカス殿下は好意的だ。ならば、その好意を利用しない手はない。
なんだかストーカーを利用しているみたいで、危険な気はするが。
「私は食堂で食べます。近づかない方がいいです。アランソン姉妹がやってくると思います」
「ポーシャ」
殿下の私の手を握る力が強くなった。
「君は、アランソン姉妹を恐れ過ぎているよ」
私は額に手をやった。この傷、見えてます?
ルーカス殿下は手を取った。
「ああ、すまない。傷の手当てが先だ。行こう! セスを紹介しよう!」
「あの、すみません、どこへ?」
殿下は無理やり手を引っ張って、部屋の外に出た。
「やめてください! 誰かに見られたら……」
あれ?
これまで殿下はどうやって私の部屋まで来てたんだろう? 人に見られずに?
彼は、廊下に出て、隣の部屋のドアを開けた。
「え?」
隣の部屋?
その部屋はもちろん全く同じサイズと設備の部屋だった。
寮生は私以外いないから、ベッドも寝具がなくガランとしている……はずだったのに、部屋の真ん中には、とても派手な絨毯が敷いてあった。
殿下はニコリと笑って説明した。
「魔法の絨毯だ」
「えっ? これで飛ぶのですか?」
こんなのに乗って学内を飛んだら、人目についてしかたない。歩いて来た方がよっぽどマシだ。
すぐに殿下は私の目つきに気がついたらしい。
「誰が飛ぶって言った?」
「いえ、まだ、誰も」
私も言ってない。思っただけだ。
「これは転移魔法だよ! 俺の部屋とここを繋いでんの!」
えええええっ? なんて危険な!
知らなかった。こいつ、危険人物だ。
私の目つきが一挙に厳しくなったことに気付いた殿下はあわてて言い訳を始めた。
「いや、だって、朝だけだったでしょ? 夜なんか来なかったじゃない」
「夜……」
私はつぶやいた。
そう言えば、世の中は夜這いと言うヤバい言葉がある。聞いたことがある。
村に住んでた頃、村の娘がそれで結婚した。
男性が夜やってくる、強制力のある見合いみたいなもんらしい。そのお姉さんは、結構嬉しそうに結婚してたから、あまり細かいことは聞かなかったけど。
それでも、のべつまくなしにやって来られるのは都合が悪い。こっちにも都合がある。
「撤収しましょう」
私は絨毯の端に手をかけて、巻こうとしたが、ガンとして床に張り付いている。
殿下が冷笑した。
「あ、むりむり。真ん中に乗って巻かないと取れないよ?」
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