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第37話 ドレスを作れ?
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翌朝、ルーカス殿下が寮の出口の外で待っていた。
「えっ? 殿下?」
ドアを開けた私は、殿下にぶつかりそうになってびっくりした。
「ねえ、ポーシャ、一緒に朝食に行こう」
彼は熱心に言った。
「いや、もう食べたので」
彼の意気込みが、しゅるるるると音を立てて消えていった。ような気がした。
「では、ドレスを買いにいかない? いいドレスメーカーを紹介するよ」
「今日は忙しいので。午前中は授業、午後からも用事が入っています」
私はポーションの教室へ急ぎ足で歩いて行ったが、彼は歩調を合わせて付いてきた。
「でも、ドレスは必需品だよ? その格好では何かと不便だろう」
「むっ」
その通りだ。
「でも、今日の行き先は、平民の特待生と言う触れ込みで行くんです。だから、この格好でも大丈夫です」
「例のハウエル商会のところか」
殿下がしかめつらをした。
「そうです。誰が何と言おうと行きます。販路は必要です」
「う……では昼休みを一緒に過ごすわけには……」
「昼食はいつも食堂ですよね? 殿下のファンの方たちが大勢押し寄せて来るのではないですか?」
「そんなことは……それより」
「第二王子殿下ですもの。当然だと思っています。殿下は顔貌が整ってらっしゃるし、皆さんの憧れだと思います」
私は真顔で言った。お世辞でもなんでもない。
「いや、僕は食堂での昼食だけは避けたいと思っているんだ」
「どうしてですか? モテまくりのくせに?」
「僕が心配しているのは、君がモテまくりになる心配だよ!」
「なんですって? まあ、それはないでしょう」
私はケケケと笑った。
「いいですか? こんな平凡顔の平民娘に誰が好き好んで……」
言いながら、途中で気がついた。
忘れていた。今は絶世の美女である。
「今は類まれなる美貌の、この上なく高貴な、そして国中で一、二を争う裕福な公爵家の跡取り娘だ。それなのに、隙だらけだ。プライドもなさそうだ」
「なに?」
「そりゃそうだ。普通、高貴な身分を得れば、それ相応に振舞うものだ。高い宝石を買ったり豪華なドレスを着たり、急に威張ったり。君はそれのどれも全然していない」
「それのどこがいけないんです?」
私はムッとした。
「公爵令嬢に見えない。つまり高嶺の花じゃない。誰でも手が出せるような気がするだろう。舐められるか、変人だって言われるか。もしかしたら、相手をする値打ちがないだなんて思われるかもしれない」
私は殿下の言葉を反芻してみた。
「そう思われたら、孤立して協力を得られないかもしれない。生きづらくなるかもしれない。世の中の誤解なんか受けたくない」
「やりたいことをやるわけには、いかなくなるってこと?」
「やりたいことをするのが、難しくなるってことだよ。公爵令嬢なら公爵令嬢らしく見せつけて、その特権を使おうよ。あなたが一番やりたいことは何? ポーションを作って、売って、みんなの役に立ちたいって言ってたよね」
「それだけじゃないわ。ポーションを売ることで、この社会に認められたいの。なんて言うのかしら。私も一員になりたいのよ。ここで生きる場所が出来るといいなと思っている。そして必要とされたいの」
「うん。だからそのために服がいるんだよ。ポーシャ」
殿下が言った。
「回り道をしたり、わかってもらうために余計な努力をしたくない。今のままで努力をしなくても、いずれわかってもらえると思うのは間違いじゃないかもしれないけど、時間がかかり過ぎる」
むつかしいな。でも、ちょっとわかる。最適解って言うか、近道ってことだよね。
そして、誤解は避けろと言っているのね。
「殿下」
私は結論を出して、ついに言った。
「じゃあ、あとでお待ちしていますわ。あなたに教えて欲しいこともありますので」
「え? なにかな?」
嬉しそうだ。なにか勘違いしているみたいだけど、それはどうでもいいや。
「では、後で」
その日の午前中は、ポーションの授業がある日だったので、教室に行った。案の定、バスター君が待っていた。
「ハウエル商会の反応はいかがでしたか?」
まあ、バスター君が興奮気味で嬉しそうなところを見ると、悪くなかったことは察しがつく。
「すごいんだよ! もう、父は大喜びでね。効果抜群。こんなハゲ治療薬、初めてだって」
私も思わずニコニコした。
実は窯の大きさの関係で、この辺の禿げ頭が全員復活しそうなくらい作ってしまったのだ。残りはデカい瓶に詰めておいてある。
正直、売れそうもなかったら、残ったポーションをどうしようかと悩んでいたところだった。私の毛なんか伸ばしても仕方ないし。伸ばして切って売ったらいいかもしれないけど。
「それで、出来るだけ早く商談に来て欲しいと言われているんです」
私も助かった。
よくあることとは言え、ウチのおばあさまのような失敗を仕出かしてしまった。
大量のハゲ治療薬。
黄金色に輝く液体を頭に思い浮かべながら、私は快諾した。
「今度は、ハウエル家に取り入る気かしら?」
教室で、ひそひそとささやく声が聞こえる。
「殿下との仲はどうなっているのかしら?」
「見かけだけは、本当に美人よね? でも、髪を振り乱して、みすぼらしいなりですこと。ポーション作りに夢中だなんて言っているけど、魔力の方はEランクなんですのよ?」
「どんな美人でも、頭がおかしかったり身なりに気を遣わない人は、やっぱり落ちていくものよ」
「もう十歳も年を取ってごらんなさい。見る影もなくなるわ」
「ドレスも作らないだなんて、おかしいわ。本当はやっぱり公爵家の令嬢なんかではないんじゃないかしら?」
「あのバスターとか言うハウエル家の息子、身分狙いなのかしら? 一応、公爵家の令嬢ってことになってますものね。さもしいわねえ」
私の悪口だけならまだいい。
バスター君まで悪く言われてたら嫌だな。
バスター君は、例の二週間分のポーションを提出して以来、カーラ先生のお気に入りだ。
ことあるたびに当てられたり、この程度ならバスター君なら簡単よね、などと明るく言われ、その都度顔を赤くしている。そして、照れちゃってかわいいとか言われている。
前の先生は、悪意的で問題だったけど、今度の先生も好意的過ぎて問題かもしれない。
先生は程々がいいなあと思いながら、私はバスター君の相棒になって、彼の分も含めて実技の課題をこなし続けた。
そして、午後遅くに、私は殿下差し向けの馬車に灰色の平民の服のまま乗り込んだ。
殿下はきっと本心から、心配してくれているのだ。
ドレスメーカーの回し者なんかじゃないはずだ。
それに、見かけで損をする必要はない。最適解と言うか、私は最短で結果を出したいのだ。誤解なんかと戦うのは無駄だ。
「あなたが、その身にふさわしくない服を身にまとっているのを見るたびに心が痛んだ」
殿下が言った。
ドレスメーカーに到着すると、いつぞやの店員さんがニコニコしながら現れた。
そして、おおッとやみくもに驚いて、無礼にも殿下に聞いた。
「あ、あの方は?」
「同じ人だよ。呪いが解けたのだ」
殿下は得々としている。
呪いじゃないんですけど。
説明が超面倒くさいので、もういいですけど。
「本当の姿は、今の姿だ。あの時、何度も測り直しただろう? 見た目よりサイズが細くて、訳が分からなかったと思うけど、本体はこの姿だ」
彼女達はどんなに趣味が合わなくてもそこはプロなので、お客様の注文にはおとなしく一度は従う。その後似合わなければ微調整して、最終的になんとか似合うものまでもっていく。
だが今回は違った。
茶色の髪とこげ茶色の目には全く似合わない筈の薄い色や青系やピンクが次から次へと出てきて、それが今の私にはピタリと似合っていく。
ただし全部サイズが大きかった。
「ちゃんと測っていたよね?」
殿下が注意した。
「申し訳ございません」
どうしても見た目のサイズに引きずられたらしい。
「殿下、何着作られたのですか?」
「あ。学校用が三着くらいかな。代えもいるしね」
殿下が答えたが、ドレスメーカーの方も答えた。
「それからお茶会用に二着ほど。こちらはかなり直さないと。あとパーティ用が一着」
パーティ用! それは確実に要らない。どこのパーティに出る予定もない。
「あのう、それでおいくらくらい?」
何が心配って、払いきれるかどうか。
セス様から送られた金貨は相当な額で私は目を回したが、ドレスって高そうだ。
同じクラスの令嬢方がドレスをいかにして買ってもらうか、色々話題にしていたから、きっとものすごくお高いんだと思う。ましてや、このドレスメーカーは王室御用達だ。他のドレスメーカーより、さらに高いに違いない。
何もこんな店に連れてこなくてもいいのに。もっと安いところがいくらでもありそうだと思う。
私が支払いについて聞くと、殿下はすごい勢いで言った。
「ああ、ダメだダメだ、全部僕が払うんだから」
「私のドレスなんでしょう? 自分で払います。でも、殿下、私がお金を稼げるようになるのって、だいぶ先だと思うんです」
私はドレスメーカーの人たちに聞こえないように、小さな声で言った。
お客様が、出来上がった商品の支払いができないなどと言い出したら、お店の人を不安にしてしまう。
殿下は私の顔を穴が開くほど見ていたが、きっぱりと言った。
「絶対に払わせない。僕が払う」
あまりの剣幕に、私はこの場は譲ることにした。
なんだか、訳がわからない。
殿下は少し優しくなって、言い足した。
「僕の買った品であなたを包みたいんだ」
……なんとなく気味が悪いんだが。
でも、気味が悪いと言ったら、三倍くらい余分に説明されそう。とりあえず放置することにした。
外出用と言うドレスを着つけられて、部屋を出た時の殿下の顔と、それからドレスメーカーの皆さんの顔は忘れられない。
どうしてかみんなが私を凝視していた。
殿下と来たら、手を取って、エスコートし始めた。
「初めて、君が君になった。アランソン公爵令嬢」
彼は顔をじっと見つめた。
「食事にお誘いしても構わないだろうか?」
「えっ? 殿下?」
ドアを開けた私は、殿下にぶつかりそうになってびっくりした。
「ねえ、ポーシャ、一緒に朝食に行こう」
彼は熱心に言った。
「いや、もう食べたので」
彼の意気込みが、しゅるるるると音を立てて消えていった。ような気がした。
「では、ドレスを買いにいかない? いいドレスメーカーを紹介するよ」
「今日は忙しいので。午前中は授業、午後からも用事が入っています」
私はポーションの教室へ急ぎ足で歩いて行ったが、彼は歩調を合わせて付いてきた。
「でも、ドレスは必需品だよ? その格好では何かと不便だろう」
「むっ」
その通りだ。
「でも、今日の行き先は、平民の特待生と言う触れ込みで行くんです。だから、この格好でも大丈夫です」
「例のハウエル商会のところか」
殿下がしかめつらをした。
「そうです。誰が何と言おうと行きます。販路は必要です」
「う……では昼休みを一緒に過ごすわけには……」
「昼食はいつも食堂ですよね? 殿下のファンの方たちが大勢押し寄せて来るのではないですか?」
「そんなことは……それより」
「第二王子殿下ですもの。当然だと思っています。殿下は顔貌が整ってらっしゃるし、皆さんの憧れだと思います」
私は真顔で言った。お世辞でもなんでもない。
「いや、僕は食堂での昼食だけは避けたいと思っているんだ」
「どうしてですか? モテまくりのくせに?」
「僕が心配しているのは、君がモテまくりになる心配だよ!」
「なんですって? まあ、それはないでしょう」
私はケケケと笑った。
「いいですか? こんな平凡顔の平民娘に誰が好き好んで……」
言いながら、途中で気がついた。
忘れていた。今は絶世の美女である。
「今は類まれなる美貌の、この上なく高貴な、そして国中で一、二を争う裕福な公爵家の跡取り娘だ。それなのに、隙だらけだ。プライドもなさそうだ」
「なに?」
「そりゃそうだ。普通、高貴な身分を得れば、それ相応に振舞うものだ。高い宝石を買ったり豪華なドレスを着たり、急に威張ったり。君はそれのどれも全然していない」
「それのどこがいけないんです?」
私はムッとした。
「公爵令嬢に見えない。つまり高嶺の花じゃない。誰でも手が出せるような気がするだろう。舐められるか、変人だって言われるか。もしかしたら、相手をする値打ちがないだなんて思われるかもしれない」
私は殿下の言葉を反芻してみた。
「そう思われたら、孤立して協力を得られないかもしれない。生きづらくなるかもしれない。世の中の誤解なんか受けたくない」
「やりたいことをやるわけには、いかなくなるってこと?」
「やりたいことをするのが、難しくなるってことだよ。公爵令嬢なら公爵令嬢らしく見せつけて、その特権を使おうよ。あなたが一番やりたいことは何? ポーションを作って、売って、みんなの役に立ちたいって言ってたよね」
「それだけじゃないわ。ポーションを売ることで、この社会に認められたいの。なんて言うのかしら。私も一員になりたいのよ。ここで生きる場所が出来るといいなと思っている。そして必要とされたいの」
「うん。だからそのために服がいるんだよ。ポーシャ」
殿下が言った。
「回り道をしたり、わかってもらうために余計な努力をしたくない。今のままで努力をしなくても、いずれわかってもらえると思うのは間違いじゃないかもしれないけど、時間がかかり過ぎる」
むつかしいな。でも、ちょっとわかる。最適解って言うか、近道ってことだよね。
そして、誤解は避けろと言っているのね。
「殿下」
私は結論を出して、ついに言った。
「じゃあ、あとでお待ちしていますわ。あなたに教えて欲しいこともありますので」
「え? なにかな?」
嬉しそうだ。なにか勘違いしているみたいだけど、それはどうでもいいや。
「では、後で」
その日の午前中は、ポーションの授業がある日だったので、教室に行った。案の定、バスター君が待っていた。
「ハウエル商会の反応はいかがでしたか?」
まあ、バスター君が興奮気味で嬉しそうなところを見ると、悪くなかったことは察しがつく。
「すごいんだよ! もう、父は大喜びでね。効果抜群。こんなハゲ治療薬、初めてだって」
私も思わずニコニコした。
実は窯の大きさの関係で、この辺の禿げ頭が全員復活しそうなくらい作ってしまったのだ。残りはデカい瓶に詰めておいてある。
正直、売れそうもなかったら、残ったポーションをどうしようかと悩んでいたところだった。私の毛なんか伸ばしても仕方ないし。伸ばして切って売ったらいいかもしれないけど。
「それで、出来るだけ早く商談に来て欲しいと言われているんです」
私も助かった。
よくあることとは言え、ウチのおばあさまのような失敗を仕出かしてしまった。
大量のハゲ治療薬。
黄金色に輝く液体を頭に思い浮かべながら、私は快諾した。
「今度は、ハウエル家に取り入る気かしら?」
教室で、ひそひそとささやく声が聞こえる。
「殿下との仲はどうなっているのかしら?」
「見かけだけは、本当に美人よね? でも、髪を振り乱して、みすぼらしいなりですこと。ポーション作りに夢中だなんて言っているけど、魔力の方はEランクなんですのよ?」
「どんな美人でも、頭がおかしかったり身なりに気を遣わない人は、やっぱり落ちていくものよ」
「もう十歳も年を取ってごらんなさい。見る影もなくなるわ」
「ドレスも作らないだなんて、おかしいわ。本当はやっぱり公爵家の令嬢なんかではないんじゃないかしら?」
「あのバスターとか言うハウエル家の息子、身分狙いなのかしら? 一応、公爵家の令嬢ってことになってますものね。さもしいわねえ」
私の悪口だけならまだいい。
バスター君まで悪く言われてたら嫌だな。
バスター君は、例の二週間分のポーションを提出して以来、カーラ先生のお気に入りだ。
ことあるたびに当てられたり、この程度ならバスター君なら簡単よね、などと明るく言われ、その都度顔を赤くしている。そして、照れちゃってかわいいとか言われている。
前の先生は、悪意的で問題だったけど、今度の先生も好意的過ぎて問題かもしれない。
先生は程々がいいなあと思いながら、私はバスター君の相棒になって、彼の分も含めて実技の課題をこなし続けた。
そして、午後遅くに、私は殿下差し向けの馬車に灰色の平民の服のまま乗り込んだ。
殿下はきっと本心から、心配してくれているのだ。
ドレスメーカーの回し者なんかじゃないはずだ。
それに、見かけで損をする必要はない。最適解と言うか、私は最短で結果を出したいのだ。誤解なんかと戦うのは無駄だ。
「あなたが、その身にふさわしくない服を身にまとっているのを見るたびに心が痛んだ」
殿下が言った。
ドレスメーカーに到着すると、いつぞやの店員さんがニコニコしながら現れた。
そして、おおッとやみくもに驚いて、無礼にも殿下に聞いた。
「あ、あの方は?」
「同じ人だよ。呪いが解けたのだ」
殿下は得々としている。
呪いじゃないんですけど。
説明が超面倒くさいので、もういいですけど。
「本当の姿は、今の姿だ。あの時、何度も測り直しただろう? 見た目よりサイズが細くて、訳が分からなかったと思うけど、本体はこの姿だ」
彼女達はどんなに趣味が合わなくてもそこはプロなので、お客様の注文にはおとなしく一度は従う。その後似合わなければ微調整して、最終的になんとか似合うものまでもっていく。
だが今回は違った。
茶色の髪とこげ茶色の目には全く似合わない筈の薄い色や青系やピンクが次から次へと出てきて、それが今の私にはピタリと似合っていく。
ただし全部サイズが大きかった。
「ちゃんと測っていたよね?」
殿下が注意した。
「申し訳ございません」
どうしても見た目のサイズに引きずられたらしい。
「殿下、何着作られたのですか?」
「あ。学校用が三着くらいかな。代えもいるしね」
殿下が答えたが、ドレスメーカーの方も答えた。
「それからお茶会用に二着ほど。こちらはかなり直さないと。あとパーティ用が一着」
パーティ用! それは確実に要らない。どこのパーティに出る予定もない。
「あのう、それでおいくらくらい?」
何が心配って、払いきれるかどうか。
セス様から送られた金貨は相当な額で私は目を回したが、ドレスって高そうだ。
同じクラスの令嬢方がドレスをいかにして買ってもらうか、色々話題にしていたから、きっとものすごくお高いんだと思う。ましてや、このドレスメーカーは王室御用達だ。他のドレスメーカーより、さらに高いに違いない。
何もこんな店に連れてこなくてもいいのに。もっと安いところがいくらでもありそうだと思う。
私が支払いについて聞くと、殿下はすごい勢いで言った。
「ああ、ダメだダメだ、全部僕が払うんだから」
「私のドレスなんでしょう? 自分で払います。でも、殿下、私がお金を稼げるようになるのって、だいぶ先だと思うんです」
私はドレスメーカーの人たちに聞こえないように、小さな声で言った。
お客様が、出来上がった商品の支払いができないなどと言い出したら、お店の人を不安にしてしまう。
殿下は私の顔を穴が開くほど見ていたが、きっぱりと言った。
「絶対に払わせない。僕が払う」
あまりの剣幕に、私はこの場は譲ることにした。
なんだか、訳がわからない。
殿下は少し優しくなって、言い足した。
「僕の買った品であなたを包みたいんだ」
……なんとなく気味が悪いんだが。
でも、気味が悪いと言ったら、三倍くらい余分に説明されそう。とりあえず放置することにした。
外出用と言うドレスを着つけられて、部屋を出た時の殿下の顔と、それからドレスメーカーの皆さんの顔は忘れられない。
どうしてかみんなが私を凝視していた。
殿下と来たら、手を取って、エスコートし始めた。
「初めて、君が君になった。アランソン公爵令嬢」
彼は顔をじっと見つめた。
「食事にお誘いしても構わないだろうか?」
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