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第81話 何があってもぶれないポーシャ
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アデル嬢の大声を聞きつけて走ってきたのは、リーマン家の者だけではなかった。すわ何事と殿下の護衛騎士たちも走ってやってきた。
殿下の護衛騎士の方が、足元がもたつく侍女だの年寄りの執事なんかより、断然到着は早かった。
「殿下、どうなさいました?」
顔色を変えた護衛騎士連中が、ガゼボを覗き込んだが、予想に反して、殿下は満面の笑みだった。
「で、殿下が笑ってる?」
「え? あのいつも仏頂面の殿下が?」
護衛騎士の皆さん、何を言ってるの?
「殿下っていつもニヤケ面じゃなかったんですか?」
騎士の皆さんが一様に私の方を振り返った。
「「「「えっ?」」」」
「いいから、私を助けなさいよ!」
しびれを切らしたらしいアデル嬢の金切り声が響いたが、殿下が命じた。
「まず、そこの女を捕らえよ。毒殺犯だ。そして、私の侍医を呼べ。それから、ポーシャ、毒を盛られたのは客室か?」
「客間とお茶を淹れた侍女の顔を覚えていますわ。私に護衛騎士を付けてくだされば、現場を押さえます」
殿下は満足げにうなずいた。
「あとはセスを呼ぼう。毒なら第一人者だ」
殿下が腕を差し伸べると、どこからともなく、行った先のお宅にフン手紙を落して歩く、例の可愛らしい小鳥が飛んできて、殿下の腕に止まった。
「ピヨちゃん、セスのところへ行ってから、侍医のアストル爺のとこ回って、それから、騎士団長とこへ行って、全員ここへ来いって伝えてくれる?」
小鳥はつぶらな黒い目で、ジィーっと殿下を見つめた。
「わかったよ、ピヨちゃん! 遠いって言いたいんだね? ピスタチオのマカロンを三つつける!」
あざとかわいく、ピヨちゃんがうなずく間もなく、私は通信魔法・往復便で、その三人に手紙をシュパッと送った。
「めんどくさい。それに時間かかる」
「ちょっと! ポーシャ、ピヨちゃんの立場、どうなるの? ピヨちゃんが怒るでしょ?」
護衛騎士は殿下のピヨちゃん愛には慣れているらしく、無視している。
ピヨちゃんの方が、普通の使者が馬に乗って行くより、そりゃ速いだろうし、護衛騎士の皆さん方も楽をできるからな。
「ピヨちゃん、ピスタチオのマカロン、四つあげるから」
私は約束した。
ピヨちゃんは、あざとかわいく黒い瞳で見つめてきたが、私には効かない。
ポーションを作る要領でスーッと手を伸ばすと、ピヨちゃんは、シュンと小さくなって消えた。
「なにしたの?」
殿下は叫んだが、私はニヤリと笑って言った。
「魔力、いただきました」
ピヨちゃんは魔獣。ピスタチオのマカロンに釣られているわけではない。
溢れんばかりの殿下の魔力で動くのだ。
私は魔力を吸い取れる。ピヨちゃんなど、敵ではない。
「さあさあ殿下、セス様がすぐに来ると思います。これからが正念場ですよ!」
私は声を張った。
「もっと人手を集めて、毒薬なんか物騒なものを使う連中は徹底的に捕まえましょう」
「あんたが一番危ないじゃないの! 媚薬だとか作って!」
完全復活した上、命のポーションのおかげで元気はつらつ、お肌の調子も万全になったアデル嬢が怒鳴った。髪もつやつやしている。
「命のポーションのおかげで復活したくせに」
私は意地悪く言った。
その後、セス様も侍医のアストル爺も騎士団長もみんながドヤドヤとやって来た。
「アランソン公爵を毒殺しようと試みたとは」
「身の程知らずにも、ほどがありますな」
「ホント、ホント」
なに盛り上がっているの。
毒絡みとなれば、私は専門家ではあるが、司法の問題はさっぱりなのでそこは殿下に丸投げした。
「毒の入手先はグレイ様だそうです」
私は殿下にこっそり教えた。
殿下の顔が、悪い顔になった。
「我が妻をデートに誘う輩には、天誅を」
誰が妻だ。
「天誅ですね、殿下」
セス様がうなずいた。
セス様は天誅って言葉が好きなんだよね。
「どちらかと言えば、アデル嬢に天誅を下して欲しいんですけど」
私は一応希望を述べた。アデル嬢はいろいろと面倒くさすぎる。
私の手に負えない社交界を操るとか、私にできない技を繰り出してくるから面倒だ。
「抹殺しよう」
セス様。そう言うのはいいから。指を顔の前で厳かに交差させるゼスチャーは何の意味があるの? キモいからやめようよ。
「私に狙われて、無事でいられた人間はいない。私は魔王だ」
「まあ、セスがノリノリになったら、敵とみなされた人間はあきらめるしかないからな。最強の味方だ」
それだけ聞くと便利そうだけど、やってることを見ていると、ムズムズしてくる。
「殿下。私はこれで失礼させていただきます。今日は疲れましたわ」
「送ろう」
「大丈夫ですわ。それより殿下のご活躍をお祈りしております」
「そ、そうか……。婚約者のあなたの仇を必ず取るから」
婚約者のっていちいち言うのやめて欲しいな。いつ、婚約したんだろう。
「期待しておりますわ」
なにしろ時間が惜しい。なんだかセス様が殿下に伝染しているみたいな気もするけど、私はにっこり殿下に向かって微笑むと、自分の馬車に乗り込んだ。
「ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド!」
セス様が叫んでいた。
意味が分からない。大体、あんなセリフ言わなくても、魔法は使える。
周りはハハーッと平伏していたが、私は御者に言った。
「馬車を出して。超特急で家に帰って」
御者は空気が読める方だったので、ためらった。
そりゃ、周りが平伏して厳かな空気が漂ってる横を、ガラガラでかい音を立てて馬車を出そうと言うのだから、気にはなるよね。
「早くして」
一刻も早くこの場を去りたい。
殿下は、なんてことを言うのだろう。
すっかり婚約者気取りだ。
私は馬車の窓の外の流れる光景に向かって言った。
「殿下を嫌いじゃないけど、美人だとしか言わないのだもの……もっと、ほめ方とかありそうなものだわ」
なんとか、いつもどおり乗り切ったけど、ドキドキする。キス、怖い。衝撃過ぎる。
「それから、いつでも、嬉しそうだわ。私は殿下の厳しい顔が好きなのに」
いつも絨毯で移動していたが、馬車にもいい点があることに気がついた。
移動に時間がかかると言うことは、ゆっくり考える時間が出来たのだ。
アデル嬢はダメだ。殿下におススメどころではない。
元々、主張が強引過ぎると思っていたけれど、毒を盛るとは思わなかった。
毒殺犯ではないか。
殿下にも媚薬を盛ろうとしていた。
普通の人間は、あんな大胆な真似はしない。
唯一助かったことは、殿下が全部引き取って行ってくれたことだ。正確に言うと、殿下が呼んでくれた騎士や侍医や、それから司法関係者の皆様方のことだけど。
さすが、王族。きっちり出来上がった組織を自由自在に使える人間は違う。
現在進行形で、発展途上のアランソン公爵家の組織とは比べ物にならない。これが権力と言うものなのね。
私はもう考える力が残っていなかった。アデル嬢が短絡的なのか、事態を認識していないだけなのか。だから、殿下が引き取って行ってくださったことは、とてもありがたかった。
「でもね、今回、はっきりしたことが一つあるわ」
人間、得意不得意がある。
私の得意は、ポーションなのよ。
馬車の中で、私は目にもとまらぬ速さで通信魔法を使った。
バスター君を呼ばなくちゃ。
『問題は解決した。人体に毒肉ポーションは完全無害と判明。即刻、量産体制に入る。打ち合わせを行いたい。公爵邸にて待つ』
殿下の護衛騎士の方が、足元がもたつく侍女だの年寄りの執事なんかより、断然到着は早かった。
「殿下、どうなさいました?」
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「で、殿下が笑ってる?」
「え? あのいつも仏頂面の殿下が?」
護衛騎士の皆さん、何を言ってるの?
「殿下っていつもニヤケ面じゃなかったんですか?」
騎士の皆さんが一様に私の方を振り返った。
「「「「えっ?」」」」
「いいから、私を助けなさいよ!」
しびれを切らしたらしいアデル嬢の金切り声が響いたが、殿下が命じた。
「まず、そこの女を捕らえよ。毒殺犯だ。そして、私の侍医を呼べ。それから、ポーシャ、毒を盛られたのは客室か?」
「客間とお茶を淹れた侍女の顔を覚えていますわ。私に護衛騎士を付けてくだされば、現場を押さえます」
殿下は満足げにうなずいた。
「あとはセスを呼ぼう。毒なら第一人者だ」
殿下が腕を差し伸べると、どこからともなく、行った先のお宅にフン手紙を落して歩く、例の可愛らしい小鳥が飛んできて、殿下の腕に止まった。
「ピヨちゃん、セスのところへ行ってから、侍医のアストル爺のとこ回って、それから、騎士団長とこへ行って、全員ここへ来いって伝えてくれる?」
小鳥はつぶらな黒い目で、ジィーっと殿下を見つめた。
「わかったよ、ピヨちゃん! 遠いって言いたいんだね? ピスタチオのマカロンを三つつける!」
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「めんどくさい。それに時間かかる」
「ちょっと! ポーシャ、ピヨちゃんの立場、どうなるの? ピヨちゃんが怒るでしょ?」
護衛騎士は殿下のピヨちゃん愛には慣れているらしく、無視している。
ピヨちゃんの方が、普通の使者が馬に乗って行くより、そりゃ速いだろうし、護衛騎士の皆さん方も楽をできるからな。
「ピヨちゃん、ピスタチオのマカロン、四つあげるから」
私は約束した。
ピヨちゃんは、あざとかわいく黒い瞳で見つめてきたが、私には効かない。
ポーションを作る要領でスーッと手を伸ばすと、ピヨちゃんは、シュンと小さくなって消えた。
「なにしたの?」
殿下は叫んだが、私はニヤリと笑って言った。
「魔力、いただきました」
ピヨちゃんは魔獣。ピスタチオのマカロンに釣られているわけではない。
溢れんばかりの殿下の魔力で動くのだ。
私は魔力を吸い取れる。ピヨちゃんなど、敵ではない。
「さあさあ殿下、セス様がすぐに来ると思います。これからが正念場ですよ!」
私は声を張った。
「もっと人手を集めて、毒薬なんか物騒なものを使う連中は徹底的に捕まえましょう」
「あんたが一番危ないじゃないの! 媚薬だとか作って!」
完全復活した上、命のポーションのおかげで元気はつらつ、お肌の調子も万全になったアデル嬢が怒鳴った。髪もつやつやしている。
「命のポーションのおかげで復活したくせに」
私は意地悪く言った。
その後、セス様も侍医のアストル爺も騎士団長もみんながドヤドヤとやって来た。
「アランソン公爵を毒殺しようと試みたとは」
「身の程知らずにも、ほどがありますな」
「ホント、ホント」
なに盛り上がっているの。
毒絡みとなれば、私は専門家ではあるが、司法の問題はさっぱりなのでそこは殿下に丸投げした。
「毒の入手先はグレイ様だそうです」
私は殿下にこっそり教えた。
殿下の顔が、悪い顔になった。
「我が妻をデートに誘う輩には、天誅を」
誰が妻だ。
「天誅ですね、殿下」
セス様がうなずいた。
セス様は天誅って言葉が好きなんだよね。
「どちらかと言えば、アデル嬢に天誅を下して欲しいんですけど」
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「抹殺しよう」
セス様。そう言うのはいいから。指を顔の前で厳かに交差させるゼスチャーは何の意味があるの? キモいからやめようよ。
「私に狙われて、無事でいられた人間はいない。私は魔王だ」
「まあ、セスがノリノリになったら、敵とみなされた人間はあきらめるしかないからな。最強の味方だ」
それだけ聞くと便利そうだけど、やってることを見ていると、ムズムズしてくる。
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意味が分からない。大体、あんなセリフ言わなくても、魔法は使える。
周りはハハーッと平伏していたが、私は御者に言った。
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そりゃ、周りが平伏して厳かな空気が漂ってる横を、ガラガラでかい音を立てて馬車を出そうと言うのだから、気にはなるよね。
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