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拾ってきた
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突然声を掛けられ、ビクンと身をすくめた娘がこちらを向いた。暗いので顔はよくわからない。
「怪しい者ではない。マリゴールド嬢の様子を知りたいだけなんだ。元気なのかな?」
「元気ではないと思います」
娘は恐る恐る答えた。
「そうか! ここへ来てもらう訳にはいかないかな? 話をしたいんだ」
「あのう、どちら様ですか?」
「うむ。それを聞くのはもっともだ。だが、答えられない」
「お名前を聞かないことには、お取次できません」
「そうか……ううむ。誰にも絶対に内緒だぞ?」
「内緒だと、伝えられませんが」
「マリゴールド嬢以外には内緒と言う意味だ。この家の一家はやりきれないんでな」
娘はなんだかうなずいた。
「私の名前はエドワードだ。どうだ、これでわかったろう?」
エドワードは山ほどいる。
だが、その時、急に月が出た。
満月の夜で、そこら一帯が、色のない銀色の光で照らされた。
王子殿下の顔が真正面から月光にさらされて、容貌がハッキリ見える。
「あっ!」
娘が口の中で叫んだ……ようだった。
「エドワード様……と、言えば……」
「わかったか。怪しい者ではない。マリゴールド嬢の婚約者だ」
「た、助けてください!」
「え?」
突然取り縋られて、殿下は焦った。
「この家の人たちは鬼のような人たちです。自分のことしか考えていません。私は何も食べていないんです」
学園で各種の恋愛イベントをこなし過ぎた殿下は、新たなイベントかと身構えたが、そんなはずはない。
娘は痩せている。ガリガリだ。これがイベントなら、命懸けの準備が必要だ。
それより娘は殿下の足元に崩れ落ちた。
「あっ、ちょっと!」
起こそうとして殿下の心はヒヤリとした。
軽い。軽すぎる。
この娘は、本当に餓死するのではないか?
ぞくりとした殿下は娘を抱き上げた。
軽すぎる。人ではないようだ。猫のようだ。
このままでは本当に死ぬかもしれない。
「連れて帰ろう」
しかし荷物付きでは塀を飛び越えられない。
「正面突破だ」
殿下は正門に向かって歩き出した。
門番が出てきた。
「あれ? あんた、誰だね?」
「エドワードだ」
殿下は堂々と答えた。
「どこのエドワードだ。あれ? それにその下女はどうしたんだ」
「婚約者だ」
「婚約者ぁ?」
エドワードはうなずいた。そういやマリゴールド嬢に会いにきたのだった。
まあ丁度よろしい。この娘を拾って帰れば、事情は聞けるだろう。
「病気だ」
門番はダランとしている下女の様子を見て、態度が変わった。
「よし、わかった。連れて帰れ。変な病気じゃないだろうな。もっと早く迎えに来ればいいのに」
「仕事で遅くなった」
第三王子殿下でも、仕事はある。一応。
「わかった。そりゃそうだな。早く出ろ」
門番は急いで通用門を開け、王子殿下は妙な荷物を担いだまま堂々と出て行った。
「怪しい者ではない。マリゴールド嬢の様子を知りたいだけなんだ。元気なのかな?」
「元気ではないと思います」
娘は恐る恐る答えた。
「そうか! ここへ来てもらう訳にはいかないかな? 話をしたいんだ」
「あのう、どちら様ですか?」
「うむ。それを聞くのはもっともだ。だが、答えられない」
「お名前を聞かないことには、お取次できません」
「そうか……ううむ。誰にも絶対に内緒だぞ?」
「内緒だと、伝えられませんが」
「マリゴールド嬢以外には内緒と言う意味だ。この家の一家はやりきれないんでな」
娘はなんだかうなずいた。
「私の名前はエドワードだ。どうだ、これでわかったろう?」
エドワードは山ほどいる。
だが、その時、急に月が出た。
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王子殿下の顔が真正面から月光にさらされて、容貌がハッキリ見える。
「あっ!」
娘が口の中で叫んだ……ようだった。
「エドワード様……と、言えば……」
「わかったか。怪しい者ではない。マリゴールド嬢の婚約者だ」
「た、助けてください!」
「え?」
突然取り縋られて、殿下は焦った。
「この家の人たちは鬼のような人たちです。自分のことしか考えていません。私は何も食べていないんです」
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娘は痩せている。ガリガリだ。これがイベントなら、命懸けの準備が必要だ。
それより娘は殿下の足元に崩れ落ちた。
「あっ、ちょっと!」
起こそうとして殿下の心はヒヤリとした。
軽い。軽すぎる。
この娘は、本当に餓死するのではないか?
ぞくりとした殿下は娘を抱き上げた。
軽すぎる。人ではないようだ。猫のようだ。
このままでは本当に死ぬかもしれない。
「連れて帰ろう」
しかし荷物付きでは塀を飛び越えられない。
「正面突破だ」
殿下は正門に向かって歩き出した。
門番が出てきた。
「あれ? あんた、誰だね?」
「エドワードだ」
殿下は堂々と答えた。
「どこのエドワードだ。あれ? それにその下女はどうしたんだ」
「婚約者だ」
「婚約者ぁ?」
エドワードはうなずいた。そういやマリゴールド嬢に会いにきたのだった。
まあ丁度よろしい。この娘を拾って帰れば、事情は聞けるだろう。
「病気だ」
門番はダランとしている下女の様子を見て、態度が変わった。
「よし、わかった。連れて帰れ。変な病気じゃないだろうな。もっと早く迎えに来ればいいのに」
「仕事で遅くなった」
第三王子殿下でも、仕事はある。一応。
「わかった。そりゃそうだな。早く出ろ」
門番は急いで通用門を開け、王子殿下は妙な荷物を担いだまま堂々と出て行った。
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