婚約者の王子は正面突破する~関心がなかった婚約者に、ある日突然執着し始める残念王子の話

buchi

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王子殿下、何をするつもり?

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 ガタイのいい側近連中は一団となって、心細そうに街をウロついていたが、伯爵邸へ向かう最短ルートの途中で、とても怪しげな人影に出会い、震え上がった。

「あっ、何か、上が大きい人がいます!」

「上が大きい?」

「不気味だ。こっちへ来る! 怖い! どうしよう、バケモノだ」

 神々しい月の光に照らされて、不気味な影がよろよろ近づいてくる。怯える側近軍団。怖すぎて動けなくなってしまった。

 そいつがパッと顔を上げた途端、貴公子たちは「キャーッ」と甲高い悲鳴をあげて一散に逃げ出した。

 が、大声で叱られた。

「コォラ! どこへ行く! 俺を助けろ!」

 そのバケモノは、マリゴールド嬢を背負ったエドワード王子殿下だった。

 さすが王子。問答無用で助けられることしか考えていない。
 俺を助けろとか、人気のない夜の街では、単なるヤバい人である。関わり合いになりたくない。

 しかし、運がいいことに側近の一人が気がついた。

「この声は……殿下ではありませんか!」

「ええっ?」

 側近たちが足を止めた。

「おおっ! 殿下だ。良かった、見つかった!」

 みんなバラバラと駆け寄った。

「あ、この変なのはなんですか?」

 マリゴールドは、薄くてひしゃげてて、ペラペラだった。

「伯爵家の下女だ」

「げっ?」

「持って帰ってきた」

「えっ? 人なの?」

「人って、持って帰っていいの?」

「誘拐罪じゃない?」

「うわー、ペラペラ。うっすー。人じゃないみたい」

 汚そうだとか言って、誰一人殿下の代わりに運ぼうと言う者はいなかったが、殿下は気にする様子はなく全員揃ってゾロゾロ王宮に帰った。

「殿下、我々はこれで引き取らせていただきますが、本当によろしいのですか?」

 側近一同、疑わしげな目つきで王子殿下を眺めながら、帰っていいかどうか尋ねた。

「うん。帰って」

「あのー、我々がいなくなったら、どうされるおつもりで?」

 ぺらぺらに痩せてはいたが、お城の中で見ると確かに人間。種類は下女。

 一体、殿下はこの夜中に、下女相手に何をするつもりなのか。

 顔立ちはよくわからないが、身なりはこれ以上ないくらいみすぼらしい。
 そしてダシが取れそうなくらい、痩せている。

「とりあえず帰って」

 殿下は下女を見つめて、なにやら生き生きとしているが、重ねて帰れと言われれば、側近たちは立場上、帰らない訳にはいかない。
 余計、疑問が広がった。


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