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第21話 私宛てだった交際希望の手紙
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「実はですね、私が開封することはできませんが」
セバスが事情を説明し始めた。
「あて名が全部エレクトラ様あてなのです。しかも、お使いは、エレクトラ様からのお返事をお待ちしておりますと言い置いて帰りました」
アメリアは口元を押え、レノックス夫人は大きなため息をついた。
「こっそりエレクトラ様にお渡ししようかとも悩んだのですが、なにせお使いが来たので、奥様も手紙が来たことはご存知です。下手に直接お渡しすると文句を言われそうで」
私は全く知らない方々からの突然のお手紙に、びっくり仰天した。
それに……
「あのう、宛先が書いてあるのではないですか?」
「ですから、ハワード家宛てでございます。奥様に申し上げました。それなのに」
あああ。私も言ったのに。
「エレクトラ嬢宛ての封書を一番上に置いたのですが、宛名書きをお読みにならない」
そこへお盆をさげに参りましたと別の女中が乱入してきた。
「そんなに早く食べられないわよ」
「次のおもしろいお話がありまして!」
この若い女中は目を輝かせていた。
いったい何がそんなにおもしろいのだろう?
「アン様やステラ様が、学園のダンスパーティで一緒に踊ったと奥様に報告なさった方々が、あの三通のお手紙の主なのです」
「え?」
食べかけていたスプーンの手が止まった。
まさか。
でも、誰も見ていないところで踊った可能性はあるかもしれない。
「ま、まあ! でも、ダンスのお相手がいたのね。よかったじゃないの」
実家に義姉たちが居座られては困る。
なんだかつじつまが合わない話だけど、自力で結婚先を見つけてくれたら正直助かる。
「じゃあ、順調なのね。よかったわ」
宛先が私なのはおかしいけど。
ん? おかしいわね。
若い女中は首を振った。
「それがですね。今、奥様が手紙を開けて読み上げたんです」
三人、いや私を含めた四人が、無理矢理乗り込んで来た若い女中に注目した。
なんて書いてあったのかしら?
「交際のお申し込み?」
私は期待を込めて聞いた。
「その通り!」
私の部屋は、異様な熱気でムンムンしていた。
「おおっ」
「まあ!」
「アン様やステラ様とですか!」
「勇気ある方々だ!」
声が上がった。
しかし、若い女中はチッチッチッと指を振った。
「違います。三人とも、エレクトラ様との交際を求めてきたんです!」
「「「えええー?」」」
セバスとレイノルズ夫人、アメリアと私自身もうっかり声を揃えた。四人かな。
「しーっ!」
若い女中が私たちをたしなめた。
「実は、ダンスは誰とも踊らなかったそうですの!」
なんですって?
「えっ。あの説明は嘘だったんですか?」
セバスが思わず聞いた。
女中は深くうなずいた。
「なんでも、ほんとはその三人と踊ったのではないそうです」
「妙に具体的に三人の殿方のお名前が出てきたので、事実かと思っていました」
セバスが悔しそうに言った。
「だまされた」
「その人たちは、エレクトラ様がどうして参加なさらないのか、聞きにこられたそうです」
アメリアが声を上げた。
「それならわかるわ! そりゃそうよ。ウチのお嬢様の方が、ずっと美人だし頭も性格も段違いだからね」
私は世の中に出れば、ちっとも美人ではない。身贔屓はやめてほしい。
「ダンスの相手の名前を言うよう詰め寄られて困って、とっさに、話しかけてきた三人の名前を報告したと、今、告白していました」
私は話の意外な展開についていけてなかった。
「フフン。やはりというか、案の定の有様ですな」
セバスが感想を述べた。
「ダンスに誘われただなんて、妙だなと思っていました」
ちょっと、乙女にひどくない? その感想。
「お嬢様は、アン様とステラ様のお話が嘘だってご存知だったのではありませんか?」
セバスに聞かれて、私は仕方なく答えた。
「知っていました」
アメリアがパッと振り返って聞いた。
「知ってらっしゃったのですか? それなら、なぜ教えてくれなかったのですか?」
私は息を吸い込んでから答えた。
「使用人というものは、空気を読んで主人を観察して、語られなかったことを察して、厨房などで主人の動向を話題にして楽しむものです。直接主人に聞いてどうするんですか。使用人としての、聞いてないことまで知っていると言う矜持はどこへ行ったんです?」
シーンとなった。
セバスが代表して謝った。
「エレクトラ様、誠に申し訳ございません」
関係ないレイノルズ夫人も深く頭を下げた。
「いいのよ、あなたは。関係ないのですから」
「いえ。レイノルズ夫人はウチの使用人ですらありません。より一層関係ないから、根本的にダメです」
セバスが言った。
それはそうか。
「しかし、この場合、観察されるべきは侯爵家一家です」
セバスの演説は続いた。
「我々使用人一同は、全力を以て、お嬢様をお守りしたい。そのためには敵の情報を共有する必要があります」
義母と義姉たち、敵認定された! しかもセバス、自分たちの行動を肯定化してる。
「敵は、我々の大切な美しいお嬢様に水仕事をさせようとしたのですよ。絶対に許せません。しかるに、ここで戦略会議が開催されているわけです」
「意義あり!」
あっけに取られている私を尻目にアメリアが手をあげた。
「なんでレイノルズ夫人が中に混ざってるんですか?」
「レイノルズ夫人はスパイです」
セバスは言い切った。
えっ? そうだったの?
「スパイかー」
アメリアが納得した声を出した。
「じゃあ、いいか」
何、訳のわかんないこと、言ってるのよ!
「で、話に戻ると、学園のパーティでは、誰にも踊ってもらえなかったのは間違いないですね?」
仕方ないなあ。
「そうよ。私は最後までいなかったけど、お友達から聞いたのよ」
私は渋々情報提供した。
「すると、奥様は大喜びなさったけれど、今日来た手紙の主、ルテイン伯爵家様、ロス男爵家様、レシチン家のご子息は、アン様やステラ様ではなく、エレクトラ様にご縁を求めてきた、そういうことですな!」
うん。理由はわからないけど、そう言うことになるわね。
セバスが事情を説明し始めた。
「あて名が全部エレクトラ様あてなのです。しかも、お使いは、エレクトラ様からのお返事をお待ちしておりますと言い置いて帰りました」
アメリアは口元を押え、レノックス夫人は大きなため息をついた。
「こっそりエレクトラ様にお渡ししようかとも悩んだのですが、なにせお使いが来たので、奥様も手紙が来たことはご存知です。下手に直接お渡しすると文句を言われそうで」
私は全く知らない方々からの突然のお手紙に、びっくり仰天した。
それに……
「あのう、宛先が書いてあるのではないですか?」
「ですから、ハワード家宛てでございます。奥様に申し上げました。それなのに」
あああ。私も言ったのに。
「エレクトラ嬢宛ての封書を一番上に置いたのですが、宛名書きをお読みにならない」
そこへお盆をさげに参りましたと別の女中が乱入してきた。
「そんなに早く食べられないわよ」
「次のおもしろいお話がありまして!」
この若い女中は目を輝かせていた。
いったい何がそんなにおもしろいのだろう?
「アン様やステラ様が、学園のダンスパーティで一緒に踊ったと奥様に報告なさった方々が、あの三通のお手紙の主なのです」
「え?」
食べかけていたスプーンの手が止まった。
まさか。
でも、誰も見ていないところで踊った可能性はあるかもしれない。
「ま、まあ! でも、ダンスのお相手がいたのね。よかったじゃないの」
実家に義姉たちが居座られては困る。
なんだかつじつまが合わない話だけど、自力で結婚先を見つけてくれたら正直助かる。
「じゃあ、順調なのね。よかったわ」
宛先が私なのはおかしいけど。
ん? おかしいわね。
若い女中は首を振った。
「それがですね。今、奥様が手紙を開けて読み上げたんです」
三人、いや私を含めた四人が、無理矢理乗り込んで来た若い女中に注目した。
なんて書いてあったのかしら?
「交際のお申し込み?」
私は期待を込めて聞いた。
「その通り!」
私の部屋は、異様な熱気でムンムンしていた。
「おおっ」
「まあ!」
「アン様やステラ様とですか!」
「勇気ある方々だ!」
声が上がった。
しかし、若い女中はチッチッチッと指を振った。
「違います。三人とも、エレクトラ様との交際を求めてきたんです!」
「「「えええー?」」」
セバスとレイノルズ夫人、アメリアと私自身もうっかり声を揃えた。四人かな。
「しーっ!」
若い女中が私たちをたしなめた。
「実は、ダンスは誰とも踊らなかったそうですの!」
なんですって?
「えっ。あの説明は嘘だったんですか?」
セバスが思わず聞いた。
女中は深くうなずいた。
「なんでも、ほんとはその三人と踊ったのではないそうです」
「妙に具体的に三人の殿方のお名前が出てきたので、事実かと思っていました」
セバスが悔しそうに言った。
「だまされた」
「その人たちは、エレクトラ様がどうして参加なさらないのか、聞きにこられたそうです」
アメリアが声を上げた。
「それならわかるわ! そりゃそうよ。ウチのお嬢様の方が、ずっと美人だし頭も性格も段違いだからね」
私は世の中に出れば、ちっとも美人ではない。身贔屓はやめてほしい。
「ダンスの相手の名前を言うよう詰め寄られて困って、とっさに、話しかけてきた三人の名前を報告したと、今、告白していました」
私は話の意外な展開についていけてなかった。
「フフン。やはりというか、案の定の有様ですな」
セバスが感想を述べた。
「ダンスに誘われただなんて、妙だなと思っていました」
ちょっと、乙女にひどくない? その感想。
「お嬢様は、アン様とステラ様のお話が嘘だってご存知だったのではありませんか?」
セバスに聞かれて、私は仕方なく答えた。
「知っていました」
アメリアがパッと振り返って聞いた。
「知ってらっしゃったのですか? それなら、なぜ教えてくれなかったのですか?」
私は息を吸い込んでから答えた。
「使用人というものは、空気を読んで主人を観察して、語られなかったことを察して、厨房などで主人の動向を話題にして楽しむものです。直接主人に聞いてどうするんですか。使用人としての、聞いてないことまで知っていると言う矜持はどこへ行ったんです?」
シーンとなった。
セバスが代表して謝った。
「エレクトラ様、誠に申し訳ございません」
関係ないレイノルズ夫人も深く頭を下げた。
「いいのよ、あなたは。関係ないのですから」
「いえ。レイノルズ夫人はウチの使用人ですらありません。より一層関係ないから、根本的にダメです」
セバスが言った。
それはそうか。
「しかし、この場合、観察されるべきは侯爵家一家です」
セバスの演説は続いた。
「我々使用人一同は、全力を以て、お嬢様をお守りしたい。そのためには敵の情報を共有する必要があります」
義母と義姉たち、敵認定された! しかもセバス、自分たちの行動を肯定化してる。
「敵は、我々の大切な美しいお嬢様に水仕事をさせようとしたのですよ。絶対に許せません。しかるに、ここで戦略会議が開催されているわけです」
「意義あり!」
あっけに取られている私を尻目にアメリアが手をあげた。
「なんでレイノルズ夫人が中に混ざってるんですか?」
「レイノルズ夫人はスパイです」
セバスは言い切った。
えっ? そうだったの?
「スパイかー」
アメリアが納得した声を出した。
「じゃあ、いいか」
何、訳のわかんないこと、言ってるのよ!
「で、話に戻ると、学園のパーティでは、誰にも踊ってもらえなかったのは間違いないですね?」
仕方ないなあ。
「そうよ。私は最後までいなかったけど、お友達から聞いたのよ」
私は渋々情報提供した。
「すると、奥様は大喜びなさったけれど、今日来た手紙の主、ルテイン伯爵家様、ロス男爵家様、レシチン家のご子息は、アン様やステラ様ではなく、エレクトラ様にご縁を求めてきた、そういうことですな!」
うん。理由はわからないけど、そう言うことになるわね。
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