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第36話 王弟殿下の影、活躍する
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私はバタバタと玄関を出て、庭へまわり、マチルダ様のお家との間の木戸を開けた。
これは葉っぱが落ちた時用の木戸だった。
ウチはとにかく、マチルダ様の公爵家は大邸宅で、王都にしては広大な敷地を有している。葉っぱだけでなく、果実だとか大きな枝とか落ちることもあるのだが、その都度、庭師ごときが公爵家を公式訪問するのは問題があった。それにものすごく遠回りになるので、こっそり木戸を作って、黙ってお返しし合っていた。
私は誰もいないことをいいことに、サッと木戸を開け勝手知ったる公爵家邸内に入った。
泣きながら、公爵邸内を走っていると、あっという間に顔見知りの侍女に見つかった。
「まあ、どうなさいました? エレクトラ様」
なんとも運が良くて、マチルダ様の馬車が学園から帰ってきたところだった。
そして私はなぜかひどく心配そうな顔をしたマチルダ様に連れられて、そのままアーネスティン様のお宅へ一緒に行くことになった。
「ああ、もう、泣かないで。エレクトラ様」
マチルダ様、お優しい。
アーネスティン様のお宅までの間、マチルダ様は慰め続けてくださった。
「ごめんなさいね。私たちのせいで」
私たちのせいで? 私はマチルダ様のお言葉にちょっとびっくりしたが、それどころではなかった。
私は堰を切ったような感情の大波に飲まれていた。
悲しいの。
どうして、私はこんな目にあわなきゃいけないの? 勝手に何もかも決められてしまう。
「ちゃんと説明しますわ。悪いのは私たちなのです」
重ねてマチルダ様はおっしゃった。
「いいえ、いいえ。マチルダ様は関係ございません。悪いのは……」
悪いのは誰だろう? 義母かも知れないし、父かも知れなかった。
「父が悪いのです。恨みますわ」
父が悪いのだ。何の説明もなく再婚し、勝手に婚約を勧めた。義母を好き放題にさせている。
アーネスティン様のお宅につくまで、マチルダ様は黙って背中を撫で続けてくださった。
そして、心配そうに眉の間に皺を寄せて、アーネスティン様が抱き抱えるように、私を案内してくださったのは、アーネスティン様専用の客間だった。
「エレクトラ様、ごめんなさいね」
アーネスティン様もマチルダ様と声を揃えた。
「申し訳ないのは私です。何のお約束もないのに来てしまって」
ちょっと冷静になれた私は真っ赤になった目が恥ずかしくて、ハンカチで顔を隠しながら言った。
「我が家の恥ですわ。こんな訳のわからない騒動を起こしてしまって」
申し訳ないわ。でも、もう家にいたくない。
するとアーネスティン様が、ものすごく申し訳なさそうに言い出した。
「違うのよ。ルテイン伯爵家のルイス様の噂を広げたのは実は私たちなの」
「えっ?」
私は目が赤いことも忘れて、おかしなことを言い出したアーネスティン様を見つめた。
「噂? 何の噂ですか?」
「ええと、あのルイス様の性癖についての噂です」
マチルダ様が非常に申し訳なさそうに言い出した。
私は高貴な二人の令嬢の顔をまじまじと見つめた。
こんな高貴な方々があんな下品な噂を流すなんて?
アーネスティン様がコホンと咳払いした。
「始めから説明した方がいいですわね。ルテイン伯爵なのですけれど、最近になって隣国との貿易で密輸入をしているのではないかという疑いが浮上したのです」
「密輸入?」
「麻薬の密輸入ですわ」
マチルダ様が教えてくだすった。
「小麦や木材の輸入なんか誰も取り締まりませんわ。麻薬だから大問題になったのです」
アーネスティン様が言葉を続けた。
「そんな人物の息子との結婚話を認めるわけにはまいりません」
「ハイ」
私はアーネスティン様の語気に押されて返事した。
「私は、あのルイス様の身辺調査を、王弟一家の影軍団に命じました」
アーネスティン様が説明した。
「あのう、皆さま、お忙しいのでは?」
私は遠慮がちに聞いてみた。そんな探偵ごっこのようなことを影軍団がしてくれるのだろうか。
「麻薬取締りに関する重大事ですわ。ルテイン伯爵はまだ疑い段階です。捕縛して拷問にかけるわけにはいきません」
「は……」
拷問?
「ですから、色々と、こう弱みを握って裏から操作しなくてはなるまいと考えました」
私は目をパチパチさせながら、麗しい金髪のアーネスティン様を眺めた。拷問……
「そこで!」
今度はマチルダ様が身を乗り出した。
「ルイス様の弱みを握るべく、動いたのですわ」
私は頭を抱えた。
「ちょっと、わたくし……話が少しわからなくなってきたと言うか……」
アーネスティン様が目指しているのは、麻薬取締なのか、ルイス様の弱み探しをして私の婚約阻止なのか。
「もちろん、エレクトラ様の婚約阻止ですわ。麻薬の件は、王弟殿下の影を動かすためのただの口実」
「あ、ありがとうございます……? でも、あの、あれは少し過激な噂だったのでは?」
「それが……」
アーネスティン様とマチルダ様が、二人して、それはそれは深いため息をついた。
「事実はいかんともしがたくて、そのまま流すほかなかったのですよ」
え? ルイス様は否定してらしたけど、事実だったの?
「ええ。私たちは、性癖と言うものが何のことか最初はさっぱりわからず困りました」
私はちょっとだけ明るくなった。
「私もです!」
アーネスティン様、マチルダ様と一緒だわ。
「影たちもゴモゴモ言うばかりで詳しいことを言ってくれなくて……」
アーネスティン様、マチルダ様は困った様子だった。
「その代わり、噂を広めるなどと言うことは、若い令嬢方がやることではありません、私たちの方で面白可笑しく話を仕立ててうまく広めますと請け合ってくれましたの」
私は目を丸くした。
「私たちも勉強しまして、数少ない文献等から知識は得たのですが、その件に関しては少々苦手かなと思いまして、影に任せたのです」
勉強したのか。
これは葉っぱが落ちた時用の木戸だった。
ウチはとにかく、マチルダ様の公爵家は大邸宅で、王都にしては広大な敷地を有している。葉っぱだけでなく、果実だとか大きな枝とか落ちることもあるのだが、その都度、庭師ごときが公爵家を公式訪問するのは問題があった。それにものすごく遠回りになるので、こっそり木戸を作って、黙ってお返しし合っていた。
私は誰もいないことをいいことに、サッと木戸を開け勝手知ったる公爵家邸内に入った。
泣きながら、公爵邸内を走っていると、あっという間に顔見知りの侍女に見つかった。
「まあ、どうなさいました? エレクトラ様」
なんとも運が良くて、マチルダ様の馬車が学園から帰ってきたところだった。
そして私はなぜかひどく心配そうな顔をしたマチルダ様に連れられて、そのままアーネスティン様のお宅へ一緒に行くことになった。
「ああ、もう、泣かないで。エレクトラ様」
マチルダ様、お優しい。
アーネスティン様のお宅までの間、マチルダ様は慰め続けてくださった。
「ごめんなさいね。私たちのせいで」
私たちのせいで? 私はマチルダ様のお言葉にちょっとびっくりしたが、それどころではなかった。
私は堰を切ったような感情の大波に飲まれていた。
悲しいの。
どうして、私はこんな目にあわなきゃいけないの? 勝手に何もかも決められてしまう。
「ちゃんと説明しますわ。悪いのは私たちなのです」
重ねてマチルダ様はおっしゃった。
「いいえ、いいえ。マチルダ様は関係ございません。悪いのは……」
悪いのは誰だろう? 義母かも知れないし、父かも知れなかった。
「父が悪いのです。恨みますわ」
父が悪いのだ。何の説明もなく再婚し、勝手に婚約を勧めた。義母を好き放題にさせている。
アーネスティン様のお宅につくまで、マチルダ様は黙って背中を撫で続けてくださった。
そして、心配そうに眉の間に皺を寄せて、アーネスティン様が抱き抱えるように、私を案内してくださったのは、アーネスティン様専用の客間だった。
「エレクトラ様、ごめんなさいね」
アーネスティン様もマチルダ様と声を揃えた。
「申し訳ないのは私です。何のお約束もないのに来てしまって」
ちょっと冷静になれた私は真っ赤になった目が恥ずかしくて、ハンカチで顔を隠しながら言った。
「我が家の恥ですわ。こんな訳のわからない騒動を起こしてしまって」
申し訳ないわ。でも、もう家にいたくない。
するとアーネスティン様が、ものすごく申し訳なさそうに言い出した。
「違うのよ。ルテイン伯爵家のルイス様の噂を広げたのは実は私たちなの」
「えっ?」
私は目が赤いことも忘れて、おかしなことを言い出したアーネスティン様を見つめた。
「噂? 何の噂ですか?」
「ええと、あのルイス様の性癖についての噂です」
マチルダ様が非常に申し訳なさそうに言い出した。
私は高貴な二人の令嬢の顔をまじまじと見つめた。
こんな高貴な方々があんな下品な噂を流すなんて?
アーネスティン様がコホンと咳払いした。
「始めから説明した方がいいですわね。ルテイン伯爵なのですけれど、最近になって隣国との貿易で密輸入をしているのではないかという疑いが浮上したのです」
「密輸入?」
「麻薬の密輸入ですわ」
マチルダ様が教えてくだすった。
「小麦や木材の輸入なんか誰も取り締まりませんわ。麻薬だから大問題になったのです」
アーネスティン様が言葉を続けた。
「そんな人物の息子との結婚話を認めるわけにはまいりません」
「ハイ」
私はアーネスティン様の語気に押されて返事した。
「私は、あのルイス様の身辺調査を、王弟一家の影軍団に命じました」
アーネスティン様が説明した。
「あのう、皆さま、お忙しいのでは?」
私は遠慮がちに聞いてみた。そんな探偵ごっこのようなことを影軍団がしてくれるのだろうか。
「麻薬取締りに関する重大事ですわ。ルテイン伯爵はまだ疑い段階です。捕縛して拷問にかけるわけにはいきません」
「は……」
拷問?
「ですから、色々と、こう弱みを握って裏から操作しなくてはなるまいと考えました」
私は目をパチパチさせながら、麗しい金髪のアーネスティン様を眺めた。拷問……
「そこで!」
今度はマチルダ様が身を乗り出した。
「ルイス様の弱みを握るべく、動いたのですわ」
私は頭を抱えた。
「ちょっと、わたくし……話が少しわからなくなってきたと言うか……」
アーネスティン様が目指しているのは、麻薬取締なのか、ルイス様の弱み探しをして私の婚約阻止なのか。
「もちろん、エレクトラ様の婚約阻止ですわ。麻薬の件は、王弟殿下の影を動かすためのただの口実」
「あ、ありがとうございます……? でも、あの、あれは少し過激な噂だったのでは?」
「それが……」
アーネスティン様とマチルダ様が、二人して、それはそれは深いため息をついた。
「事実はいかんともしがたくて、そのまま流すほかなかったのですよ」
え? ルイス様は否定してらしたけど、事実だったの?
「ええ。私たちは、性癖と言うものが何のことか最初はさっぱりわからず困りました」
私はちょっとだけ明るくなった。
「私もです!」
アーネスティン様、マチルダ様と一緒だわ。
「影たちもゴモゴモ言うばかりで詳しいことを言ってくれなくて……」
アーネスティン様、マチルダ様は困った様子だった。
「その代わり、噂を広めるなどと言うことは、若い令嬢方がやることではありません、私たちの方で面白可笑しく話を仕立ててうまく広めますと請け合ってくれましたの」
私は目を丸くした。
「私たちも勉強しまして、数少ない文献等から知識は得たのですが、その件に関しては少々苦手かなと思いまして、影に任せたのです」
勉強したのか。
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