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第42話 特等席
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私は古いえび茶のドレスを準備した。アーネスティン様の針子がリボンだのレースだのを少し付けてくれた。
それでも、色目といい飾りといい、つつましいものだ。
経営学のお友達にも、ドレスが買えないほど私が貧乏なことはバレていった。
私から距離を置く人もいたが、気にしないことにしている。
「そういう人はね、品性が下劣なのよ」
いかにも軽蔑したように、アラベラ嬢は言った。
「そうよ。わかってよかったわ。そんな人、お断りよ」
アイリス嬢もそう言い、武芸大会をどこで見ようかとか、ダンスパーティの時はどこに集まろうかと相談した。当日、アーネスティン様たちは、それぞれ婚約者の方とご一緒なさるだろう。私は一人になるので、アイリス嬢やアラベラ嬢と一緒に武芸大会とダンスパーティに出るつもりだった。この二人は、私と同じで、武芸大会はぜひ見たいが、ダンスパーティには積極的には参加しない予定だったのでちょうどよかった。
「ドレスはあるけど、果たしてダンスのお相手なんかいるかしら?」
苦笑いしながらアイリス嬢は言った。アラベラ嬢も言葉を添えた。
「私は本当は平民だし、アイリスは地方出身でしょ? 王都で貴族の誰かとご縁ができても正直難しいのよ」
私も、ご縁ができてもいろいろと困ることになりそう。
ダンスパーティに、極めて消極的な私たちは、それらしい格好はするとしても、壁の花、なんなら壁に同化したいくらいだった。
しかし、私の計画はアーネスティン様の一言で終わってしまった。
「武芸大会、四人で一緒に見ましょうね」
あれ?
「婚約者様は?」
「大会の間は一緒にいられないのよ。オーウェン様はお仕事の関係でダンスパーティにしか出席なさらないの」
アーネスティン様の婚約者様は三歳年上。確かにお仕事をされているだろう。
でも、よく考えたらマチルダ様とローズマリー様の婚約者は、アーネスティン様の婚約者よりもっと年上のはず。
「私たちの婚約者は見に行くと聞いた途端、張り切りだしてしまいまして」
「もう絶対見に行かないといけなくなってしまって」
二人とも嬉しそうだなあ。アーネスティン様もニコニコしていらっしゃる。
「私も拝見するのが楽しみですわ」
「私も見てみたいです。殿方は女性には礼を尽くされますが、そうではない部分も拝見したいです」
私も言った。殿方の本気って、ぜひ見てみたいではありませんか。
「それにトーナメント方式の競技ですから、面白いと思います」
いつもは無口なローズマリー様がコメントした。するとアーネスティン様がにこやかにおっしゃった。
「こっそり特等席を準備してもらいましたの。父に」
学園の名誉理事長は、アーネスティン様のお父様である。娘に甘いと評判だ。
「四人が十分座れるような席ですわ」
アイリス嬢とアラベラ嬢と三人で、観戦場所の確保に散々悩んでいた私は、がっくりきた。
まさかこんなことになるとは。
「そうそう。足元に侍女席がありますが、空いていますのよ。私のところの侍女頭のピエール夫人はあいにく来れなくて」
「でも、混雑していますから、空いているなら入れてくれと言われると面倒ですわね」
王弟殿下のご令嬢に向かって、そんなこと要求する命知らずなんか居るのかしら?
「そうなのよ。場所塞ぎとお茶の用意や取次の為に、誰か座ってくれるといいのだけど」
ハッと私は我に返った。私、推薦したい人材を知っています!
「平民枠の生徒を使えばよろしいんじゃございません? 学内のことはよく知っていますから説明不要ですし、うまく立ち回ってくれますわ」
「あら、そんな都合のいい人いるかしら?」
「気の利く平民枠の生徒を二人知っていますわ。聞いてみます」
「その方がいいかもしれないわね。ピエール夫人にいちいち場所の説明するのは面倒なのよ。助かるわ」
「必要そうなことはピエール夫人からお聞きしますわ」
この話を聞いたアラベラ嬢とアイリス嬢が、緊張しながらも大喜びだったのは言うまでもない。
「エレクトラ様、さすがですわ! ありがとうございます」
「でも、内緒よ?」
「もちろんです。キッチリ指示を受けて誠心誠意お仕えします」
いや。使用人ではないのだけれど。
でも、あの二人なら安心だ。
しかし、その特等席を下見に行ったアラベラ嬢とアイリス嬢と私は呆然とした。
「あれが、それですか?」
「完全に王室専用のボックス席ですわね……」
大広間を傷つけないよう気を使いながら、審査員席の真上にのしかかるようにオペラハウス的なボックス席が忽然と姿を現しつつあった。なんと二階建てで、階段までついている。
「そのようですわね……」
「会場がとてもよく見えると思います。しかし会場からも丸見えのようですが」
アラベラ嬢が不安げに言い出したが、アイリス嬢が注意した。
「大丈夫よアラベラ。私達は上段の観覧席ではないから、会場から見えないと思うわ」
私は内心、私も下の狭い方の席の方がいいなあと思ってしまった。
上の席はギンギンに注目を集めるのでは? まあ、アーネスティン様が主役だろうけど。
数日前のことだった。私は王弟殿下のお屋敷で、ピエール夫人から、重大な話があると呼び出された。
「あなたはしっかりしたプロの使用人になれる素質があります」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「アーネスティン様からの信用も厚いようですが、それに驕ることもない。婚約もうまくいっていないようだし、今後ともこの家のために働くがいいでしょう。ですので、当家の秘密を教えておきます」
私は緊張した。王弟殿下の家の秘密って何かしら?
「今、隣国の王家はごたついています。ついこの間、王太子殿下が亡くなってしまわれて、跡継ぎがおいでにならないのです」
とりあえず私はうなずいて、夫人に話を続けてもらった。
「国王がずいぶん年を取ってからのたった一人のお子様でした。国王はもう七十歳に手が届こうかと言うご年齢ですが、王太子殿下はまだ二十歳でした。狩りの事故で亡くなられたのです」
それでも、色目といい飾りといい、つつましいものだ。
経営学のお友達にも、ドレスが買えないほど私が貧乏なことはバレていった。
私から距離を置く人もいたが、気にしないことにしている。
「そういう人はね、品性が下劣なのよ」
いかにも軽蔑したように、アラベラ嬢は言った。
「そうよ。わかってよかったわ。そんな人、お断りよ」
アイリス嬢もそう言い、武芸大会をどこで見ようかとか、ダンスパーティの時はどこに集まろうかと相談した。当日、アーネスティン様たちは、それぞれ婚約者の方とご一緒なさるだろう。私は一人になるので、アイリス嬢やアラベラ嬢と一緒に武芸大会とダンスパーティに出るつもりだった。この二人は、私と同じで、武芸大会はぜひ見たいが、ダンスパーティには積極的には参加しない予定だったのでちょうどよかった。
「ドレスはあるけど、果たしてダンスのお相手なんかいるかしら?」
苦笑いしながらアイリス嬢は言った。アラベラ嬢も言葉を添えた。
「私は本当は平民だし、アイリスは地方出身でしょ? 王都で貴族の誰かとご縁ができても正直難しいのよ」
私も、ご縁ができてもいろいろと困ることになりそう。
ダンスパーティに、極めて消極的な私たちは、それらしい格好はするとしても、壁の花、なんなら壁に同化したいくらいだった。
しかし、私の計画はアーネスティン様の一言で終わってしまった。
「武芸大会、四人で一緒に見ましょうね」
あれ?
「婚約者様は?」
「大会の間は一緒にいられないのよ。オーウェン様はお仕事の関係でダンスパーティにしか出席なさらないの」
アーネスティン様の婚約者様は三歳年上。確かにお仕事をされているだろう。
でも、よく考えたらマチルダ様とローズマリー様の婚約者は、アーネスティン様の婚約者よりもっと年上のはず。
「私たちの婚約者は見に行くと聞いた途端、張り切りだしてしまいまして」
「もう絶対見に行かないといけなくなってしまって」
二人とも嬉しそうだなあ。アーネスティン様もニコニコしていらっしゃる。
「私も拝見するのが楽しみですわ」
「私も見てみたいです。殿方は女性には礼を尽くされますが、そうではない部分も拝見したいです」
私も言った。殿方の本気って、ぜひ見てみたいではありませんか。
「それにトーナメント方式の競技ですから、面白いと思います」
いつもは無口なローズマリー様がコメントした。するとアーネスティン様がにこやかにおっしゃった。
「こっそり特等席を準備してもらいましたの。父に」
学園の名誉理事長は、アーネスティン様のお父様である。娘に甘いと評判だ。
「四人が十分座れるような席ですわ」
アイリス嬢とアラベラ嬢と三人で、観戦場所の確保に散々悩んでいた私は、がっくりきた。
まさかこんなことになるとは。
「そうそう。足元に侍女席がありますが、空いていますのよ。私のところの侍女頭のピエール夫人はあいにく来れなくて」
「でも、混雑していますから、空いているなら入れてくれと言われると面倒ですわね」
王弟殿下のご令嬢に向かって、そんなこと要求する命知らずなんか居るのかしら?
「そうなのよ。場所塞ぎとお茶の用意や取次の為に、誰か座ってくれるといいのだけど」
ハッと私は我に返った。私、推薦したい人材を知っています!
「平民枠の生徒を使えばよろしいんじゃございません? 学内のことはよく知っていますから説明不要ですし、うまく立ち回ってくれますわ」
「あら、そんな都合のいい人いるかしら?」
「気の利く平民枠の生徒を二人知っていますわ。聞いてみます」
「その方がいいかもしれないわね。ピエール夫人にいちいち場所の説明するのは面倒なのよ。助かるわ」
「必要そうなことはピエール夫人からお聞きしますわ」
この話を聞いたアラベラ嬢とアイリス嬢が、緊張しながらも大喜びだったのは言うまでもない。
「エレクトラ様、さすがですわ! ありがとうございます」
「でも、内緒よ?」
「もちろんです。キッチリ指示を受けて誠心誠意お仕えします」
いや。使用人ではないのだけれど。
でも、あの二人なら安心だ。
しかし、その特等席を下見に行ったアラベラ嬢とアイリス嬢と私は呆然とした。
「あれが、それですか?」
「完全に王室専用のボックス席ですわね……」
大広間を傷つけないよう気を使いながら、審査員席の真上にのしかかるようにオペラハウス的なボックス席が忽然と姿を現しつつあった。なんと二階建てで、階段までついている。
「そのようですわね……」
「会場がとてもよく見えると思います。しかし会場からも丸見えのようですが」
アラベラ嬢が不安げに言い出したが、アイリス嬢が注意した。
「大丈夫よアラベラ。私達は上段の観覧席ではないから、会場から見えないと思うわ」
私は内心、私も下の狭い方の席の方がいいなあと思ってしまった。
上の席はギンギンに注目を集めるのでは? まあ、アーネスティン様が主役だろうけど。
数日前のことだった。私は王弟殿下のお屋敷で、ピエール夫人から、重大な話があると呼び出された。
「あなたはしっかりしたプロの使用人になれる素質があります」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「アーネスティン様からの信用も厚いようですが、それに驕ることもない。婚約もうまくいっていないようだし、今後ともこの家のために働くがいいでしょう。ですので、当家の秘密を教えておきます」
私は緊張した。王弟殿下の家の秘密って何かしら?
「今、隣国の王家はごたついています。ついこの間、王太子殿下が亡くなってしまわれて、跡継ぎがおいでにならないのです」
とりあえず私はうなずいて、夫人に話を続けてもらった。
「国王がずいぶん年を取ってからのたった一人のお子様でした。国王はもう七十歳に手が届こうかと言うご年齢ですが、王太子殿下はまだ二十歳でした。狩りの事故で亡くなられたのです」
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