【完結】エレクトラの婚約者

buchi

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第50話 ダンスの相手

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「エレクトラ嬢!」

突然、背後から話しかけられた。

私は、驚いて後ろを窺った。

聞いたことのない男性の声だった。振り向いて、びっくりした。

わあ。きれいな顔立ちの素敵な方。

よく似合う仕立てのいい服を着て、すらりと背が高く、澄んだ灰色の目をしている。
私は急に胸がドキドキしてきた。
もしかしてこの方、さっき私が見ていた準優勝を飾ったあの方なのではないかしら。

同じ深緑色の服を着ている。同じような背格好。
何より、追いかけてきたらしい他の令嬢たちの絡みつくような視線が、間違いないと物語っているようだ。

その人が、私の足元にスッと膝をついて、私の顔を見上げた。
驚いたけれど、なんだか心がふわっと浮いた。

「踊っていただけませんか?」

「も、もちろん……」

しまった。令嬢的に、もちろんはないわ。初対面の方なのに。でも、彼は嬉しそうにうなずき、私の手を取った。

気持ちがふわふわした。こんなことでいいのかしら。
彼が立ち上がると私より、頭一つ分、大きい。意外にがっしりしている。細身だと思っていたけれど、本当は大きな方なんだわ。

私はおずおずと尋ねた。

「もしかしてあなたは先ほどの武芸大会の準優勝の方では?」

彼はちょっと皮肉な笑いを浮かべた。あれ?

「ええ。でも、負けてしまいました。力負けですね。悔しいです」

あ、悔しいのね。それはそうか。

「腕前では勝ってらしたと思います」

私は真面目に言った。実は剣なんてよく知らないんだけど。

「どうかな? 騎士学校のトップ戦士相手ですから、力も技も負けて当然かもしれませんね」

フロアの真ん中方へ導かれながら、私は重大なことを思い出した。まずいわ。浮かれている場合じゃないわ。

つまり、私はダンスが踊れない。

「あのう、大変なことを思い出してしまいました」

私は立ち止まった。彼も立ち止まった。

「なんでしょう?」

微笑みながら、聞かれた。
私は真っ赤になった。

「私、ダンス、踊れないのです」

婚約者の予定がいるから。

「練習したことは?」

その意味ではなくて。でも、つい、質問に答えてしまった。

「相手がいなくて」

「そりゃいい。僕があなたの最初の練習相手になれますからラッキーです」

ちょっと待って。説明します。でも、ダンスホールの真ん中では難しいかも。でも、ここから壁へ戻ったら何かあったのかと思われるわ。

「大丈夫。教えましょう」

カールした濃い色の髪を振って、彼は言った。どうしても踊る気らしい。

わー。止めてください。などと言う間もなく、ダンスの曲が始まり、私は子どものころ、兄の練習台をさせられた時のことを思い出した。

ウチの兄は結構スパルタだった。しかも、練習台にならないと、途中でクビにされた。思い出したわ。

「そうそう。その通り。今度、一緒に練習しましょう」

何を言っているのだろう、この人。しかも、妙に馴れ馴れしい。私は彼の灰色の目に見入った。

知らない人なのに、話し方や反応の仕方が、よく知っている人みたいだ。

「どうしました? エレクトラ嬢」

あれ? どうして私の名前を知っているの?
そう思った時、私はちょうど一歩踏み込んで彼の足を思い切り踏んでしまった。しまった!

「申し訳ありません!」

「すっごく痛かった」

ダンスを軽快に続けながら、彼は顔をしかめて言った。なんだか目が笑っているけど?

「あと、二、三曲は踊らないとダメですね。手紙じゃダンスの練習できませんからね」

手紙? 
手紙って、なんのこと?

「うれしい。あなたがどんなになっているか、ずっと想像していたけど、思っていたより、ずっとずっときれいだ」

え?








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