【完結】エレクトラの婚約者

buchi

文字の大きさ
50 / 72

第50話 ダンスの相手

しおりを挟む
「エレクトラ嬢!」

突然、背後から話しかけられた。

私は、驚いて後ろを窺った。

聞いたことのない男性の声だった。振り向いて、びっくりした。

わあ。きれいな顔立ちの素敵な方。

よく似合う仕立てのいい服を着て、すらりと背が高く、澄んだ灰色の目をしている。
私は急に胸がドキドキしてきた。
もしかしてこの方、さっき私が見ていた準優勝を飾ったあの方なのではないかしら。

同じ深緑色の服を着ている。同じような背格好。
何より、追いかけてきたらしい他の令嬢たちの絡みつくような視線が、間違いないと物語っているようだ。

その人が、私の足元にスッと膝をついて、私の顔を見上げた。
驚いたけれど、なんだか心がふわっと浮いた。

「踊っていただけませんか?」

「も、もちろん……」

しまった。令嬢的に、もちろんはないわ。初対面の方なのに。でも、彼は嬉しそうにうなずき、私の手を取った。

気持ちがふわふわした。こんなことでいいのかしら。
彼が立ち上がると私より、頭一つ分、大きい。意外にがっしりしている。細身だと思っていたけれど、本当は大きな方なんだわ。

私はおずおずと尋ねた。

「もしかしてあなたは先ほどの武芸大会の準優勝の方では?」

彼はちょっと皮肉な笑いを浮かべた。あれ?

「ええ。でも、負けてしまいました。力負けですね。悔しいです」

あ、悔しいのね。それはそうか。

「腕前では勝ってらしたと思います」

私は真面目に言った。実は剣なんてよく知らないんだけど。

「どうかな? 騎士学校のトップ戦士相手ですから、力も技も負けて当然かもしれませんね」

フロアの真ん中方へ導かれながら、私は重大なことを思い出した。まずいわ。浮かれている場合じゃないわ。

つまり、私はダンスが踊れない。

「あのう、大変なことを思い出してしまいました」

私は立ち止まった。彼も立ち止まった。

「なんでしょう?」

微笑みながら、聞かれた。
私は真っ赤になった。

「私、ダンス、踊れないのです」

婚約者の予定がいるから。

「練習したことは?」

その意味ではなくて。でも、つい、質問に答えてしまった。

「相手がいなくて」

「そりゃいい。僕があなたの最初の練習相手になれますからラッキーです」

ちょっと待って。説明します。でも、ダンスホールの真ん中では難しいかも。でも、ここから壁へ戻ったら何かあったのかと思われるわ。

「大丈夫。教えましょう」

カールした濃い色の髪を振って、彼は言った。どうしても踊る気らしい。

わー。止めてください。などと言う間もなく、ダンスの曲が始まり、私は子どものころ、兄の練習台をさせられた時のことを思い出した。

ウチの兄は結構スパルタだった。しかも、練習台にならないと、途中でクビにされた。思い出したわ。

「そうそう。その通り。今度、一緒に練習しましょう」

何を言っているのだろう、この人。しかも、妙に馴れ馴れしい。私は彼の灰色の目に見入った。

知らない人なのに、話し方や反応の仕方が、よく知っている人みたいだ。

「どうしました? エレクトラ嬢」

あれ? どうして私の名前を知っているの?
そう思った時、私はちょうど一歩踏み込んで彼の足を思い切り踏んでしまった。しまった!

「申し訳ありません!」

「すっごく痛かった」

ダンスを軽快に続けながら、彼は顔をしかめて言った。なんだか目が笑っているけど?

「あと、二、三曲は踊らないとダメですね。手紙じゃダンスの練習できませんからね」

手紙? 
手紙って、なんのこと?

「うれしい。あなたがどんなになっているか、ずっと想像していたけど、思っていたより、ずっとずっときれいだ」

え?








しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

処理中です...