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第66話 大人になってからもう一度
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なんだかよくわからないけど、マーク様は父のお供で帰ってきたらしい。そして隣国へは一緒に戻らないといけないらしい。
父が王宮に、隣国の王位継承問題とやらで缶詰めになっている間、マーク様は花束や流行のお菓子を持って家を訪ねてきた。
お金に糸目をつけない豪華な花束の時もあったし、デートの時に、私が何気なく目を留めた装飾品を取り寄せてくれることもあった。
「こんなに買ってくださらなくても」
「これまで何もできなかった。手紙さえも思うようには出せなかった。埋め合わせと思ってほしいんです」
「でも、こんな高いもの、申しわけなくて受け取れませんわ」
ビジョンブラッドのルビーをはめ込んだブローチをもらった時は、さすがに恐縮した。
「ちょっと代償があります」
何かしら。ビビったが、お礼に、マークと呼んで欲しいとねだられた。
「また隣国の学校に戻らなくちゃならない。グラント伯爵になったので、留学の実績は要らなくなったのだけど」
留学の実績?
「あなたが僕では不満だと思っていることを知っていた。僕はあなたにふさわしくなりたかった。だから留学生に立候補した。総合的に一番優秀なものが選ばれる。なんでもいいから、目を引くものを取っておきたかった」
そんな理由だったの? 私は困惑した。
「不満だなんて思っていませんわ」
不満だと思っていた訳じゃない。本当は私はあなたのことを子どもだと思っていたの。あなたが大人になったら、二つも年上の女なんか嫌になるんじゃないかと心配だったの。
「子どもだと思っていた」
マーク様は追及した。
マーク様、相変わらず鋭すぎる。私は困った顔になってしまったと思う。顔を背けて庭の花を眺めることにした。
「だから留学した。少しだけ離れて、大人になってからもう一度申し込みたい。そう思った。年だけは縮められない。あのままだと相手にされない。悔しかった。だけど、もし、その間にあなたが他の誰かを好きになってしまったら、もう僕にチャンスはなくなる。だから婚約の予定をお願いした。あなたは約束を守る人だ。婚約も婚約の予定も同じ効果がある」
私は驚いてマーク様を振り返った。なんですって? 婚約の予定って、そう言う意味だったの?
「卑怯者だと思う?」
マーク様は私の手を取って上目遣いに見上げてきた。この人はどうして今でもお肌がきれいで、目が澄んでいるのかしら。体つきはすらりと大人になったが、顔はあまり変わらない。やることはあざといと言うか、あくどいと言うか……。
私は手をそっと引き抜いた。
「私は、あなたが大人になったら、きっと二歳も年上の女性なんか嫌になるのではないかと思っていたの。それに、まだ婚約の意味をわかっていないのではないかと思っていて……」
澄んだ灰色の目が大きく見開かれた。そしてマーク様の手が再び私の手を捕まえた。
「わかっていたし、そのために婚約を進めたんだ」
じわじわと意味が形を成してきた。
ピエール夫人はあなたを縛るだけの婚約予定ではないですかと怒ってくれたけど、文字通りそれが狙いだっただなんて。
もう一度、こっそり手を引き抜こうとしたけれど、今度は抜けなかった。
「放さない」
目を見つめ続けながら、マーク様はゆっくりと、手を口元に持って行ってキスした。
こんな年下、どうしたらいいの?
マーク様のものすごく派手な婚約発表のせいで、学内どこへ行っても暖かく見守られるようになった。
「あれだけ派手にやっておけば、もう誰一人、僕たちの婚約に文句は言わないよ」
モートン様、いえマーク様は満足気だった。
私も、一人くらいあなたはふさわしくないとか言ってくるどこかの令嬢がいるのではと警戒していたが、全くそんなことはなかった。
「王立高等学院だけではなく、騎士学校にも伝手ができたしね」
何の話かしらと思ったが、例の武芸大会で戦った騎士学校の優勝者をめぐって騎士学校と友好関係が結ばれたらしい。
「でも、優勝者の方と仲良くなったわけではないと?」
「うん。僕に勝つだなんて、そんなこと許せるとでも?」
見かけによらず雄感が強いと言うか。マーク様は騎士学校内で優勝者に反感を持つグループの旗印になったらしい。在籍している学校が違うんですけど。違う学校で影響量を持つってどういうこと? よくわからないわ。
「だから騎士学校の連中は、あなたを見ても絶対に求婚したりしないと思うな」
優しく、しかしニンマリと微笑むマーク様。あのかわいらしかったマーク様は一体どこへ?
「みんな、あなたが僕の唯一無二と知っているから」
普通、婚約者は唯一無二だと思う。そんなことを言われても、目のやり場に困るわ。
それに、正式な婚約者は、こんなにベタベタにしなくてはいけないものだなんて知らなかったわ。
「しっかり一緒にいないと。よくないことが起きてはいけないからね。僕は、隣国に一度戻らなくてはならないので。義兄上にも、よく頼んでおくけれど、なんだか頼りにならなくて。ローズマリー嬢にお願いしようかな」
お兄様、読まれてる。読まれてるわ。
父が王宮に、隣国の王位継承問題とやらで缶詰めになっている間、マーク様は花束や流行のお菓子を持って家を訪ねてきた。
お金に糸目をつけない豪華な花束の時もあったし、デートの時に、私が何気なく目を留めた装飾品を取り寄せてくれることもあった。
「こんなに買ってくださらなくても」
「これまで何もできなかった。手紙さえも思うようには出せなかった。埋め合わせと思ってほしいんです」
「でも、こんな高いもの、申しわけなくて受け取れませんわ」
ビジョンブラッドのルビーをはめ込んだブローチをもらった時は、さすがに恐縮した。
「ちょっと代償があります」
何かしら。ビビったが、お礼に、マークと呼んで欲しいとねだられた。
「また隣国の学校に戻らなくちゃならない。グラント伯爵になったので、留学の実績は要らなくなったのだけど」
留学の実績?
「あなたが僕では不満だと思っていることを知っていた。僕はあなたにふさわしくなりたかった。だから留学生に立候補した。総合的に一番優秀なものが選ばれる。なんでもいいから、目を引くものを取っておきたかった」
そんな理由だったの? 私は困惑した。
「不満だなんて思っていませんわ」
不満だと思っていた訳じゃない。本当は私はあなたのことを子どもだと思っていたの。あなたが大人になったら、二つも年上の女なんか嫌になるんじゃないかと心配だったの。
「子どもだと思っていた」
マーク様は追及した。
マーク様、相変わらず鋭すぎる。私は困った顔になってしまったと思う。顔を背けて庭の花を眺めることにした。
「だから留学した。少しだけ離れて、大人になってからもう一度申し込みたい。そう思った。年だけは縮められない。あのままだと相手にされない。悔しかった。だけど、もし、その間にあなたが他の誰かを好きになってしまったら、もう僕にチャンスはなくなる。だから婚約の予定をお願いした。あなたは約束を守る人だ。婚約も婚約の予定も同じ効果がある」
私は驚いてマーク様を振り返った。なんですって? 婚約の予定って、そう言う意味だったの?
「卑怯者だと思う?」
マーク様は私の手を取って上目遣いに見上げてきた。この人はどうして今でもお肌がきれいで、目が澄んでいるのかしら。体つきはすらりと大人になったが、顔はあまり変わらない。やることはあざといと言うか、あくどいと言うか……。
私は手をそっと引き抜いた。
「私は、あなたが大人になったら、きっと二歳も年上の女性なんか嫌になるのではないかと思っていたの。それに、まだ婚約の意味をわかっていないのではないかと思っていて……」
澄んだ灰色の目が大きく見開かれた。そしてマーク様の手が再び私の手を捕まえた。
「わかっていたし、そのために婚約を進めたんだ」
じわじわと意味が形を成してきた。
ピエール夫人はあなたを縛るだけの婚約予定ではないですかと怒ってくれたけど、文字通りそれが狙いだっただなんて。
もう一度、こっそり手を引き抜こうとしたけれど、今度は抜けなかった。
「放さない」
目を見つめ続けながら、マーク様はゆっくりと、手を口元に持って行ってキスした。
こんな年下、どうしたらいいの?
マーク様のものすごく派手な婚約発表のせいで、学内どこへ行っても暖かく見守られるようになった。
「あれだけ派手にやっておけば、もう誰一人、僕たちの婚約に文句は言わないよ」
モートン様、いえマーク様は満足気だった。
私も、一人くらいあなたはふさわしくないとか言ってくるどこかの令嬢がいるのではと警戒していたが、全くそんなことはなかった。
「王立高等学院だけではなく、騎士学校にも伝手ができたしね」
何の話かしらと思ったが、例の武芸大会で戦った騎士学校の優勝者をめぐって騎士学校と友好関係が結ばれたらしい。
「でも、優勝者の方と仲良くなったわけではないと?」
「うん。僕に勝つだなんて、そんなこと許せるとでも?」
見かけによらず雄感が強いと言うか。マーク様は騎士学校内で優勝者に反感を持つグループの旗印になったらしい。在籍している学校が違うんですけど。違う学校で影響量を持つってどういうこと? よくわからないわ。
「だから騎士学校の連中は、あなたを見ても絶対に求婚したりしないと思うな」
優しく、しかしニンマリと微笑むマーク様。あのかわいらしかったマーク様は一体どこへ?
「みんな、あなたが僕の唯一無二と知っているから」
普通、婚約者は唯一無二だと思う。そんなことを言われても、目のやり場に困るわ。
それに、正式な婚約者は、こんなにベタベタにしなくてはいけないものだなんて知らなかったわ。
「しっかり一緒にいないと。よくないことが起きてはいけないからね。僕は、隣国に一度戻らなくてはならないので。義兄上にも、よく頼んでおくけれど、なんだか頼りにならなくて。ローズマリー嬢にお願いしようかな」
お兄様、読まれてる。読まれてるわ。
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