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第68話 いないと寂しい
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二人きりで夕食をとった次の日、マーク様は隣国に出立した。父も隣国からさんざん督促を受けて、すごくやむを得ないと言った様子で隣国へ赴任した。
私は大きく息をついた。
父がいなくなっても、今は安心だ。
義母と義姉がいない空間がこんなにもステキだなんて!
まるで家が広くなったようだわ。すっきり、さわやか。ドレスも買いたい放題、お茶会もしたい放題だわ!
使用人は大ニコニコでなんでも言うことを聞いてくれる。
それに……アーネスティン様のところで侍女の修行を積んだ私は、使用人の気持ちが手に取るようによくわかるようになった。
あの偽義母達は、本当に手がかかった。
かんしゃくを起こし、訳のわからない用事を言いつけ、しょっちゅう使用人たちを叱責していた。
偽義母たちがいなくなって、彼らも天国らしい。
だから、充実した毎日のはずだった。
でも、何か物足りない。寂しいような気さえする。それに暇だ。
おかしい。
やっと気が付いた。
マーク様がいないからだ。
いつも、一緒に話し込んだり、本を読んだり、時には婚約者だからと食事に出かけた。
居なくなるとこんなに寂しいだなんて。
次に会えるのはいつかな。
こんなことなら、もっとマーク様を甘やかしてあげれば良かった。
押せ押せ攻勢にちょっと引いてしまって、塩対応になっていた気がする。
あれこれを思い出すと、結構胸キュンな思い出があるわ。
「年下はお嫌いですか?」
隣国へ発つ時、あいさつにきたマーク様は、使用人がいない隙に不安そうに聞いてきた。めちゃくちゃ可愛かった。
「僕がいない間、浮気しないで」
細身だけど私よりずっと大きい。なのに、お肌がきれいで色白だなんて反則だわ。
そっちにばかり気を取られて、なんと返事したか覚えていない。
マズいかもしれない。
浮気しないで、なんて言われたが、冷静になってよく考えたら、浮気されるのは私の方かも。今や、マーク様は大領主の伯爵様。留学先の学校のことはよく知らない。可愛い女の子がうじゃうじゃいたらどうしよう。
マーク様はああ言ってくれたけど、二歳年上はやっぱり心配だ。
『会えなくなって寂しいです。お時間があれば、手紙を書いてくださいね』
全然お誘いになってないかもしれないけれど、ちょっと甘めに、近況報告を求めてみた。
効果は絶大だった。
『これまでは、自称ヘイスティング夫人が開封されてしまうので遠慮していました。今は書きたいことが書けます……』
さすが王立高等学院トップ入学だけあって、それとなく、あるいはダイレクトに、もしくは比喩的に、と手を変え品を変え、愛の言葉の数々を書きつらねてくる。
偽義母がいなくて本当によかった。他人に読まれたら恥ずかしすぎる。
かわいくヤキモチを妬いたり、かっこよかったり、さらにはものすごくさり気なく自慢じゃなくて事実を伝えてくる。
「騎士学校の主将に負けたことでお叱りを受けました。次回を目指せと『めざせ! 悲願の優勝!』を掲げる鬼コーチに猛レッスンを受けています。この前だって初めての準優勝を勝ち取ったので、それで満足すればいいのに。腹が立つので、先生を打ちのめして二週間ほど再起不能にし、休みを取りました。僕、数学コンテストの出場があるので、そっちの準備をしたいんです」
なんというか。感想を書きにくいような。先生がかわいそう。多分お願いしても聞いてくれない人なんだろうな。物理で黙らせたと言うことか。
そして問題は分量だった。さすが王立高等学院トップ入学、よどみなく次々と手紙が届く。筆が早い。
『僕もあなたに会えなくて寂しい。せめて手紙を書きたいと思います』
せめてなんてかわいいもんじゃなかった。タガが外れたように大量の手紙が届く。
気が付いたことがあった。返事を書かなきゃいけないのだ。これは想定していなかった。
マーク様は文才があった。どんな話も分かりやすく読んで楽しい。
だけど私にそんな真似は無理。私の日常に面白いことばかり起きるわけないじゃない。書く内容がない。
『あなたの肖像画を、毎晩手に届くところに飾って眠っています。また会える日まで』
こんな手紙をもらっても、リアクションに悩む。
そもそもどこから私の肖像画なんか手に入れたのだろう。一見、切なそうな文章だが、なんとなく薄気味悪いような気配が漂うのはなぜだろうか。夜中に、手に取らなくてもいいと思う。
私は大きく息をついた。
父がいなくなっても、今は安心だ。
義母と義姉がいない空間がこんなにもステキだなんて!
まるで家が広くなったようだわ。すっきり、さわやか。ドレスも買いたい放題、お茶会もしたい放題だわ!
使用人は大ニコニコでなんでも言うことを聞いてくれる。
それに……アーネスティン様のところで侍女の修行を積んだ私は、使用人の気持ちが手に取るようによくわかるようになった。
あの偽義母達は、本当に手がかかった。
かんしゃくを起こし、訳のわからない用事を言いつけ、しょっちゅう使用人たちを叱責していた。
偽義母たちがいなくなって、彼らも天国らしい。
だから、充実した毎日のはずだった。
でも、何か物足りない。寂しいような気さえする。それに暇だ。
おかしい。
やっと気が付いた。
マーク様がいないからだ。
いつも、一緒に話し込んだり、本を読んだり、時には婚約者だからと食事に出かけた。
居なくなるとこんなに寂しいだなんて。
次に会えるのはいつかな。
こんなことなら、もっとマーク様を甘やかしてあげれば良かった。
押せ押せ攻勢にちょっと引いてしまって、塩対応になっていた気がする。
あれこれを思い出すと、結構胸キュンな思い出があるわ。
「年下はお嫌いですか?」
隣国へ発つ時、あいさつにきたマーク様は、使用人がいない隙に不安そうに聞いてきた。めちゃくちゃ可愛かった。
「僕がいない間、浮気しないで」
細身だけど私よりずっと大きい。なのに、お肌がきれいで色白だなんて反則だわ。
そっちにばかり気を取られて、なんと返事したか覚えていない。
マズいかもしれない。
浮気しないで、なんて言われたが、冷静になってよく考えたら、浮気されるのは私の方かも。今や、マーク様は大領主の伯爵様。留学先の学校のことはよく知らない。可愛い女の子がうじゃうじゃいたらどうしよう。
マーク様はああ言ってくれたけど、二歳年上はやっぱり心配だ。
『会えなくなって寂しいです。お時間があれば、手紙を書いてくださいね』
全然お誘いになってないかもしれないけれど、ちょっと甘めに、近況報告を求めてみた。
効果は絶大だった。
『これまでは、自称ヘイスティング夫人が開封されてしまうので遠慮していました。今は書きたいことが書けます……』
さすが王立高等学院トップ入学だけあって、それとなく、あるいはダイレクトに、もしくは比喩的に、と手を変え品を変え、愛の言葉の数々を書きつらねてくる。
偽義母がいなくて本当によかった。他人に読まれたら恥ずかしすぎる。
かわいくヤキモチを妬いたり、かっこよかったり、さらにはものすごくさり気なく自慢じゃなくて事実を伝えてくる。
「騎士学校の主将に負けたことでお叱りを受けました。次回を目指せと『めざせ! 悲願の優勝!』を掲げる鬼コーチに猛レッスンを受けています。この前だって初めての準優勝を勝ち取ったので、それで満足すればいいのに。腹が立つので、先生を打ちのめして二週間ほど再起不能にし、休みを取りました。僕、数学コンテストの出場があるので、そっちの準備をしたいんです」
なんというか。感想を書きにくいような。先生がかわいそう。多分お願いしても聞いてくれない人なんだろうな。物理で黙らせたと言うことか。
そして問題は分量だった。さすが王立高等学院トップ入学、よどみなく次々と手紙が届く。筆が早い。
『僕もあなたに会えなくて寂しい。せめて手紙を書きたいと思います』
せめてなんてかわいいもんじゃなかった。タガが外れたように大量の手紙が届く。
気が付いたことがあった。返事を書かなきゃいけないのだ。これは想定していなかった。
マーク様は文才があった。どんな話も分かりやすく読んで楽しい。
だけど私にそんな真似は無理。私の日常に面白いことばかり起きるわけないじゃない。書く内容がない。
『あなたの肖像画を、毎晩手に届くところに飾って眠っています。また会える日まで』
こんな手紙をもらっても、リアクションに悩む。
そもそもどこから私の肖像画なんか手に入れたのだろう。一見、切なそうな文章だが、なんとなく薄気味悪いような気配が漂うのはなぜだろうか。夜中に、手に取らなくてもいいと思う。
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