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始まりの春休み編
沙緒莉はノーブラだと見せてくれない
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陽香の持ってきてくれた紅茶はスッキリとした飲み口で後に残る香りもマスカットのように爽やかだった。僕は市販のミルクティくらいしか飲んだことが無かったので、紅茶というものがこれほど色々は表情を見せてくれるという事に驚きを覚えてしまった。
一緒に出されたクッキーは少し甘さが強いようにも思えたのだが、その甘さが紅茶の香りを引き立てているようにも感じてお互いの相性はいいと感じていた。
「このクッキーって甘めだけど美味しいね。紅茶とよく合うような気がするよ」
「昌晃ってさ、甘いお菓子と甘くないお菓子だったらどっちが好きなの?」
「どっちだろう。お菓子ってあんまり食べる機会が無いんだけどさ、薄味の素材を活かす系よりもしっかり味がする方が好きかも。このクッキーも最初は甘すぎるって思ったけどさ、紅茶と一緒に食べたら凄く美味しいよ」
「そっか、それだったらさ、そのクッキーとケーキだったらどっちが好き?」
「その二択だったらケーキかな。でも、ケーキもあんまり食べることないからそこまで好きってわけでもないけどさ」
「そうなんだ。ちなみになんだけど、イチゴのショートケーキとガトーショコラとチーズケーキだったらどれが好きなのかな?」
「どれも好きだけど、意外とシフォンケーキみたいなやつも好きかな。あんまり食べた事ないけど、小さい時におばあちゃんのとこで食べたシフォンケーキが美味しかった記憶があるんだよね」
「それってもしかして、北川商店のケーキじゃない?」
「そんな感じの名前は聞いたことがあるけどはっきりとは覚えてないんだよね。出されたものを食べるだけだったからさ」
「多分そうだと思うよ。あの辺の人達って来客がある時は北川商店のケーキを買うのが定番だからね。私もお姉ちゃんと何回か買いに行ったことがあるんだけど、あそこのおばさんとお姉さんが作ってるケーキが凄く美味しいのよね。私もあんな風に美味しいケーキを作れるようになりたいんだけどさ、良かったら練習したケーキの試食をお願いしてもいいかな?」
「ケーキの試食なら喜んでやるよ。普段はあまり食べないってだけで甘いもの嫌いじゃないしね。このクッキーは時々食べている物よりも甘いけど美味しいって思うし、これくらい甘くても陽香の入れてくれた紅茶があれば美味しく食べられると思うよ」
「そうなの?」
「うん、僕ってさ、紅茶は市販のミルクティくらいしか飲んだことないんだけど、この紅茶は美味しいと思うよ。上手いこと例えられないけど、飲み終わった後の口の中に残る香りとかもいいと思うしね。普通のお茶と違ってなんか余韻の残る感じがまた飲みたいなって思うね」
「へえ、そんな風に感じてくれるなんて嬉しいな。良かったらさ、今度違う種類の紅茶を飲んでみないかな?」
「他にも種類があるんだ。名前は聞いたことあるけど、実際にどんな感じなのか飲んだことないからどんな感じなのか興味あるかも」
「そうだな、色々種類があるんでたくさん試してもらいたいんだけど、合わせるお菓子とか気分でも感じ方が違ってくると思うし、昌晃が好きな感じの紅茶を見付けられるといいかもね」
「そうだね。でも、僕はそんなに上品な舌を持ってるわけじゃないからそんなに違いが判らないかもしれないな」
「大丈夫よ。それを飲んで香りを楽しめたなら他のも大体大丈夫だと思うからね。それにさ、私もそんなにお上品な舌を持ってるわけじゃないからさ」
そう言いながらも軽く舌を出して照れている陽香の姿を見て僕はドキッとしてしまった。恋とかそういうものではなく、その姿が漫画やアニメから出てきたようだったからだ。
「そうだ、後は漫画を読みながら紅茶を楽しみましょ。この本棚にある漫画ってどれでも読んでいいの?」
「うん、机に置いてあるやつが今読んでるやつだから、それ以外だったら何でもいいよ」
「へえ、いろんな漫画があるのね。私は真弓みたいに詳しくないからこれと言って読みたいのもないのよね。ちなみになんだけど、この本棚の並びって何か理由とかあったりするの?」
「いや、特に拘りは無いよ。最初は高さと書きにしてたりもしたけど、今じゃ入ればそれでいいかなって感じかな。でも、同じやつは同じ場所にまとめたりはしているよ」
「そうなんだね。漫画って意外と似たようなの無いんだね。全部違う風に見えるけど同じ人が書いてても違ったりするんだ」
「あ、それは別の人が書いてるやつだよ。作者の名前は似てるけど別人だったと思うからね」
「そうなのか。言われてみたら別の人だった。じゃあ、これの絵柄が可愛いから読んでみようかな。これって結構長いお話なの?」
「それはそんなに長くなかったと思うよ。三冊くらいで終わってたと思うな。それが面白かったら似たような漫画もあるし、別のを見るってのもありかもね」
「そっか。じゃあ、これにしてみようかな」
陽香は本棚の前にしゃがみこんで漫画を選んでいるのだけれど、今日も来ているパジャマの丈が合っていないようで腰の部分から少しだけパンツが見えていた。そして、今日はそれだけではなく薄手のパジャマを着ているのでパンツのラインもハッキリと浮かんでいた。僕はなるべくそれを見ないようにしていたのだけれど、少しだけ見えていて全容もわかっているのに完璧には見えないというこの状況は辛い。見てはいけないとわかってはいるのだけれど、色も形もわかっているのに全貌がわからないという状況が何となくスッキリしない。いっそのこと、沙緒莉姉さんのように自分から脱いで見せてくれればそれ以降は目で追わなくても平気だと思うのだけれど、今はそんな事をしてくれるような場面ではない。もちろん、陽香が沙緒莉姉さんみたいにさらけ出してくるタイプではないという事は知っているのでわかってはいる。わかってはいるのだけれど、腰から見えていた色のパンツなのかどうかという事が気になってしまっていた。
そんな僕の気持ちを知るはずもない陽香は持ってきた漫画をテーブルに置くと、そのまま横になって漫画を読み始めた。
「行儀悪くてごめんね。ちょっと腰が痛くて座るの辛いから横になるね。でも、紅茶を飲むときはちゃんと起き上がってから飲むから安心してね」
「腰が痛いなら気にしなくていいよ。床が固かったらベッドで読んでも良いし」
「ホントに?」
「うん、横になるならそっちの方が楽じゃない?」
「そうなんだけどさ、私がベッドで横になってもいいの?」
「全然かまわないよ」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。ちょっと床だと肘もいたくなりそうだったからね。ありがとうね」
陽香は床から状態を起こして紅茶を一口だけ口に含んでいた。そのままテーブルの漫画を枕元に移動させると、ベッドの上で漫画を読みだした。僕が普通に寝ても長さに余裕があるベッドなので陽香が手足を伸ばして漫画を読んでも窮屈さは感じられなかった。陽香は枕の関係で僕に足を向けて漫画を読んでいるのだけれど、床からベッドに変わったことで僕の視界に陽香のお尻が入ってくるようになってしまった。
さすがに僕の位置からでは腰のあたりは隠れて見えないのだけれど、お尻に浮かんでいるパンツのラインはハッキリと見えていた。僕は机に向かって読んだ方がいいのだろうかと考えてみたのだけれど、今の状況でいきなり態勢を変えるのは不自然な感じがして落ち着かない。かと言って、今の状況で陽香のお尻部分にパンツのラインがハッキリ浮かんでいるというのも落ち着かない。どうしたらいいのだろうか。僕は真剣に悩んだ。悩んだ。悩んだ結果、とてもいい作戦を思いついたのだ。
「良かったらこれ使っていいよ」
「え、なに?」
僕はそう言いながら勉強する時に使っているひざ掛けを陽香の背中にかけてあげた。ストーブを付けているとはいえ少し肌寒いのでこの作戦は自然な感じで行けると思った。思っていたのだが、僕が腰から太ももくらいにかけてあげたひざ掛けは陽香の肩から腰辺りを覆う形に変わっていた。
「ありがとうね。ちょっと冷えてきたから助かるよ。でもさ、昌晃は寒くないの?」
「僕なら大丈夫だよ。机の脚元にヒーターあるからね」
「へえ、それだったら勉強する時も大丈夫かもね。って、足元にヒーターあるって凄くない?」
「でもさ、これって熱くなり過ぎちゃうんだよね。油断してると火傷したみたいになっちゃうから気を付けないといけないんだ」
「そうなんだ。どんな感じなのか見せてよ」
僕は椅子をどけて陽香にヒーターを見せてあげた。そこには小型の遠赤外線ヒーターが置いてあるのだけれど、陽香はそれを興味津々と言った感じで眺めていた。ホームセンターで買ったやつなのでそこまで高級品といったものではないのだけれど、冬場に勉強している時は役に立った。窓側に机があるせいで冬場は本当につらいのだが、これがあるおかげで何とか乗り切れたと言っても過言ではないだろう。
陽香はいつの間にかベッドから降りて机の下に潜り込んでいた。今は出力を最小にしているのでそれほど熱くないのだけれど、陽香が色々といじっているうちに出力が最大に上がっていたようだ。机の下から出てきて顔を出した陽香は少し汗をかいているようだったが、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
「適当に触ってたら強くなっちゃったからビックリしたよ。でもさ、冬場はこれがあると便利かもね。寒いと勉強したくなくなっちゃうもんね」
「そうなんだよね。足元が寒いと集中出来なくなっちゃうからさ」
たぶんそんな会話をしていたと思う。会話の内容は覚えていないのだけれど、会話ではないところはハッキリと覚えている。
陽香は余程暑かったのか机の上にあった下敷きで自分の顔を仰いでいたのだけれど、その時にシャツの首元を前に引っ張っていたのだ。僕は座り込んでいる陽香の隣に立っていたので何気なくそこを見てしまったのだが、僕の視界に飛び込んできたのは陽香の素肌だった。陽香は何故かシャツの下に何も着ていなかったのだ。当然そうなると見えてしまモノがあるわけで、僕は生まれて初めてそれを見てしまったのだけれど、陽香はそれに気付いていないようだった。そのまま陽香は立ち上がって先ほどと同じようにベッドに横になっているのだけれど、先程とは違って手足を伸ばしたままベッドに突っ伏していたのだった。僕はよからぬ想像をしてしまっていたと思うのだが、冷静さを装って椅子に座ると再び漫画に目を戻したのだった。
「うーん、他の漫画も読んでみようと思ってたけど、眠くなってきちゃったから戻るね。また読みに来てもいいかな?」
「う、うん。別にいつでも来てくれていいよ。読みたいのあったら持っていっても良いし」
「ありがとう。でも、私の部屋はまだ片付いていないから綺麗になってから借りることにするよ」
「あ、その紅茶のやつは僕がキッチンに持っていくからそのままでいいよ。残ってるクッキーも食べたいし」
「そう、じゃあ、それもお言葉に甘えちゃおうかな。今日はありがとうね。おやすみなさい」
特に会話があったわけではないのだけれど、陽香がいなくなった部屋はとても静かになっているように感じていた。ティッシュを取る音すらハッキリと聞こえるような気がしていたのだけれど、それは普段が静かではないという証拠なのかもしれない。僕はその取り出したティッシュの上に残っていたクッキーを移動させると、お盆に載っている物をいったんキッチンへと持っていくことにした。
このティーセットは初めて見たような気がするのだけれど、ウチにもこんなのがあったんだなと思って見たりもした。そのままキッチンへ入ろうと思っていたのだが、不思議な事に電気がついていたのだ。普段は電気も消えている時間なので誰かいるのかなと思ってキッチンに入ると、そこには誰もいなかった。陽香がこれを持ってきたときに消すことが出来なかったのかなと思っていたのだが、僕が持ってきた食器類を洗浄機にセットしていると急に後ろから肩を叩かれた。
「こんな時間に紅茶とかお洒落だね。陽香と一緒に飲んでたの?」
「はい、そうですけど。沙緒莉姉さんはこんな時間に何しているんですか?」
「なにって、お風呂に入ってただけだよ。それで、お風呂上りに何か飲もうかなって思ってここに来たの」
「お風呂上りって、三時間も入ってたんですか?」
「最後の一人だったからね、お湯がぬるくなるまではいっちゃってたよ」
「そうなですか。じゃあ、僕は寝るんでおやすみなさい」
「まあまあ、少しくらいは付き合ってよ。私も少しだけ昌晃君と話したいからさ」
「別にいいですけど」
「さすがにここじゃ寒いからさ、昌晃君のベッドの中で話そうか」
「え、何言ってるんですか?」
「なにって、寒さ対策についてだけど」
「いや、それは対策にならないでしょ」
「そうかな。でも、二人で温めあえば一人の時よりも温まるのが早いと思うんだけどね。もしかして、恥ずかしいのかな?」
「いや、恥ずかしいのは沙緒莉姉さんが普段僕に見せてくることですよ」
「あ、それを期待してるってこと?」
「違いますよ。そんなんじゃないです」
「でもね、今は見せてあげることが出来ないんだ」
「いや、普段も見せちゃ駄目ですよ」
「そうじゃなくてね、今はお風呂上りで寝るだけだからノーブラなんだよね。だから、それを見せるのは刺激が強すぎるんじゃないかなって思ってね.。でも、昌晃君が見たいって言うんならめくってくれてもいいんだよ」
「そんな事しないですって。それより、女の人ってお風呂上りはノーブラなんですか?」
「いや、普段はちゃんとしてるよ。お風呂上りに寝るだけってときはしない時もあるけどね。あれ、もしかして、気になってたりした?」
「別に、そういうのじゃないですけど」
「あ、もしかして、陽香と何かあったのかな?」
「何もないですよ。おやすみなさい」
僕は逃げるようにキッチンを出て部屋へと戻っていった。なるべく静かに出来るだけ早く階段を上ったのだけれど、僕の心臓がいつもより早く脈打っていたのはそれだけのせいではないという事は自分でもわかっているのだ。
冷静になろうと思って深呼吸をした時、沙緒莉姉さんが僕の部屋をノックしてそのままドアを開けて廊下から僕を見ていた。
「ごめんね。おやすみなさい」
沙緒莉姉さんはそれだけ言うと自分の部屋へと帰っていった。
僕はそれから一時間以上もドキドキがおさまらなかった。
一緒に出されたクッキーは少し甘さが強いようにも思えたのだが、その甘さが紅茶の香りを引き立てているようにも感じてお互いの相性はいいと感じていた。
「このクッキーって甘めだけど美味しいね。紅茶とよく合うような気がするよ」
「昌晃ってさ、甘いお菓子と甘くないお菓子だったらどっちが好きなの?」
「どっちだろう。お菓子ってあんまり食べる機会が無いんだけどさ、薄味の素材を活かす系よりもしっかり味がする方が好きかも。このクッキーも最初は甘すぎるって思ったけどさ、紅茶と一緒に食べたら凄く美味しいよ」
「そっか、それだったらさ、そのクッキーとケーキだったらどっちが好き?」
「その二択だったらケーキかな。でも、ケーキもあんまり食べることないからそこまで好きってわけでもないけどさ」
「そうなんだ。ちなみになんだけど、イチゴのショートケーキとガトーショコラとチーズケーキだったらどれが好きなのかな?」
「どれも好きだけど、意外とシフォンケーキみたいなやつも好きかな。あんまり食べた事ないけど、小さい時におばあちゃんのとこで食べたシフォンケーキが美味しかった記憶があるんだよね」
「それってもしかして、北川商店のケーキじゃない?」
「そんな感じの名前は聞いたことがあるけどはっきりとは覚えてないんだよね。出されたものを食べるだけだったからさ」
「多分そうだと思うよ。あの辺の人達って来客がある時は北川商店のケーキを買うのが定番だからね。私もお姉ちゃんと何回か買いに行ったことがあるんだけど、あそこのおばさんとお姉さんが作ってるケーキが凄く美味しいのよね。私もあんな風に美味しいケーキを作れるようになりたいんだけどさ、良かったら練習したケーキの試食をお願いしてもいいかな?」
「ケーキの試食なら喜んでやるよ。普段はあまり食べないってだけで甘いもの嫌いじゃないしね。このクッキーは時々食べている物よりも甘いけど美味しいって思うし、これくらい甘くても陽香の入れてくれた紅茶があれば美味しく食べられると思うよ」
「そうなの?」
「うん、僕ってさ、紅茶は市販のミルクティくらいしか飲んだことないんだけど、この紅茶は美味しいと思うよ。上手いこと例えられないけど、飲み終わった後の口の中に残る香りとかもいいと思うしね。普通のお茶と違ってなんか余韻の残る感じがまた飲みたいなって思うね」
「へえ、そんな風に感じてくれるなんて嬉しいな。良かったらさ、今度違う種類の紅茶を飲んでみないかな?」
「他にも種類があるんだ。名前は聞いたことあるけど、実際にどんな感じなのか飲んだことないからどんな感じなのか興味あるかも」
「そうだな、色々種類があるんでたくさん試してもらいたいんだけど、合わせるお菓子とか気分でも感じ方が違ってくると思うし、昌晃が好きな感じの紅茶を見付けられるといいかもね」
「そうだね。でも、僕はそんなに上品な舌を持ってるわけじゃないからそんなに違いが判らないかもしれないな」
「大丈夫よ。それを飲んで香りを楽しめたなら他のも大体大丈夫だと思うからね。それにさ、私もそんなにお上品な舌を持ってるわけじゃないからさ」
そう言いながらも軽く舌を出して照れている陽香の姿を見て僕はドキッとしてしまった。恋とかそういうものではなく、その姿が漫画やアニメから出てきたようだったからだ。
「そうだ、後は漫画を読みながら紅茶を楽しみましょ。この本棚にある漫画ってどれでも読んでいいの?」
「うん、机に置いてあるやつが今読んでるやつだから、それ以外だったら何でもいいよ」
「へえ、いろんな漫画があるのね。私は真弓みたいに詳しくないからこれと言って読みたいのもないのよね。ちなみになんだけど、この本棚の並びって何か理由とかあったりするの?」
「いや、特に拘りは無いよ。最初は高さと書きにしてたりもしたけど、今じゃ入ればそれでいいかなって感じかな。でも、同じやつは同じ場所にまとめたりはしているよ」
「そうなんだね。漫画って意外と似たようなの無いんだね。全部違う風に見えるけど同じ人が書いてても違ったりするんだ」
「あ、それは別の人が書いてるやつだよ。作者の名前は似てるけど別人だったと思うからね」
「そうなのか。言われてみたら別の人だった。じゃあ、これの絵柄が可愛いから読んでみようかな。これって結構長いお話なの?」
「それはそんなに長くなかったと思うよ。三冊くらいで終わってたと思うな。それが面白かったら似たような漫画もあるし、別のを見るってのもありかもね」
「そっか。じゃあ、これにしてみようかな」
陽香は本棚の前にしゃがみこんで漫画を選んでいるのだけれど、今日も来ているパジャマの丈が合っていないようで腰の部分から少しだけパンツが見えていた。そして、今日はそれだけではなく薄手のパジャマを着ているのでパンツのラインもハッキリと浮かんでいた。僕はなるべくそれを見ないようにしていたのだけれど、少しだけ見えていて全容もわかっているのに完璧には見えないというこの状況は辛い。見てはいけないとわかってはいるのだけれど、色も形もわかっているのに全貌がわからないという状況が何となくスッキリしない。いっそのこと、沙緒莉姉さんのように自分から脱いで見せてくれればそれ以降は目で追わなくても平気だと思うのだけれど、今はそんな事をしてくれるような場面ではない。もちろん、陽香が沙緒莉姉さんみたいにさらけ出してくるタイプではないという事は知っているのでわかってはいる。わかってはいるのだけれど、腰から見えていた色のパンツなのかどうかという事が気になってしまっていた。
そんな僕の気持ちを知るはずもない陽香は持ってきた漫画をテーブルに置くと、そのまま横になって漫画を読み始めた。
「行儀悪くてごめんね。ちょっと腰が痛くて座るの辛いから横になるね。でも、紅茶を飲むときはちゃんと起き上がってから飲むから安心してね」
「腰が痛いなら気にしなくていいよ。床が固かったらベッドで読んでも良いし」
「ホントに?」
「うん、横になるならそっちの方が楽じゃない?」
「そうなんだけどさ、私がベッドで横になってもいいの?」
「全然かまわないよ」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。ちょっと床だと肘もいたくなりそうだったからね。ありがとうね」
陽香は床から状態を起こして紅茶を一口だけ口に含んでいた。そのままテーブルの漫画を枕元に移動させると、ベッドの上で漫画を読みだした。僕が普通に寝ても長さに余裕があるベッドなので陽香が手足を伸ばして漫画を読んでも窮屈さは感じられなかった。陽香は枕の関係で僕に足を向けて漫画を読んでいるのだけれど、床からベッドに変わったことで僕の視界に陽香のお尻が入ってくるようになってしまった。
さすがに僕の位置からでは腰のあたりは隠れて見えないのだけれど、お尻に浮かんでいるパンツのラインはハッキリと見えていた。僕は机に向かって読んだ方がいいのだろうかと考えてみたのだけれど、今の状況でいきなり態勢を変えるのは不自然な感じがして落ち着かない。かと言って、今の状況で陽香のお尻部分にパンツのラインがハッキリ浮かんでいるというのも落ち着かない。どうしたらいいのだろうか。僕は真剣に悩んだ。悩んだ。悩んだ結果、とてもいい作戦を思いついたのだ。
「良かったらこれ使っていいよ」
「え、なに?」
僕はそう言いながら勉強する時に使っているひざ掛けを陽香の背中にかけてあげた。ストーブを付けているとはいえ少し肌寒いのでこの作戦は自然な感じで行けると思った。思っていたのだが、僕が腰から太ももくらいにかけてあげたひざ掛けは陽香の肩から腰辺りを覆う形に変わっていた。
「ありがとうね。ちょっと冷えてきたから助かるよ。でもさ、昌晃は寒くないの?」
「僕なら大丈夫だよ。机の脚元にヒーターあるからね」
「へえ、それだったら勉強する時も大丈夫かもね。って、足元にヒーターあるって凄くない?」
「でもさ、これって熱くなり過ぎちゃうんだよね。油断してると火傷したみたいになっちゃうから気を付けないといけないんだ」
「そうなんだ。どんな感じなのか見せてよ」
僕は椅子をどけて陽香にヒーターを見せてあげた。そこには小型の遠赤外線ヒーターが置いてあるのだけれど、陽香はそれを興味津々と言った感じで眺めていた。ホームセンターで買ったやつなのでそこまで高級品といったものではないのだけれど、冬場に勉強している時は役に立った。窓側に机があるせいで冬場は本当につらいのだが、これがあるおかげで何とか乗り切れたと言っても過言ではないだろう。
陽香はいつの間にかベッドから降りて机の下に潜り込んでいた。今は出力を最小にしているのでそれほど熱くないのだけれど、陽香が色々といじっているうちに出力が最大に上がっていたようだ。机の下から出てきて顔を出した陽香は少し汗をかいているようだったが、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
「適当に触ってたら強くなっちゃったからビックリしたよ。でもさ、冬場はこれがあると便利かもね。寒いと勉強したくなくなっちゃうもんね」
「そうなんだよね。足元が寒いと集中出来なくなっちゃうからさ」
たぶんそんな会話をしていたと思う。会話の内容は覚えていないのだけれど、会話ではないところはハッキリと覚えている。
陽香は余程暑かったのか机の上にあった下敷きで自分の顔を仰いでいたのだけれど、その時にシャツの首元を前に引っ張っていたのだ。僕は座り込んでいる陽香の隣に立っていたので何気なくそこを見てしまったのだが、僕の視界に飛び込んできたのは陽香の素肌だった。陽香は何故かシャツの下に何も着ていなかったのだ。当然そうなると見えてしまモノがあるわけで、僕は生まれて初めてそれを見てしまったのだけれど、陽香はそれに気付いていないようだった。そのまま陽香は立ち上がって先ほどと同じようにベッドに横になっているのだけれど、先程とは違って手足を伸ばしたままベッドに突っ伏していたのだった。僕はよからぬ想像をしてしまっていたと思うのだが、冷静さを装って椅子に座ると再び漫画に目を戻したのだった。
「うーん、他の漫画も読んでみようと思ってたけど、眠くなってきちゃったから戻るね。また読みに来てもいいかな?」
「う、うん。別にいつでも来てくれていいよ。読みたいのあったら持っていっても良いし」
「ありがとう。でも、私の部屋はまだ片付いていないから綺麗になってから借りることにするよ」
「あ、その紅茶のやつは僕がキッチンに持っていくからそのままでいいよ。残ってるクッキーも食べたいし」
「そう、じゃあ、それもお言葉に甘えちゃおうかな。今日はありがとうね。おやすみなさい」
特に会話があったわけではないのだけれど、陽香がいなくなった部屋はとても静かになっているように感じていた。ティッシュを取る音すらハッキリと聞こえるような気がしていたのだけれど、それは普段が静かではないという証拠なのかもしれない。僕はその取り出したティッシュの上に残っていたクッキーを移動させると、お盆に載っている物をいったんキッチンへと持っていくことにした。
このティーセットは初めて見たような気がするのだけれど、ウチにもこんなのがあったんだなと思って見たりもした。そのままキッチンへ入ろうと思っていたのだが、不思議な事に電気がついていたのだ。普段は電気も消えている時間なので誰かいるのかなと思ってキッチンに入ると、そこには誰もいなかった。陽香がこれを持ってきたときに消すことが出来なかったのかなと思っていたのだが、僕が持ってきた食器類を洗浄機にセットしていると急に後ろから肩を叩かれた。
「こんな時間に紅茶とかお洒落だね。陽香と一緒に飲んでたの?」
「はい、そうですけど。沙緒莉姉さんはこんな時間に何しているんですか?」
「なにって、お風呂に入ってただけだよ。それで、お風呂上りに何か飲もうかなって思ってここに来たの」
「お風呂上りって、三時間も入ってたんですか?」
「最後の一人だったからね、お湯がぬるくなるまではいっちゃってたよ」
「そうなですか。じゃあ、僕は寝るんでおやすみなさい」
「まあまあ、少しくらいは付き合ってよ。私も少しだけ昌晃君と話したいからさ」
「別にいいですけど」
「さすがにここじゃ寒いからさ、昌晃君のベッドの中で話そうか」
「え、何言ってるんですか?」
「なにって、寒さ対策についてだけど」
「いや、それは対策にならないでしょ」
「そうかな。でも、二人で温めあえば一人の時よりも温まるのが早いと思うんだけどね。もしかして、恥ずかしいのかな?」
「いや、恥ずかしいのは沙緒莉姉さんが普段僕に見せてくることですよ」
「あ、それを期待してるってこと?」
「違いますよ。そんなんじゃないです」
「でもね、今は見せてあげることが出来ないんだ」
「いや、普段も見せちゃ駄目ですよ」
「そうじゃなくてね、今はお風呂上りで寝るだけだからノーブラなんだよね。だから、それを見せるのは刺激が強すぎるんじゃないかなって思ってね.。でも、昌晃君が見たいって言うんならめくってくれてもいいんだよ」
「そんな事しないですって。それより、女の人ってお風呂上りはノーブラなんですか?」
「いや、普段はちゃんとしてるよ。お風呂上りに寝るだけってときはしない時もあるけどね。あれ、もしかして、気になってたりした?」
「別に、そういうのじゃないですけど」
「あ、もしかして、陽香と何かあったのかな?」
「何もないですよ。おやすみなさい」
僕は逃げるようにキッチンを出て部屋へと戻っていった。なるべく静かに出来るだけ早く階段を上ったのだけれど、僕の心臓がいつもより早く脈打っていたのはそれだけのせいではないという事は自分でもわかっているのだ。
冷静になろうと思って深呼吸をした時、沙緒莉姉さんが僕の部屋をノックしてそのままドアを開けて廊下から僕を見ていた。
「ごめんね。おやすみなさい」
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