春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎

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高校生編1

林田さんは紐を引っ張ってもらいたい

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 僕たちはお料理研究会の部室の中にピクニックシートを敷いてその上に座って持ってきたお弁当を食べていた。相変わらず味がしないおかずがいくつかあるのだけれど、今日はたまご焼きと野菜炒めを作ったのが陽香だという事は理解出来た。

「林田さんってさ、料理が得意なのかな?」
「得意って程ではないと思うけど、人並みには作れると思うよ。齋藤君は料理をするのが好きなの?」
「僕は料理は作るよりも食べる方が専門かな」
「そうなんだ。もしかして、今日も作ってもらったお弁当なのかな?」
「そうだよ。今日は陽香が作ってくれたんだっけ?」
「作ったって言っても、たまご焼きと野菜炒めだけだしね。それに、上手に作れてるって実感は無いんだけどさ」
「まあ、塩っ気が足りないなって思う時はあるけどさ、最初に比べたら全然美味しくなってると思うよ味見もちゃんとするようになったしね」
「昌晃の家で最初に作った時は私もお姉ちゃんも真弓もみんな味付けをするって事も知らなかったくらいだしね。今でも、味付けをするのにちょっとだけ罪悪感に苛まれちゃうんだけど、それをしっかりやらないとダメなんだよね」
「前田さんってさ、もしかして料理が苦手なのかな?」
「うん、苦手ってよりも、味付けの仕方がいまいちわかってないって感じなんだよね。お料理研究会って書いてあったんだけど、林田さんってお料理研究会なの?」
「うん、そうだよ。前田さんさえよかったらいつでも遊びに来ていいからね。レシピ本とかいっぱいあるし、必要なのがあったら言ってくれたらいつでも貸出することが出来るよ」
「ありがとう。私も林田さんと一緒にここに入って研究したら料理が上手になれるかな?」
「あ、残念だけどそれは無理な話だよ。だって、ここは正式に部活として認められていないからね。この部屋も私が自習するって目的で学校から借りてるだけだし、入り口の髪だって勝手に貼ってるだけだからね。先生たちは黙認してくれているんだけど、一組の前田さんがここに深く関わっちゃうと、それも難しくなっちゃうんだよね。でも、私がいる時だったらいつでも遊びに来てくれていいからね。他の人はあんまり入れたくないけど、齋藤君のいとこの前田さんだったらいつでも大歓迎だよ」
「そうだったんだ。でも、自習のために空き部屋を使えるなんて凄いね。何か特別な理由でもあるの?」
「別にそういうのは無いと思うけど、一組に異動するか自習室を借りれるか選べたような気がするよ。でも、小学生の時だったからちゃんと覚えてないんだよね。それに、自習室を使う時ってお料理の勉強をしたいなって思った時だけだったかも」

 ここは普段使っていないような口ぶりだったのだが、その割にはきれいに掃除もされているようだ。本棚にも床にも埃なんてないし、カーテンも色あせたりはしていなかった。
 本棚には当然料理の本が多いわけなのだが、それ以外にも占いの本だったり服飾関係の本もいくつかあるようだった。本棚に入っている本が僕の部屋にはないような本ばかりだったので、僕はその本たちが少し気になってしまっていた。

「林田さんって、料理だけじゃなくて占いとか服を作ったりもしてるの?」
「その本は私のじゃないのよ。知り合いが置いていった本なんだけど、齋藤君が読みたいって思うんだったら持っていってもいいわよ」
「いや、そこまで読みたいって感じじゃないんだよね。ただ、林田さんがそういうのにも興味があるのかなって思っただけだからさ」
「え、齋藤君が私の事に興味あるって事?」
「まあ、どんな人なんだろうって気にはなってるかも。林田さんは授業中もみんなに分かりやすく答えてたりするし、誰かに質問された時も丁寧に答えているからさ。陽香に料理を教えてくれる時もそんな感じなんだろうなって思ってるんだけど、林田さんってきっといい人だよね」
「ふふ、どうだろうね。でも、齋藤君のいとこの前田さんにならいつも以上に丁寧に教えると思うわ。だって、これから長い付き合いになると思うからね」

 確かに、大学生活を含めればこれから七年近くになると思うし、大学院に行ったとしたらさらにそれが伸びるわけだ。これからどれだけ一緒の学校で学んでいくのかわからないけれど、お互いに仲良くしていくのは得はあれども損はないだろう。

「そう言えば、お弁当を温めたいって思ってたらそこに電子レンジがあるから使っていいよ。私はあんまりお弁当を温めるのが好きじゃないんだけど、温かい方が良いんだったら気にせずに使ってね。それと、温かいお茶も用意しようか?」
「僕は大丈夫だよ。陽香は?」
「私もこのままで大丈夫かな。お弁当も温めた方が美味しいかもしれないけど、私の作ったおかずは温めてもそんなに変わらないと思うしね」
「お弁当用に作った料理って、温めなくても美味しくしてるもんね」
「いや、私の場合は味付けが失敗しているというか、自分で塩加減がわからないんだよね。だから、全部素材の味だけになっちゃうんだ。長年そういう感じで作ってきたから、自然とそうなっちゃってるのかも」
「でも、見た感じだとお野菜も綺麗にそろえて切れてるし、たまご焼きだって焦げずに綺麗に負けてると思うよ。それだけ見た目が綺麗に作れるんだったら、後は味付けさえしっかりすれば大丈夫だと思うんだけどな。良かったらなんだけど、このお弁当作りの本を持っていってもいいわよ。これに載ってる料理はたぶん味付け以外なら齋藤さんは上手に出来ると思うのよね。あとは、これに載ってる通りの味付けをすれば完璧になると思うわよ。どう、大丈夫そう?」
「パッと見た感じ出来そうなんだけど、こんなに調味料を使っても大丈夫なの?」
「大丈夫って言うか、それでも結構控えめな分量だと思うわよ。家で普通に作る時はそれよりも濃い味になることが多いと思うんだけど、前田さんはとりあえずそれを忠実に守るところから始めるといいんじゃないかな」
「ありがとう。この本を見て頑張ってみるね。私の妹にも見せていいかな?」
「ええ、妹さんにも見せてもらって構わないわ。二人で美味しいものを作ってくれれば私も安心だしね」
「安心?」
「いや、こっちの事だったわ。でも、何でも出来そうな前田さんが料理が苦手なんて意外だったな。頭が良いから料理も得意だと思ってたんだけどね」
「頭の良さと料理って何か関係あるの?」
「料理って、基本的には足し算の積み重ねだからね。どれくらい入れたら良くなるかって考えながらやったらそうそう失敗なんてしないんだけどね。前田さんの場合は味付け以外は完璧だって事だし、それさえ出来ればいいものが出来上がると思うわ」
「そう言われると何となくだけど、理屈はわかってきたかも。林田さんって、教えるのが上手いだけじゃなくてその気にさせるのも上手なのね。ちょっとこの本を一通り読んでみようかな」

 僕は母さんの作ってくれたと思うミートボールを食べながら時々陽香の作った料理を食べていたのだけれど、それらには一切味付けがされていないのであった。この方が健康的でいいと言われるのかもしれないけれど、味がほとんどしないものを食べるというのは意外とストレスが溜まる者なのだ。美味しくないわけではないのだが、とにかく素材の味以外は一切しないのだ。

「ねえ、齋藤君は前田さんの作る料理が美味しくなるのって嬉しい?」
「そうだね。毎日食べてるわけじゃないけど、美味しいに越したことは無いね。でも、そんなに簡単に上手になるもんかな?」
「意外とあっという間に上手になると思うよ。前田さんはきっと味を濃くすることに抵抗があると思うんだけど、それじゃもの大利ないモノしか出来上がらないんだよ。それはちゃんと理解はしていると思うだけど、きっと今までの積み重ねが味を濃くするという事を拒んでしまっているんじゃないかな。それさえ乗り越えられたらすぐに普通の物が作れるようになると思うし、その先にある美味しいものにも繋がると思うんだよね。そうだ、繋がると言えば、齋藤君に見せたいものがあるんだよね」
「見せたいもの?」
「そう、大事なものを繋いでいるっていうのがどういう状態なのか齋藤君に教えておこうかなって思ってね」
「それって、料理にとって大切な事だったりするのかな?」
「料理にとって大切かはわからないけど、齋藤君にとっては良いオカズになると思うわよ」

 林田さんは僕と陽香の間に入ってくると、僕の方を向いて立っていた。林田さんは細身なので陽香の姿を隠すことは無かったけれど、少しだけ見える陽香は林田さんの渡した本に夢中になっているようだ。

「ねえ、この紐を引っ張ったらイイコトがあるかもよ」

 林田さんは僕だけにしか見えないように制服のスカートをたくし上げたのだけれど、その中にはサイド部分が紐で結ばれている黒いパンツが目に入ってきた。だが、その紐をひいてしまうと大変な事態になってしまうのではないだろうか。
 今まで何度も陽香や沙緒莉姉さんや真弓や吉川さんや今井さんのパンツは見てきた。林田さんのように自分から見せてくる沙緒莉姉さんや真弓もいたのだけれど、紐をひけと言われたのは初めての経験だった。
 だが、僕は林田さんのその言葉に従うことは無かった。それは当然のことではあるのだけれど、それをひいてしまうと後戻りできない場所に連れて行かれるような気がしていた。

「ねえ、齋藤君なら特別に引いてもいいんだよ。だって、私と齋藤君は運命で硬く結ばれているんだからね。こんな紐がほどけたって、それ以上の固い絆で結ばれているんだからね」

 林田さんの例え話は正直に言って意味が分からなかった。運命で硬く結ばれていると言っても僕はそんな事を思ったことは無い。たまたま小テストの点数が同じで間違えた場所も一緒だっただけなのだけれど、それは運命ではなく偶然と言ってしまっていいようなものだとは思う。
 でも、僕とは違って林田さんはそう思っていないようではあった。
 林田さんの目は僕に陶酔しているように見えたのだった。

 陽香がページをめくる音に紛れて林田さんの呼吸も少しだけ荒くなっていたのだった。
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