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ゴールデンウィーク編後半
真弓が休み中にしたいこと
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世間ではもうゴールデンウィークも終わりに近づいているというのに、僕たちが通っている学校は中学校も高校も大学もまだ一週間は休みがあるのだ。
僕にとってはいつもより長い休みになるのでどうしたらいいのかと不安になることもあるのだけれど、僕のいとこたちはすでにそれに順応しているかのようにダラダラと過ごしていた。僕の両親が陽香たちの親がいるところから帰ってくるのもあと三日後に迫っているのだけれど、その間一切連絡が無かったのは少し気がかりでもあった。
「ねえ、明日も今日みたいな天気だったらお兄ちゃんの自転車を借りてもいい?」
「良いけど、どこかに行くのかい?」
「うん、学校の友達に教えてもらった公園に行ってみようかと思ってるんだ。そこは何にもないらしいけど、高いところにあるから景色は綺麗なんだって言ってたよ。お兄ちゃんも一緒に行く?」
「一緒に行くって言われてもさ、自転車を貸したら一緒に行けないでしょ。通学用にもう一台買ったとしても、全然歩いていける距離だから必要無いんだよね。でも、その公園って結構遠い場所にあるの?」
「何とかガ丘にあるって言ってたよ。あとで地図を見て確認するけどさ、それだけ景色が良いって事は行くの大変になるのかな?」
「真弓が行きたい場所は何回か車で行ったことはあるけど、自転車で行くのは相当きついと思うよ。ずっと上り坂で平坦な道なんてほとんど無かったからね。でも、真弓は体力あるし体重も軽いから意外といけるかもしれないね」
「そうなのか。じゃあ、今度おじさんが休みの時に連れて行ってもらおうかな。でも、せっかくの休みだからどこかに行きたいな。ねえ、お兄ちゃんはどこか行きたい場所とかないの?」
真弓は僕の後ろに移動していたと思ったら、僕を後ろからぎゅっと抱きしめて肩に顔を乗せてきた。耳のすぐそばで真弓の声がするので少しくすぐったく感じるのだけれど、そんなに嫌な気分にはならなかった。
真弓が僕の家に来てから似たようなことが何度もあったし、それに慣れたというのもあるのかもしれないけれど、真弓は良く笑うし僕とも楽しそうに遊んでくれるので本当の妹のようにかわいがっていると思う。もちろん、陽香も沙緒莉姉さんも本当の姉弟のように感じることはあるのだ。
僕は今行きたい場所をいくつか考えてみたのだけれど、どうしても今でなければいけないような場所は全く思いつかなかった。どこに行くにも歩いていくというのは少し遠いし、近所で探すとなっても行きたいような場所はほとんど行きつくしていると思う。
「真弓はカラオケとかボウリングとか好き?」
「どっちもあんまり行った事ないけど、やってみたいとは思うかも。お姉ちゃんたちはどうなの?」
「そうね。私は大学の友達とカラオケは何回か行ってみたけど、ボウリングってやったことないかも」
「私もお姉ちゃんと一緒でボウリング流行ったことないかも。あ、カラオケも行った事なかったわ」
「お姉ちゃんたちは行くとしたらどっちが良いの?」
「私はカラオケに行っても歌わないし、ボウリングに行っても見てるだけだと思うな。でも、それでもいいって言うんだったらついていくよ」
「私もお姉ちゃんと一緒でカラオケで歌わないかも。歌えるほど歌を聞いてないってのもあるけど、私の歌なんて聞いても楽しくないでしょ」
「ねえ、お兄ちゃんはカラオケだったら何を歌うの?」
「僕はね、カラオケに行ったことが無いからわからないかな。行く機会も無かったし、誘われることも無かったからね」
「なんかごめん。でもでも、高校で出来た友達に誘われたりしなかったの?」
「誘われたりもしなかったかな。僕に仲良くしてくれる人ってほとんどが陽香と仲良くなりたい人達だからね。僕と遊ぶとかは考えてないんじゃないかな」
「そうなのかな。でもさ、それでもお兄ちゃんが必要とされてることには変わりないんだから気にしなくてもいいんじゃないかな。じゃあ、真弓は海が見たいな。こっちに来た時に見たっきりだからもう一回見てみたいかも。ねえ、それだったらお姉ちゃんたちも一緒に行ってくれるよね?」
「海か。結構いいかもね。さすがに海にまでついてくることは無いと思うし、何かあったら昌晃君に助けてもらえばいいもんね」
「お姉ちゃんの事を追いかけているストーカーの人もゴールデンウィーク中はどこか遠くに行ってると思うけどね。家に残ってるのって私のクラスでは私しかいなかったからね。きっとお姉ちゃんの大学も似たようなものだと思うよ」
「そうだといいんだけどね。でも、大学の人達って意外と研究室に用事があったりするから遠出してない人も多かったりするんだよ。私は家にいるけど研究室に行く用事も特にないから関係無いんだけどさ」
「じゃあ、明日は皆で海に行こうよ。お弁当を作って持っていってさ、みんなで海を見ながら食べようよ」
「じゃあ、晩御飯の買い出しのついでにお弁当のために何か買わないとね。どうせならさ、みんなで作っちゃおうか。三人ともどうかな?」
「ああ、晩御飯は私達で作るからさ、お弁当は昌晃が作ったらどうかな。いや、お手伝いはするけど味付けとか肝心なところは昌晃にやってもらった方がいい思い出も作れるような気がするのよね」
「そうかもね。陽香の言う通り昌晃君にお願いした方がいいかもね。ほら、私達ってまだ自分の料理に自信を持てないからさ、せっかくの思い出も味のしないお弁当のせいで台無しになってしまったら困るでしょ」
「そうだよ。真弓はお兄ちゃんの作ったお弁当が食べたいな。学校のお弁当は陽香お姉ちゃんが作ったのでも我慢出来るけど、せっかく海で食べるんだったら美味しい方がいいもん。ねえ、ダメかな?」
「いやいや、三人の言いたいことはわかるけどさ。僕だってみんなが喜ぶようなオカズを作れるわけじゃないからね。味は普通だったとしても、見た目はきっとおいしそうに見えないものばかりになっちゃうと思うんだよね。ん、見た目がダメで味はそこそこって事は、僕が味付けして調理は皆にしてもらうってどうかな?」
「それなら大丈夫かも。昌晃君の味付けは間違いないだろうしね」
「たまには昌晃も良い事思いつくわね。その発想は無かったわ」
「真弓もお兄ちゃんに手伝ってもらえるなら頑張るよ。でも、出来るものなんて少ししかないけどね。ねえ、お買い物はみんなで行く?」
「べつにみんなで行かなくてもいいような気がするけど、それぞれ作りたいものを考えながら別々に選んでみようか。作る時に分かっちゃうことではあるけど、そういうドキドキもたまにはいいんじゃないかな。陽香と真弓が何を作るのか楽しみだな」
「そうね。それもいいかも。昌晃も何か一品くらい作っていいからね。お弁当箱はいつものじゃなくて、皆でつつけそうなお重があればいいんだけど、そういうのってあったりするのかな?」
「たぶんあると思うよ。どこにあるかはわからないけど、少し探してみるよ」
「お願いね。そのお重の大きさ次第で中身も考えなくちゃいけないし、頼むよ。じゃあ、私は外に行く用の服に着替えてくるね。さすがに部屋着で外に行くのは恥ずかしいからさ」
「あ、真弓も着替えてくる。この格好じゃまだ寒そうだし、上に何か着ようかな」
「私は上にコートでも羽織れば大丈夫だから、昌晃君の探し物でも手伝おうかな。どの辺にあると思うの?」
「母さんにLINEで聞いてみたんだけど、階段下の収納スペースにあるってさ。あと、お弁当が出来たら写真撮って送ってくれって言ってるみたいだよ」
「送ってくれって、おばさんが見たいって事?」
「それもあると思うけど、おじさんとおばさんがみんなで作ったお弁当を見てみたいって言ってるみたいだよ」
「そんなに上等なものが出来るかわからないけど、いつも作ってるお弁当の延長だと思えば何とかなるかもね。じゃあ、収納スペースに行ってみようか」
陽香と真弓は僕たちが収納スペースの扉に手をかけた時には階段を駆け上がっていた。この角度とタイミングだと見上げてもパンツは見えないので問題は無かったのだけれど、少し冷静になって考えてみると、狭い収納スペースに沙緒莉姉さんと二人っきりになるというのは良くない事なのではないかと考えてしまっていた。
それは僕の考えすぎだと思うけれど、きっとこういう時に思う良くないことは大体イメージ通りかそれ以上の物になってしまうのだ。僕は三人と一緒に暮らすようになってからそんな事を痛いほど感じていたのだ。
「ねえ、これが探しているお重ってやつかな?」
「入口の方にあったんですか?」
僕はちゃんと警戒はしていたのだけれど、沙緒莉姉さんが言った言葉に素直に反応して振り返ってしまった。
そこにはお重ではなく、さっきまで来ていたトレーナーを脱いで胸を限界まで腕で寄せている沙緒莉姉さんが立っていた。ほら、思った通りだ。
沙緒莉姉さんはヒマワリがたくさんついているブラジャーを付けているのだけれど、僕が何のリアクションも返さなかったので逆に戸惑っているようだ。僕もやられてばっかりではないというところを見せたいのだけれど、ブラジャーを見ないように沙緒莉姉さんの目をしっかりと見るのが精一杯の抵抗だった。
「ねえ、お弁当箱って見つかったのかな?」
僕たちは音もたてずに階段を下りてきた真弓に全く気が付かなかったので、真弓がいきなり話しかけてきたときに二人とも変な声を出して驚いてしまった。
沙緒莉姉さんは上半身ブラジャーだけの姿なので全くもっておかしな状況ではあるのだが、そんな沙緒莉姉さんを真顔で見つめている僕も真弓から見たら異常に見えるかもしれない。
僕はそんな真弓の誤解を解こうと思って、視線を沙緒莉姉さんから真弓の方へ向けたのだけれど、そこに立っていた真弓はなぜかスカートを履かずに手に持った状態だったのだ。
真弓の手にはオレンジ色の長めのスカートがしっかりと握られているので、下半身はハイソックスとパンツだけというこれまた異質な格好をしていたのだ。
「ねえ、このスカートって変じゃないかな?」
真弓はそう言いながら持っているスカートをひらひらと揺らしていたのだけれど、そのスカートを履いていないという事の方が変な気はしていた。
「大丈夫じゃないかな。そのスカートはこの前買ってたやつだと思うけど、真弓の持ってるアウターにばっちり合うと思うよ」
「沙緒莉お姉ちゃんがそう言ってくれるなら大丈夫だね。じゃあ、このスカートを履いてみるからちょっと見ててね」
僕はこの二人の事を無視して重箱を探しておけば良かったと後悔していた。
それにしても、探し物を手伝ってくれたのが陽香だったらこんな事にはならなかったんだろうなと思ってしまっていた。
陽香がやってきたころには重箱は見つかっていたのだけれど、僕が小さい時に見た物よりも少し大きくなっているようにも感じていた。
成長して小さく見えることはあるとしても、大きく見えるという事は僕が成長していないって事なのだろうか。そう思うと、僕はなんだか不安な気持ちで一杯になってしまっていたのだった。
僕にとってはいつもより長い休みになるのでどうしたらいいのかと不安になることもあるのだけれど、僕のいとこたちはすでにそれに順応しているかのようにダラダラと過ごしていた。僕の両親が陽香たちの親がいるところから帰ってくるのもあと三日後に迫っているのだけれど、その間一切連絡が無かったのは少し気がかりでもあった。
「ねえ、明日も今日みたいな天気だったらお兄ちゃんの自転車を借りてもいい?」
「良いけど、どこかに行くのかい?」
「うん、学校の友達に教えてもらった公園に行ってみようかと思ってるんだ。そこは何にもないらしいけど、高いところにあるから景色は綺麗なんだって言ってたよ。お兄ちゃんも一緒に行く?」
「一緒に行くって言われてもさ、自転車を貸したら一緒に行けないでしょ。通学用にもう一台買ったとしても、全然歩いていける距離だから必要無いんだよね。でも、その公園って結構遠い場所にあるの?」
「何とかガ丘にあるって言ってたよ。あとで地図を見て確認するけどさ、それだけ景色が良いって事は行くの大変になるのかな?」
「真弓が行きたい場所は何回か車で行ったことはあるけど、自転車で行くのは相当きついと思うよ。ずっと上り坂で平坦な道なんてほとんど無かったからね。でも、真弓は体力あるし体重も軽いから意外といけるかもしれないね」
「そうなのか。じゃあ、今度おじさんが休みの時に連れて行ってもらおうかな。でも、せっかくの休みだからどこかに行きたいな。ねえ、お兄ちゃんはどこか行きたい場所とかないの?」
真弓は僕の後ろに移動していたと思ったら、僕を後ろからぎゅっと抱きしめて肩に顔を乗せてきた。耳のすぐそばで真弓の声がするので少しくすぐったく感じるのだけれど、そんなに嫌な気分にはならなかった。
真弓が僕の家に来てから似たようなことが何度もあったし、それに慣れたというのもあるのかもしれないけれど、真弓は良く笑うし僕とも楽しそうに遊んでくれるので本当の妹のようにかわいがっていると思う。もちろん、陽香も沙緒莉姉さんも本当の姉弟のように感じることはあるのだ。
僕は今行きたい場所をいくつか考えてみたのだけれど、どうしても今でなければいけないような場所は全く思いつかなかった。どこに行くにも歩いていくというのは少し遠いし、近所で探すとなっても行きたいような場所はほとんど行きつくしていると思う。
「真弓はカラオケとかボウリングとか好き?」
「どっちもあんまり行った事ないけど、やってみたいとは思うかも。お姉ちゃんたちはどうなの?」
「そうね。私は大学の友達とカラオケは何回か行ってみたけど、ボウリングってやったことないかも」
「私もお姉ちゃんと一緒でボウリング流行ったことないかも。あ、カラオケも行った事なかったわ」
「お姉ちゃんたちは行くとしたらどっちが良いの?」
「私はカラオケに行っても歌わないし、ボウリングに行っても見てるだけだと思うな。でも、それでもいいって言うんだったらついていくよ」
「私もお姉ちゃんと一緒でカラオケで歌わないかも。歌えるほど歌を聞いてないってのもあるけど、私の歌なんて聞いても楽しくないでしょ」
「ねえ、お兄ちゃんはカラオケだったら何を歌うの?」
「僕はね、カラオケに行ったことが無いからわからないかな。行く機会も無かったし、誘われることも無かったからね」
「なんかごめん。でもでも、高校で出来た友達に誘われたりしなかったの?」
「誘われたりもしなかったかな。僕に仲良くしてくれる人ってほとんどが陽香と仲良くなりたい人達だからね。僕と遊ぶとかは考えてないんじゃないかな」
「そうなのかな。でもさ、それでもお兄ちゃんが必要とされてることには変わりないんだから気にしなくてもいいんじゃないかな。じゃあ、真弓は海が見たいな。こっちに来た時に見たっきりだからもう一回見てみたいかも。ねえ、それだったらお姉ちゃんたちも一緒に行ってくれるよね?」
「海か。結構いいかもね。さすがに海にまでついてくることは無いと思うし、何かあったら昌晃君に助けてもらえばいいもんね」
「お姉ちゃんの事を追いかけているストーカーの人もゴールデンウィーク中はどこか遠くに行ってると思うけどね。家に残ってるのって私のクラスでは私しかいなかったからね。きっとお姉ちゃんの大学も似たようなものだと思うよ」
「そうだといいんだけどね。でも、大学の人達って意外と研究室に用事があったりするから遠出してない人も多かったりするんだよ。私は家にいるけど研究室に行く用事も特にないから関係無いんだけどさ」
「じゃあ、明日は皆で海に行こうよ。お弁当を作って持っていってさ、みんなで海を見ながら食べようよ」
「じゃあ、晩御飯の買い出しのついでにお弁当のために何か買わないとね。どうせならさ、みんなで作っちゃおうか。三人ともどうかな?」
「ああ、晩御飯は私達で作るからさ、お弁当は昌晃が作ったらどうかな。いや、お手伝いはするけど味付けとか肝心なところは昌晃にやってもらった方がいい思い出も作れるような気がするのよね」
「そうかもね。陽香の言う通り昌晃君にお願いした方がいいかもね。ほら、私達ってまだ自分の料理に自信を持てないからさ、せっかくの思い出も味のしないお弁当のせいで台無しになってしまったら困るでしょ」
「そうだよ。真弓はお兄ちゃんの作ったお弁当が食べたいな。学校のお弁当は陽香お姉ちゃんが作ったのでも我慢出来るけど、せっかく海で食べるんだったら美味しい方がいいもん。ねえ、ダメかな?」
「いやいや、三人の言いたいことはわかるけどさ。僕だってみんなが喜ぶようなオカズを作れるわけじゃないからね。味は普通だったとしても、見た目はきっとおいしそうに見えないものばかりになっちゃうと思うんだよね。ん、見た目がダメで味はそこそこって事は、僕が味付けして調理は皆にしてもらうってどうかな?」
「それなら大丈夫かも。昌晃君の味付けは間違いないだろうしね」
「たまには昌晃も良い事思いつくわね。その発想は無かったわ」
「真弓もお兄ちゃんに手伝ってもらえるなら頑張るよ。でも、出来るものなんて少ししかないけどね。ねえ、お買い物はみんなで行く?」
「べつにみんなで行かなくてもいいような気がするけど、それぞれ作りたいものを考えながら別々に選んでみようか。作る時に分かっちゃうことではあるけど、そういうドキドキもたまにはいいんじゃないかな。陽香と真弓が何を作るのか楽しみだな」
「そうね。それもいいかも。昌晃も何か一品くらい作っていいからね。お弁当箱はいつものじゃなくて、皆でつつけそうなお重があればいいんだけど、そういうのってあったりするのかな?」
「たぶんあると思うよ。どこにあるかはわからないけど、少し探してみるよ」
「お願いね。そのお重の大きさ次第で中身も考えなくちゃいけないし、頼むよ。じゃあ、私は外に行く用の服に着替えてくるね。さすがに部屋着で外に行くのは恥ずかしいからさ」
「あ、真弓も着替えてくる。この格好じゃまだ寒そうだし、上に何か着ようかな」
「私は上にコートでも羽織れば大丈夫だから、昌晃君の探し物でも手伝おうかな。どの辺にあると思うの?」
「母さんにLINEで聞いてみたんだけど、階段下の収納スペースにあるってさ。あと、お弁当が出来たら写真撮って送ってくれって言ってるみたいだよ」
「送ってくれって、おばさんが見たいって事?」
「それもあると思うけど、おじさんとおばさんがみんなで作ったお弁当を見てみたいって言ってるみたいだよ」
「そんなに上等なものが出来るかわからないけど、いつも作ってるお弁当の延長だと思えば何とかなるかもね。じゃあ、収納スペースに行ってみようか」
陽香と真弓は僕たちが収納スペースの扉に手をかけた時には階段を駆け上がっていた。この角度とタイミングだと見上げてもパンツは見えないので問題は無かったのだけれど、少し冷静になって考えてみると、狭い収納スペースに沙緒莉姉さんと二人っきりになるというのは良くない事なのではないかと考えてしまっていた。
それは僕の考えすぎだと思うけれど、きっとこういう時に思う良くないことは大体イメージ通りかそれ以上の物になってしまうのだ。僕は三人と一緒に暮らすようになってからそんな事を痛いほど感じていたのだ。
「ねえ、これが探しているお重ってやつかな?」
「入口の方にあったんですか?」
僕はちゃんと警戒はしていたのだけれど、沙緒莉姉さんが言った言葉に素直に反応して振り返ってしまった。
そこにはお重ではなく、さっきまで来ていたトレーナーを脱いで胸を限界まで腕で寄せている沙緒莉姉さんが立っていた。ほら、思った通りだ。
沙緒莉姉さんはヒマワリがたくさんついているブラジャーを付けているのだけれど、僕が何のリアクションも返さなかったので逆に戸惑っているようだ。僕もやられてばっかりではないというところを見せたいのだけれど、ブラジャーを見ないように沙緒莉姉さんの目をしっかりと見るのが精一杯の抵抗だった。
「ねえ、お弁当箱って見つかったのかな?」
僕たちは音もたてずに階段を下りてきた真弓に全く気が付かなかったので、真弓がいきなり話しかけてきたときに二人とも変な声を出して驚いてしまった。
沙緒莉姉さんは上半身ブラジャーだけの姿なので全くもっておかしな状況ではあるのだが、そんな沙緒莉姉さんを真顔で見つめている僕も真弓から見たら異常に見えるかもしれない。
僕はそんな真弓の誤解を解こうと思って、視線を沙緒莉姉さんから真弓の方へ向けたのだけれど、そこに立っていた真弓はなぜかスカートを履かずに手に持った状態だったのだ。
真弓の手にはオレンジ色の長めのスカートがしっかりと握られているので、下半身はハイソックスとパンツだけというこれまた異質な格好をしていたのだ。
「ねえ、このスカートって変じゃないかな?」
真弓はそう言いながら持っているスカートをひらひらと揺らしていたのだけれど、そのスカートを履いていないという事の方が変な気はしていた。
「大丈夫じゃないかな。そのスカートはこの前買ってたやつだと思うけど、真弓の持ってるアウターにばっちり合うと思うよ」
「沙緒莉お姉ちゃんがそう言ってくれるなら大丈夫だね。じゃあ、このスカートを履いてみるからちょっと見ててね」
僕はこの二人の事を無視して重箱を探しておけば良かったと後悔していた。
それにしても、探し物を手伝ってくれたのが陽香だったらこんな事にはならなかったんだろうなと思ってしまっていた。
陽香がやってきたころには重箱は見つかっていたのだけれど、僕が小さい時に見た物よりも少し大きくなっているようにも感じていた。
成長して小さく見えることはあるとしても、大きく見えるという事は僕が成長していないって事なのだろうか。そう思うと、僕はなんだか不安な気持ちで一杯になってしまっていたのだった。
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