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13 図書室探検
しおりを挟むお昼休み。
食後のデザートにと思い、昨日は屋敷に帰ってからフィナンシェを作ってみました。
殿下にはお世話になりっぱなしなのでお礼をしたいのですが、喜んでもらえそうなものがこれしか思い浮かばず……。
考えてみたら、私は殿下の好みを何も知らなくて愕然としました。
「ミシェルが作ってくれるお菓子なら、何でも嬉しいよ」
殿下の好みを探るべく、手始めに好きなお菓子はと尋ねてみたところ、そんな返事が返ってきました。
事実、フィナンシェも目を輝かせて喜んでくれたので私としても嬉しいのですが、聞きたいのは殿下自身の好みなんです。
続いて、好きな色ならどうかと思い尋ねてみると。
「ミシェルの髪色は蜂蜜のようで、可愛いよ。瞳も真っ赤な果実のようで、思わず食べてしまいたくなる」
私の髪の毛を手に取った殿下は。愛おしそうなお顔で髪の毛に口づけをします。
シリル様と昼寝中のセルジュ様もいるのに、大胆すぎませんかっ。
「後、ミシェルのその表情も大好物だよ」
一体私は、どのような表情をしているのですか?
殿下の好みを探ろうとしただけなのに、どうして私はこんなにも恥ずかしい目に遭っているのでしょう。
「もうすぐ俺の誕生日だから、今のをぜひ参考にしてほしいな」
「ぜっ、善処します」
殿下の言うとおり、もうすぐ彼の誕生日もやってくるのです。
お礼も思い浮かばないのに、誕生日プレゼントなんて何を差し上げたら良いか……。
今のを参考にすると、私を差し出す以外に思い浮かばないのですが、さすがに人間をプレゼントにはできませんし……。
フィナンシェを食べ終えた殿下は資料を読みはじめましたが、必要な情報が足りないようで。シリル様と困った様子で話し合っています。
話の内容を聞いていて、私にできるお礼はこれが良いのではと思いつきました。
「私に資料探しのお手伝いをさせていただけませんか」
そう申し出ると、彼は仕事を手伝わせることに消極的でしたが、日ごろのお礼がしたいと食い下がってみると、そういうことならと喜んでくれました。
「これは、後ろ盾を得るための活動なんだ」
殿下のお話によると、王太子もいろいろと大変なようです。
この国における王太子の選定方法は特殊で。王子たちは魔法学園在学中に、魔の森の奥深くにあると言われている『王太子の証』を取得する必要があります。
それこそこのゲームのメインストーリーでもあるのですが、現実はもっと複雑なようで王太子の証を得るだけでは不十分なのだとか。
この国には王子が三人いますが、第一王子は在学中に王太子の証を得られなかったため、王太子になれませんでした。
そして第二王子であるルシアン殿下が王太子の証を得たので王太子となりましたが、これは絶対的なものではないのだそうです。
殿下の二歳下には第三王子がおり、もうすぐ王太子の証を得られるかもしれないそうで。近い未来に王太子の証を持つ王子が、二人になってしまいます。
「そうなってしまうと、後ろ盾の多い側が有利なんだ」
殿下は残念そうに微笑みました。
苦労して得た王太子の証なのに、結局は権力争いの土台にしかならないのは辛いと思います。
殿下は王太子の座を奪われないために、今は後ろ盾を得ようと頑張っているようです。
それを聞いてしまうと、改めて殿下の役に立ちたいという気持ちが湧いてきました。
王太子の証を得るためのメインストーリーに私は出てこなかったので、せめて王太子の座を盤石なものにするお手伝いはさせていただきたいです。
「後ろ盾を得るには楽な方法もあるけれど、俺は地道に信頼関係を築こうと思っているんだ。そのほうが王位に就いた後のためにもなるし」
殿下は貴族たちと信頼関係を築くため、彼らの諸問題を解決したりして、能力を示しているそうです。
そしてその諸問題の解決に最も苦労しているのが、アーデル地方の作物に発生している謎の病害なのだとか。
「病害に関する書物には、この事例がないんだ。地質や気象条件も調べて専門家とも話し合ったんだけど、なかなか解決法が見つからなくて」
十年ほど前から発生し始めたその病害によって、アーデル地方で栽培されている魔法薬用の薬草が大打撃を受けているのだとか。
国としても全力を挙げて病害対策をしているけれど、全く効果が見られないらしく、国としてはもう、お手上げ状態なのだそうです。
殿下が病害のイラストを見せてくれたのですが、それを見た私はすぐにとある本を思い出しました。
そのイラストによく似たものが載っている本を、何年も前に読んだ記憶があります。
その病害に心当たりがあると伝えると、殿下は驚いた表情で「ぜひ教えてくれないかな」と私の手を取りました。
「ただ、専門書ではなく物語なのですが……」
「今はどんな些細な手がかりでも、ありがたいよ。ぜひ、その本がある場所へ案内してくれないかな」
「わかりました。少し遠い場所にあるので、放課後にご案内します」
放課後。
図書室にて殿下と私が見守る中、シリル様とセルジュ様はモンスターと戦っていました。
図書室には『自己責任区画』という場所があり、そこは兵士の巡回もなく、どういうわけか図書室なのにモンスターも出現するのです。
しかも、本棚には魔法がかけられていて、本に攻撃を仕掛けると自己責任区画の入り口に戻されてしまいます。
シリル様とセルジュ様は、先ほどから何度か戻されていて大変そうです。
「なんでエル……ミシェル嬢と、殿下はモンスターに襲われないんだ?」
「私は、『図書室マスターの証』というものを所持していますので、これがあると襲われないんです。殿下は私とパーティーを組んでいるからだと思います」
「そんなものがあったんだね。その証はどうしたら取得できるの?」
襲われる心配のない殿下は武器も出さずに、私と手を繋いだまま尋ねました。
「図書室にある全てのチェックポイントを通過すると取得できるそうですが、私はお兄様からいただいたんです」
それを聞いたセルジュ様は「あいつの話は聞きたくない!」と、戦闘中にも関わらず両手で耳を塞ぎました。
無防備になったセルジュ様にモンスターが襲い掛かりましたが、彼は長い足でそれを蹴り飛ばし。飛ばされたモンスターは、入り口から戻ってきたシリル様の魔法によって消え去りました。
これも見事な連携プレーと呼ぶべきでしょうか。
殿下は二人をパーティーに入れるつもりはないようで、私を連れて歩き出します。
「ミシェルのお兄さんは確か、魔法師団の副団長をしているんだよね」
「はい。私と違って、お兄様は魔法が得意なんです」
「彼とはまだ正式に挨拶をしたことがないから、今度紹介してほしいな」
「いつ戻るかわかりませんが、きっとお兄様も喜ぶと思います」
お兄様はモンスター討伐のため最前線にいるので、私はもう三年ほど会っていません。
歳が離れているせいか私をとても可愛がってくれていたので、お兄様のいない日々は少し寂しくも感じています。
頻繁にお兄様と手紙のやり取りはしていたのですが、殿下のおかげで学園生活が楽しいと手紙を送ってから返事がありません。お元気なのでしょうか。
お兄様の心配をしていると、後ろからセルジュ様がぼそりと「殿下も命知らずだな……」と呟く声が聞こえました。
殿下は今、私とパーティーを組んでいるので安全ですよ?
自己責任区画を抜け地下書庫に入ると、ひんやりとした湿気を帯びた空気に包まれます。
書庫は真っ暗なので私は魔道具のランタンに灯りをつけてから、三人を本がある部屋へと案内しました。
「湿度が高いようだけれど、ここに本を保管しておいても大丈夫なの?」
殿下の疑問は最もです。この地下書庫は各部屋の状態はそこそこ良いのですが、廊下はジメっとしていて壁には苔が生えている場所もあります。
「こちらにある本は、何百年も前に書かれた本ばかりでして。その当時の本は貴重品だったため、一冊ずつに劣化防止の魔法がかけられているんです」
手前から三番目の部屋に案内し、私は目的の本を探し始めました。
「こちらが、病害について書かれている物語になります」
分厚い一冊を手に取り、例のイラストが載っているページを開いてテーブルに置きます。殿下とシリル様は真剣な表情で、その本を読み始めました。
セルジュ様はモンスター退治で疲れたのか、長椅子に寝転がっています。
「アーデル地方の歴史と、この部分が一致しますね」
「あぁ。物語として書かれているが、これは実際の出来事なのかもしれないな」
私がこの本をお勧めした理由も、歴史書と重なる部分が多かったので架空の話ではないと思ったからです。
二人に本全体の内容を話して聞かせると、殿下は納得のいったような表情になりました。
「この当時の認識としては、歴史書として残すほどの出来事ではなかったのかもしれないね。ここに出てくる魔法師が、あっさりと薬を作ったのも大きいようだけれど」
この本にはご丁寧に、魔法薬に使われた材料まで書かれています。もしかしたらこの本を書いた人が、その魔法師なのかもしれません。
殿下は私の手を取り、これで解決の糸口が見つかったと感謝をしてくれました。
ランタンの灯りに照らされた殿下のお顔が、いつもよりも色っぽく見えて。
それだけでも心臓が波打ってしまうのに、彼はいつになく熱い視線を私に向けます。
その熱にあてられたせいか、私は息をするのも忘れて固まってしまいました。
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