16 / 27
16 王子様なルシアン殿下
しおりを挟む勲章授与式の当日。
「ミシェルお嬢様、いかがでしょうか?」
「わぁ……」
鏡の中の私は、まるで別人で。
いつもはもっさりとした印象のウェーブがかった髪の毛ですが、三つ編みがカチューシャのようになっていて顔周りがすっきりとしていますし、初めて施されたお化粧により幼い雰囲気が消え、気恥ずかしさを感じるほど大人っぽく見えます。
ドレスは殿下が贈ってくださった中で、最も地味なものを選びました。
私の勲章授与はおまけみたいなものだと思っているので、主役の皆様より目立たないようにと思いまして。
グレーの生地に白いフリルのドレスなのですが、腰に天使が羽を広げたようなデザインのリボンがついていて、とても可愛いのです。
このリボンは、どのドレスにもどこかしらについていたので、デザイナーがこだわった部分のようです。
「お嬢様、本日はこちらをお持ちください」
最後の仕上げとばかりにメイドが持ってきたものを見て、私の気分は一気に沈みました。
「……いらないわ」
「ですが社交界で粗相があれば、お嬢様の名に傷が……」
「ゆっくり歩けば、大丈夫よ」
メイドが差し出した杖を忌々しく思いながら、私は視線を逸らしました。
この杖は、魔法を使うためのものではありません。
人を支えるための杖で、ご老人がよく使用しているものと同じです。
私は魔力の流れが悪いらしく、生まれつき右の足首に力が入りにくいのです。お兄様曰く、足首に魔力が溜まっているので、動きを阻害しているのだとか。
いつか改善方法を見つけるとお兄様は約束してくれましたが、私はこの体質にあまり不便を感じていません。
それでも使用人たちはおおげさに心配して、いつも私に杖を持たせようとするのです。
使用人との押し問答の末に勝利を勝ち取ったところで、殿下がそろそろ到着されると知らせがありました。
今日は王城へ行くのに、殿下はわざわざ迎えに来ると約束してくれたのです。
お出迎えするために玄関から出て待っていると、二頭立ての白馬が引いている白い馬車が到着しました。
馬車の扉が開き、地面へと降り立った殿下は、さんさんと降り注ぐ日の光を浴びて黒髪が艶やかに輝き、白を基調とした素敵な衣装がさらに彼を引き立たせています。
王子でした。
殿下はまぎれもなく、王子様でした。
今まで制服姿しか見たことがなかったので、王子らしい姿の殿下を前に、私の心の奥底に眠っていたミーハー心が、突如目覚めてしまいました。
もし学園の女子生徒たちがこの姿の殿下を見たら、卒倒する方が現れてもおかしくありません。
私も「きゃー!」と叫びたいのを必死にこらえながら、殿下がこちらへ来るのを待ちました。
後は殿下の完璧なスマイルを見られたら、私はもう思い残すことはありません。
そう思いながら殿下を見つめていると、彼は私の少し手前で立ち止まりました。
どうしたのかと思っていると、殿下は私から少し視線を逸らしました。
「今日のミシェルは、直視していられないほど綺麗だね」
よく見れば、殿下の頬が少し赤くなっています。
彼のそんな姿に、張り切っておめかしをした自分が急に恥ずかしくなってしまいました。
褒めてくれるのは嬉しいのですが、殿下の頬まで染める意図はなかったのですっ。
「殿下こそ、今日はとても素敵だと思います……」
「ありがとう。ミシェルに褒めてもらえると、幸福な気持ちになれるよ」
幸福を周りにまき散らしているのは、殿下のほうですよ。
微笑む姿が、あまりに麗しく。私と同じ気持ちであろう我が家のメイドたちから、小さく悲鳴が上がりました。
「あのっ殿下、素敵なドレスをありがとうございました」
馬車に乗ってから真っ先にお礼を伝えると、殿下は私が着ているドレスを改めて眺めながら満足そうに微笑みました。
「気に入ってくれたなら、俺も嬉しいよ」
「はい、特にリボンが可愛いと思いまして」
「それは、リクエストしてデザインしてもらったんだ」
「殿下がですか?」
「うん。俺の天使だから」
彼はそう言いながら愛おしそうに、私の髪の毛をなでました。
殿下の天使というと、思い出すのは図書室でのジル様との会話なのですが。
あの時の殿下は、堂々と天使を得たいと宣言していませんでしたか?
つまり、殿下が得たいと思っている天使とは、私のことなのですよね……。
周りからは婚約についての話題が出ていましたが、殿下の意向を知ったのはこれが初めてです。
側室問題や公務問題を突きつけられてきましたが、今は単純に嬉しいという気持ちで心は満たされてしまいました。
私、殿下との未来を夢見ても良いのでしょうか……。
本日は殿下と私以外にも、これまで殿下と一緒に病害対策をしてきた方々が勲章を授与されます。
式が始まる前に殿下がその方々を紹介してくれたのですが、皆様にはとても感謝されてしまいました。
殿下も話してくれたように、材料の情報がなければ魔法薬の開発に何年もかかっていたので、その間に大損害が生まれていただろうと。
それでも勲章授与はおおげさだと思うのですが、皆様のお役に立てたことについては素直に嬉しく思います。
勲章授与式へは、どういうわけか殿下にエスコートされながら、一番初めに入場する羽目に。
おまけの私は最後尾で良いと言ったのですが、殿下に口で勝てるはずもなく。気がつけば、殿下のエスコートまで追加されていました。
ただ、殿下が隣にいてくれるというのは何よりも心強いのは確かで。私は緊張しながらも、大失敗することなく入場を完了できました。
式では、国王陛下がひとりひとりに勲章を授けてくださったのですが、私に授けてくださる際には小声で話しかけてくださり。
「息子がいつも、世話になっているそうだね」
「とんでもございません、国王陛下。お世話になっているのは私のほうで、ルシアン殿下にはいつも感謝しております」
「お互いに助け合えるのは良いものだ。これからも息子を頼んだよ」
「はっ、はいっ」
殿下に似た穏やかな雰囲気の国王陛下が微笑む姿は、十数年後の殿下を思わせました。
彼もいつかは王位に就いて、こうして勲章授与などをするのでしょう。
その時には私も、どこかでその姿を見守りたいです。
勲章授与後。陛下からのお言葉では、私を才女と表現されていて。
皆様から注目を浴びてしまったのは言うまでもなく、ひたすら恐縮してしまいました。
私はただ単に、大好きな本に関する記憶力に長けているだけなのに、才女はおおげさすぎます。
最後に式に参列している貴族の方々から、盛大な拍手が起こりました。
その中にはもちろん、お父様とお母様もいて。
お父様なんてハンカチで目頭を押さえているのが見えて、とんだ親バカぶりに恥ずかしくなってしまいました。
「ねぇミシェル。こうして人の役に立てることは、とても幸せだと思わない?」
拍手の中、隣の殿下がそうぽつりと呟きました。
彼のお顔を見上げてみれば、とても嬉しそうに貴族全員に視線を向けています。
「そうですね。私も微力ながらお手伝いができて、良かったです」
「ありきたりだけれど、俺はこの国をもっと良くするために王位に就きたいんだ。ミシェル、これからも俺のそばで支えてくれないかな?」
「もちろんですっ。陰ながらお手伝いさせていただきます」
「ありがとう、嬉しいよミシェル」
殿下はそう微笑むと、私の前に移動しました。
皆様に背を向けてどうしたのかと思っていると。
「俺からもうひとつ、お礼をさせてもらうね」
「え……?」
考える間も与えられず、殿下は即行動に移しました。
私の前に片膝をついた彼は、優雅な仕草で私の手を取ると、手の甲に口づけを……。
「でっ……!」
何とか声を抑えることに成功した私の代弁者は、この会場にいる貴族のご婦人方でした。
あちらこちらから上がる悲鳴に釣られるように、貴族男性からも歓声があがり。私は完全に硬直してしまいました。
殿下、ここは学園ではないのですよ。
せっかく地味なドレスを選んだのに、これでは完全に私が主役ではありませんかっ。
私の手の甲から唇を離した殿下は、それはもう無邪気なお顔で微笑んでおり。
可愛い殿下と手の甲に残る感触との相乗効果で、私の頭の中は真っ白になってしまいました。
59
あなたにおすすめの小説
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。
待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。
もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉
狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。
「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。
フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。
対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。
「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」
聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。
「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」
そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。
イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。
ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼
そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ!
イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。
しかし……。
「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」
そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。
婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです
宝月 蓮
恋愛
乙女ゲームのモブに転生したマーヤ。目の前にいる婚約者はそのゲームの攻略対象だった。しかし婚約者は悪役令嬢に救われたようで、マーヤそっちのけで悪役令嬢に夢中。おまけに攻略対象達に囲まれている悪役令嬢も転生者で、何だか無神経発言ばかりで少しモヤモヤしていしまうマーヤ。そんな中、マーヤはゲームには関係ない隣国の公爵令息と仲良くなり……!?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。
「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」
エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる