【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

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16 王子様なルシアン殿下

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  勲章授与式の当日。

「ミシェルお嬢様、いかがでしょうか?」
「わぁ……」

 鏡の中の私は、まるで別人で。
 いつもはもっさりとした印象のウェーブがかった髪の毛ですが、三つ編みがカチューシャのようになっていて顔周りがすっきりとしていますし、初めて施されたお化粧により幼い雰囲気が消え、気恥ずかしさを感じるほど大人っぽく見えます。

 ドレスは殿下が贈ってくださった中で、最も地味なものを選びました。
 私の勲章授与はおまけみたいなものだと思っているので、主役の皆様より目立たないようにと思いまして。

 グレーの生地に白いフリルのドレスなのですが、腰に天使が羽を広げたようなデザインのリボンがついていて、とても可愛いのです。
 このリボンは、どのドレスにもどこかしらについていたので、デザイナーがこだわった部分のようです。

「お嬢様、本日はこちらをお持ちください」

 最後の仕上げとばかりにメイドが持ってきたものを見て、私の気分は一気に沈みました。

「……いらないわ」
「ですが社交界で粗相があれば、お嬢様の名に傷が……」
「ゆっくり歩けば、大丈夫よ」

 メイドが差し出した杖を忌々しく思いながら、私は視線を逸らしました。

 この杖は、魔法を使うためのものではありません。
 人を支えるための杖で、ご老人がよく使用しているものと同じです。

 私は魔力の流れが悪いらしく、生まれつき右の足首に力が入りにくいのです。お兄様曰く、足首に魔力が溜まっているので、動きを阻害しているのだとか。
 いつか改善方法を見つけるとお兄様は約束してくれましたが、私はこの体質にあまり不便を感じていません。
 それでも使用人たちはおおげさに心配して、いつも私に杖を持たせようとするのです。

 使用人との押し問答の末に勝利を勝ち取ったところで、殿下がそろそろ到着されると知らせがありました。

 今日は王城へ行くのに、殿下はわざわざ迎えに来ると約束してくれたのです。
 お出迎えするために玄関から出て待っていると、二頭立ての白馬が引いている白い馬車が到着しました。
 馬車の扉が開き、地面へと降り立った殿下は、さんさんと降り注ぐ日の光を浴びて黒髪が艶やかに輝き、白を基調とした素敵な衣装がさらに彼を引き立たせています。

 王子でした。
 殿下はまぎれもなく、王子様でした。

 今まで制服姿しか見たことがなかったので、王子らしい姿の殿下を前に、私の心の奥底に眠っていたミーハー心が、突如目覚めてしまいました。

 もし学園の女子生徒たちがこの姿の殿下を見たら、卒倒する方が現れてもおかしくありません。
 私も「きゃー!」と叫びたいのを必死にこらえながら、殿下がこちらへ来るのを待ちました。

 後は殿下の完璧なスマイルを見られたら、私はもう思い残すことはありません。

 そう思いながら殿下を見つめていると、彼は私の少し手前で立ち止まりました。
 どうしたのかと思っていると、殿下は私から少し視線を逸らしました。

「今日のミシェルは、直視していられないほど綺麗だね」

 よく見れば、殿下の頬が少し赤くなっています。

 彼のそんな姿に、張り切っておめかしをした自分が急に恥ずかしくなってしまいました。
 褒めてくれるのは嬉しいのですが、殿下の頬まで染める意図はなかったのですっ。

「殿下こそ、今日はとても素敵だと思います……」
「ありがとう。ミシェルに褒めてもらえると、幸福な気持ちになれるよ」

 幸福を周りにまき散らしているのは、殿下のほうですよ。

 微笑む姿が、あまりに麗しく。私と同じ気持ちであろう我が家のメイドたちから、小さく悲鳴が上がりました。



「あのっ殿下、素敵なドレスをありがとうございました」

 馬車に乗ってから真っ先にお礼を伝えると、殿下は私が着ているドレスを改めて眺めながら満足そうに微笑みました。

「気に入ってくれたなら、俺も嬉しいよ」
「はい、特にリボンが可愛いと思いまして」
「それは、リクエストしてデザインしてもらったんだ」
「殿下がですか?」
「うん。俺の天使だから」

 彼はそう言いながら愛おしそうに、私の髪の毛をなでました。

 殿下の天使というと、思い出すのは図書室でのジル様との会話なのですが。
 あの時の殿下は、堂々と天使を得たいと宣言していませんでしたか?
 つまり、殿下が得たいと思っている天使とは、私のことなのですよね……。

 周りからは婚約についての話題が出ていましたが、殿下の意向を知ったのはこれが初めてです。
 側室問題や公務問題を突きつけられてきましたが、今は単純に嬉しいという気持ちで心は満たされてしまいました。
 私、殿下との未来を夢見ても良いのでしょうか……。




 本日は殿下と私以外にも、これまで殿下と一緒に病害対策をしてきた方々が勲章を授与されます。

 式が始まる前に殿下がその方々を紹介してくれたのですが、皆様にはとても感謝されてしまいました。
 殿下も話してくれたように、材料の情報がなければ魔法薬の開発に何年もかかっていたので、その間に大損害が生まれていただろうと。

 それでも勲章授与はおおげさだと思うのですが、皆様のお役に立てたことについては素直に嬉しく思います。



 勲章授与式へは、どういうわけか殿下にエスコートされながら、一番初めに入場する羽目に。
 おまけの私は最後尾で良いと言ったのですが、殿下に口で勝てるはずもなく。気がつけば、殿下のエスコートまで追加されていました。

 ただ、殿下が隣にいてくれるというのは何よりも心強いのは確かで。私は緊張しながらも、大失敗することなく入場を完了できました。


 式では、国王陛下がひとりひとりに勲章を授けてくださったのですが、私に授けてくださる際には小声で話しかけてくださり。

「息子がいつも、世話になっているそうだね」
「とんでもございません、国王陛下。お世話になっているのは私のほうで、ルシアン殿下にはいつも感謝しております」
「お互いに助け合えるのは良いものだ。これからも息子を頼んだよ」
「はっ、はいっ」

 殿下に似た穏やかな雰囲気の国王陛下が微笑む姿は、十数年後の殿下を思わせました。
 彼もいつかは王位に就いて、こうして勲章授与などをするのでしょう。
 その時には私も、どこかでその姿を見守りたいです。


 勲章授与後。陛下からのお言葉では、私を才女・・と表現されていて。
 皆様から注目を浴びてしまったのは言うまでもなく、ひたすら恐縮してしまいました。
 私はただ単に、大好きな本に関する記憶力に長けているだけなのに、才女はおおげさすぎます。


 最後に式に参列している貴族の方々から、盛大な拍手が起こりました。
 その中にはもちろん、お父様とお母様もいて。
 お父様なんてハンカチで目頭を押さえているのが見えて、とんだ親バカぶりに恥ずかしくなってしまいました。

「ねぇミシェル。こうして人の役に立てることは、とても幸せだと思わない?」

 拍手の中、隣の殿下がそうぽつりと呟きました。
 彼のお顔を見上げてみれば、とても嬉しそうに貴族全員に視線を向けています。

「そうですね。私も微力ながらお手伝いができて、良かったです」
「ありきたりだけれど、俺はこの国をもっと良くするために王位に就きたいんだ。ミシェル、これからも俺のそばで支えてくれないかな?」
「もちろんですっ。陰ながらお手伝いさせていただきます」
「ありがとう、嬉しいよミシェル」

 殿下はそう微笑むと、私の前に移動しました。
 皆様に背を向けてどうしたのかと思っていると。

「俺からもうひとつ、お礼をさせてもらうね」
「え……?」

 考える間も与えられず、殿下は即行動に移しました。

 私の前に片膝をついた彼は、優雅な仕草で私の手を取ると、手の甲に口づけを……。

「でっ……!」

 何とか声を抑えることに成功した私の代弁者は、この会場にいる貴族のご婦人方でした。
 あちらこちらから上がる悲鳴に釣られるように、貴族男性からも歓声があがり。私は完全に硬直してしまいました。

 殿下、ここは学園ではないのですよ。
 せっかく地味なドレスを選んだのに、これでは完全に私が主役ではありませんかっ。

 私の手の甲から唇を離した殿下は、それはもう無邪気なお顔で微笑んでおり。
 可愛い殿下と手の甲に残る感触との相乗効果で、私の頭の中は真っ白になってしまいました。
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