3 / 55
02 ヴィンセント10歳 02
しおりを挟むそれから数日間。エルは仕事の依頼は引き受けずに、付きっきりで少年の看病をした。
彼はまだ、目を覚まさない。
傷は魔法で治せたが、今は他人のマナによって辛うじて生命が維持されているようなもの。
目を覚ますには、彼自身が自分でマナを取り込み、血液やマナを自分の力で身体中に巡らせなければならない。
それには少し時間がかかる。根気強く看病して見守るしかない。
けれど、十日が経過しても少年は、目を覚まさなかった。
それどころか彼の体内を満たしたはずのマナが、徐々に減り続けているではないか。
生き物は、生きているだけでマナを消費する。その減った分を、空気中から取り込むことで補っている。
彼の治療で大量にマナを消費したエルですら、今は元の量に戻りつつあるのに。
それなのに少年に渡したエルのマナは減り続け、彼自身のマナは一向に増える気配がない。
血液を作り出すためにマナを多く消費していたとしても、彼自身のマナが増えないことがおかしい。
そのほかにもエルには、気になっていることがあった。
彼の体内には、様々な者のマナが少量ずつ混在している。
仮に彼が病弱な身体だったとしたら、エルのようにほかの治療魔法師からの治療を日頃から受けていた可能性はある。
けれど、彼の体内にあるマナは他人のものばかり。本人のものと思われるマナがまったく感じられない。
初めは瀕死状態による影響かとも思ったが、十日もこの状態ではさすがに別の問題があると考えるほかない。
(もしかしてこの子、マナ核を染めてもらっていないのでは……)
人間は不便なもので、生まれたばかりの赤ん坊は母親のマナで満たされている状態であるため、自らマナを取り込む方法を知らない。
自らマナを取り込むには、マナ核を動かす必要がある。
そのマナ核も、生まれたばかりの頃は動いていない。
親が子のマナ核に自らのマナを満たし、親のマナ色に染めることで、マナ核は初めて動き出すのだ。
けれど、様々な事情で親から、マナ核を染めてもらえない子もいる。
そのような場合でも普通は、誰かしら不憫に思った者がマナ核を染めてくれるものだ。
そうでなければ赤ん坊は、マナを取り込めずに死んでしまうから。
それでも極まれに、マナ核が動かないまま生き続ける者もいる。他人からマナを与えられ続けることで成長する者が。
まさかと思いながらエルは、少年の右胸にあるマナ核の辺りに触れた。
(やっぱり。マナ核の音がしないわ……)
マナ核を誰の色で染めるかは、その子の人生に大きく影響する。
本当の親が現れるまでの繋ぎとして、善意でそのような処置をする場合もある。
ただ赤ん坊ならまだしも、この少年はもう十年くらいは生きている。それだけの長い期間を他人のマナだけで補うには、かなりの数の協力者が必要なはずだ。
(そんな……)
そこまでして、この少年を生かさなければいけない理由。
エルには心当たりがあった。
その証拠を見つけなければいけない。
エルは、捨てるつもりだった少年の汚れた衣服を取り出すと、井戸へと走り、必死に洗った。
なんとか泥と血を落とし元の色が見えるようになると、エルは愕然とした。
胸ポケットには、皇家の紋章。上着の内側には『第一皇子ヴィンセント』の名が刺繍されていた。
エルはこの人生で最も避けるべき相手、『小説のヒーロー』を拾ってしまったのだ。
103
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる