悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています

廻り

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19 ヴィンセント16歳 04

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 消えたはずの皇后との接点。それが再び復活しようとしている。
 今回はヴィンセントに直接的な関係はないものだけれど、だからといって楽観視もできない。
 ヴィンセントの祖父が、ストーリーとは異なるタイミングで亡くなった前例があるから。

(私はやはり死ぬ運命なの……?)



 その夜。夕食後にエルは「話があるの」と、ヴィンセントにお茶を淹れながら話を切り出した。

「話しとはなんですか?」
「じつは私、働きに出なければいけなくなったの」
「嫌ですよ?」

 きょとんとした顔で首をかしげるヴィンセントに、エルは皇后からの手紙を差し出した。

「平民の私が皇后陛下からのお呼び出しを拒めば、罪に問われるわ。今回ばかりは、ヴィーの気持ちを優先してあげられないの」

 彼にとっては、自分を殺そうとした宿敵みたいなもの。そのような者のもとへエルを向かわせることに、良い反応を示すとは思えない。
 どう説得すべきか頭を悩ませつつヴィンセントを見つめていると、彼は思いのほか穏やかに微笑んだ。

「そういうことでしたら仕方ないですね。こちらにも書いてあるとおり、僕も今の生活は失いたくないですから。――それにしても脅しみたいな手紙ですね。皇族って皆、このような感じなのでしょうか」

 ヴィンセントはあくまで、自分は皇族とは関係ないというような雰囲気。この手紙を読んでも、自分の生まれについて話すつもりはないようだ。

「本当に良いの……?」
「僕のわがままで、エルを危険に晒したくありませんから。エルはお仕事がんばってください」

 にこりと笑みを浮かべたヴィンセントは、それからぼそっと呟いた。

「呼び出しの日まで、その手紙が有効なら。の話ですが」

(どういう意味かしら?)




 皇后は支度金として小切手を同封していたので、エルは次の日から慌ただしく、皇宮で働くための準備を始めた。

 今日はマスターにお願いして、仕事着をあつらえるために衣装店を訪れている。
 いつもならヴィンセントが付き添うが、彼はさすがに皇后のためには動きたくないのか、マスターにエルを任せてギルド依頼へ出かけてしまった。

「支度金まで用意してくださるとは、よほどエルに期待しているんだね」

 マスターは小切手をひらひらさせながら、呆れ半分、感心半分といった様子だ。
 小切手についてはエルも驚いている。平民相手に普通はここまでしない。それだけエルの能力に期待しているのか。それとも心証を良くして、小説のようにエルを利用しようと目論んでいるのか。
 どちらにせよ、皇宮では気が抜けない日々を送ることになりそうだ。



 買い物を終えたエルは夕方までギルドでヴィンセントを待ったが、彼は日暮れになっても戻ってこなかった。
 彼から事前に、辻馬車で帰るよう言われていたので、エルは仕方なく一人で辻馬車に乗って家へと戻った。

 結局、ヴィンセントが帰ってきたのは、いつもよりもだいぶ遅い時間だった。

「ただいま帰りましたエル。遅くなってしまい申し訳ありせん」
「おかえりなさい、ヴィー。心配していたのよ。大変な依頼だったの?」
「依頼人が親切な方だったもので、なかなか帰れなくて……」

 依頼人によっては依頼料のほかに、お礼として食事を振る舞ってくれたり、酒場へと連れて行ってくれるような人もいる。
 ヴィンセントはいつも丁重に断っているらしいが、今日は断り切れなかったようだ。

「それなら良かったわ。夕食はどうする?」
「いただきます。エルが作ってくれる食事は別腹なので」
「ふふ。準備しておくから、先にお風呂に入ってきて」
「ありがとうございます。お先に済ませてきますね」

 彼が脱いだマントを預かったエルは「いってらっしゃい」と手を振って彼を見送った。それから、そのマントをハンガーに掛けようとした時ふと、内ポケットに何かが入っていることに気がつく。

「新聞の号外……? ヴィーがこんなものを持ってくるなんて珍しいわね」

 何気なく開いた新聞に書かれていた見出しに、エルは大きく目を見開いた。一面には大きく『皇后逝去』の文字が。

(なぜこのタイミングで……。皇后が死ぬのは第二皇子が亡くなった後なのに)

 第二皇子の死に絶望した皇后は、ヴィンセントを逆恨みする。今度こそ生き根の音を止めてやろうと自ら、ヴィンセントの寝込みを襲おうとするも、逆にヴィンセントに返り討ちに合い死ぬことになる。
 けれど今はまだ、その時ではない。なぜ皇后は亡くなったのか。

 エルはわけがわからないまな、新聞を握りしめて浴室へと向かった。

「ヴィー! この新聞はどういうこと? 皇后陛下が亡くなったって……」

 そう言いながら浴室のドアを開けたエルは、さらに驚いた。

「ヴィー……。その怪我どうしたの……?」

 上半身が裸の状態の彼には、身体のさまざまな箇所に真新しい傷が。剣で切られたような傷がある。

「恥ずかしので見ないでください……」
「そんなこと言ってる場合ではないでしょう! すぐに治療魔法を!」

 エルは治療魔法を施しながら、がくがくと震え出した。

(もしかしてヴィーが皇后を殺したの? こんなに傷を負ってまで?)

 彼が皇后を殺すのは小説どおりで、彼にとっては長年の復讐を遂げたことになる。
 けれど彼の恨みが晴らされたはずなのに、エルの気持ちはすっきりしない。

(本当にヴィーは、自分のために復讐を遂げたのよね……?)

「エル。そんなに震えないでください。もう大丈夫ですから。僕たちはこれからも平穏に暮らせます。ずっと二人で」

 小説のストーリーをなぞっているようで、何か根本的な部分が変わってしまったような。そんな気がしてならない。
 ヴィンセントに抱きしめられ、安心させる言葉をかけられるたびに、エルは逆に不安を感じるのだった。
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