22 / 55
21 ヴィンセント16歳 06
しおりを挟む
二人を残してレストランから人が消えると、ヴィンセントはエルに抱きついてきた。
「エル。あなたを巻き込んでしまい申し訳ありません。あなたに迷惑をかけたくなくて、ずっと皇子であることを隠してきました。あなたの傍が心地よくて、ずっとあなたを騙していたんです」
震えているその姿から、相当に罪悪感を抱いていたことが伺える。だからこそ彼は、必死にエルの迷惑にならないようにと振る舞っていたのだろうか。
「ヴィー。あまり自分を追い詰めないで。私は気にしていないから」
「ですが」
「じつは私、ヴィーが皇子だって知っていたの。出会った時にあなたが着ていた上着に、皇室の紋章が刺繍されていたから」
「なぜ僕を追い出さなかったのですか。あのような状態の僕を保護したら、エルも危険だったでしょう」
理由はただ一つ。小説のエルのようになりたくなかったからだ。けれど、そのようなことを言えるはずもない。
「……けれど、ヴィーと家族になれて幸せな日々だったわ」
「僕も幸せでした。そしてこれからも、その幸せは続けるつもりです」
「どういう意味?」
ヴィンセントから少し離れて顔を見つめると、彼は真剣な表情でエルを見つめ返した。
「エル。一緒に皇宮へ来てください。エルなら僕を助けた恩人として、僕と一緒に住んでもらうことができます」
それが叶うなら、これからも一緒にいられる。けれどエルが皇宮で暮らしたら、ますます悪役になる危険が高まる。
「ごめんなさい。それはできないわ……」
「なぜですか」
「私は平民なのよ。皇子様と一緒に住むなんて分不相応だわ」
「相応の身分が必要でしたら、僕の専属治療魔法師になってください。いずれ、もっと良い身分を用意します」
「それでも、私は行けないわ」
「なぜですか。エルがいないと、僕は生きていけません……」
ヴィンセントは涙を浮かべながら、再びエルに抱きついてきた。
まさかこれほど、別れを惜しまれるとは思ってもいなかった。ヒーローはヒーローらしく、颯爽と本来の居場所へと戻ると思っていたから。
その時は、笑顔で見送ろうとずっと決めていたのに。
「ヴィー聞いて。子どもは育った家庭から、いつか巣立つものなのよ。私も、ヴィーも、その時が来ただけだわ。けれど忘れないで。離れ離れに暮らしても、家族であることには変わりない。いずれあなたが治めるこの国に、けが人が少しでも減るよう努力するわ」
これ以上は、直接的にヴィンセントを支えることは叶わないが、せめて、エルがそう思いながら生きて行くことだけは知っておいてほしい。
「……離れていても、支え合うということですね」
「そう。ヴィーも私を支えてくれる?」
「わかりました。エルが生活しやすい国となるように努力します」
そう宣言した時には、彼はもう涙は浮かべてはおらず、決意に満ちた表情をしていた。
「最後にもう一度、エルのマナ核に触れさせてください」
ヴィンセントは軽くエルの胸元に触れると、名残惜しそうな顔でその場を後にした。
「いつか迎えに来ます」
そんな言葉を残して。
ヴィンセントがレストランを去ったあと。エルは店を出て、とぼとぼと夜の街を歩いていた。
(やっと私の役目も終わったのね)
エルの目的は、ヴィンセントを手厚く保護し、悪役として仕立て上げられないようにすることだった。
迎えの者がそれを匂わせる発言をした際はひやりとしたが、ヴィンセントが皇宮へ帰る決断をしたことで、エルの目的は無事に果たされた。
(そのはずなのに……)
心にぽっかりと穴が開いてしまったような気分。
いつも隣にはヴィンセントがいて、それが少し重く感じることもあったのに。
いなくなった途端に、寂しさを感じるなんて。
エルはいつの間にか、魔法師ギルドへとたどり着いていた。扉を開けると、依頼終わりのギルド員たちが賑やかに酒を酌み交わしている光景が目に入った。
「エル、久しぶりじゃねーか」
「なんだその貴族令嬢みたいな恰好は?」
「さては男ができたな。弟が泣くぞー!」
酒の勢いで冷やかすギルド員たちを無視してエルは、一直線にカウンターへと向かう。そこには、マスターとアークが二人でまったりと酒を嗜んでいた。
「エル。どうしたんだい? ヴィーは?」
「今日はヴィーの誕生日だろう?」
気がついた二人に問いかけられて、エルは一気に気持ちが溢れるように涙を流し始めた。
「ヴィーが……。ヴィーが帰ってしまったの……」
本当は帰ってほしくなかった。
もっとずっと一緒にいたかった。
なぜ自分は悪役に生まれてしまったのか。
小説の世界なんて無ければよかったのに。
さまざまな感情がごちゃまぜ押し寄せてくる。
その日、エルは二人に慰められながら泣き明かした。
それから五年後の、ヴィンセントの誕生日。
「エル。あなたを巻き込んでしまい申し訳ありません。あなたに迷惑をかけたくなくて、ずっと皇子であることを隠してきました。あなたの傍が心地よくて、ずっとあなたを騙していたんです」
震えているその姿から、相当に罪悪感を抱いていたことが伺える。だからこそ彼は、必死にエルの迷惑にならないようにと振る舞っていたのだろうか。
「ヴィー。あまり自分を追い詰めないで。私は気にしていないから」
「ですが」
「じつは私、ヴィーが皇子だって知っていたの。出会った時にあなたが着ていた上着に、皇室の紋章が刺繍されていたから」
「なぜ僕を追い出さなかったのですか。あのような状態の僕を保護したら、エルも危険だったでしょう」
理由はただ一つ。小説のエルのようになりたくなかったからだ。けれど、そのようなことを言えるはずもない。
「……けれど、ヴィーと家族になれて幸せな日々だったわ」
「僕も幸せでした。そしてこれからも、その幸せは続けるつもりです」
「どういう意味?」
ヴィンセントから少し離れて顔を見つめると、彼は真剣な表情でエルを見つめ返した。
「エル。一緒に皇宮へ来てください。エルなら僕を助けた恩人として、僕と一緒に住んでもらうことができます」
それが叶うなら、これからも一緒にいられる。けれどエルが皇宮で暮らしたら、ますます悪役になる危険が高まる。
「ごめんなさい。それはできないわ……」
「なぜですか」
「私は平民なのよ。皇子様と一緒に住むなんて分不相応だわ」
「相応の身分が必要でしたら、僕の専属治療魔法師になってください。いずれ、もっと良い身分を用意します」
「それでも、私は行けないわ」
「なぜですか。エルがいないと、僕は生きていけません……」
ヴィンセントは涙を浮かべながら、再びエルに抱きついてきた。
まさかこれほど、別れを惜しまれるとは思ってもいなかった。ヒーローはヒーローらしく、颯爽と本来の居場所へと戻ると思っていたから。
その時は、笑顔で見送ろうとずっと決めていたのに。
「ヴィー聞いて。子どもは育った家庭から、いつか巣立つものなのよ。私も、ヴィーも、その時が来ただけだわ。けれど忘れないで。離れ離れに暮らしても、家族であることには変わりない。いずれあなたが治めるこの国に、けが人が少しでも減るよう努力するわ」
これ以上は、直接的にヴィンセントを支えることは叶わないが、せめて、エルがそう思いながら生きて行くことだけは知っておいてほしい。
「……離れていても、支え合うということですね」
「そう。ヴィーも私を支えてくれる?」
「わかりました。エルが生活しやすい国となるように努力します」
そう宣言した時には、彼はもう涙は浮かべてはおらず、決意に満ちた表情をしていた。
「最後にもう一度、エルのマナ核に触れさせてください」
ヴィンセントは軽くエルの胸元に触れると、名残惜しそうな顔でその場を後にした。
「いつか迎えに来ます」
そんな言葉を残して。
ヴィンセントがレストランを去ったあと。エルは店を出て、とぼとぼと夜の街を歩いていた。
(やっと私の役目も終わったのね)
エルの目的は、ヴィンセントを手厚く保護し、悪役として仕立て上げられないようにすることだった。
迎えの者がそれを匂わせる発言をした際はひやりとしたが、ヴィンセントが皇宮へ帰る決断をしたことで、エルの目的は無事に果たされた。
(そのはずなのに……)
心にぽっかりと穴が開いてしまったような気分。
いつも隣にはヴィンセントがいて、それが少し重く感じることもあったのに。
いなくなった途端に、寂しさを感じるなんて。
エルはいつの間にか、魔法師ギルドへとたどり着いていた。扉を開けると、依頼終わりのギルド員たちが賑やかに酒を酌み交わしている光景が目に入った。
「エル、久しぶりじゃねーか」
「なんだその貴族令嬢みたいな恰好は?」
「さては男ができたな。弟が泣くぞー!」
酒の勢いで冷やかすギルド員たちを無視してエルは、一直線にカウンターへと向かう。そこには、マスターとアークが二人でまったりと酒を嗜んでいた。
「エル。どうしたんだい? ヴィーは?」
「今日はヴィーの誕生日だろう?」
気がついた二人に問いかけられて、エルは一気に気持ちが溢れるように涙を流し始めた。
「ヴィーが……。ヴィーが帰ってしまったの……」
本当は帰ってほしくなかった。
もっとずっと一緒にいたかった。
なぜ自分は悪役に生まれてしまったのか。
小説の世界なんて無ければよかったのに。
さまざまな感情がごちゃまぜ押し寄せてくる。
その日、エルは二人に慰められながら泣き明かした。
それから五年後の、ヴィンセントの誕生日。
110
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる