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22 ヴィンセント21歳 01
しおりを挟むそれから五年後の、ヴィンセントの誕生日。
エルは五年間、毎年欠かさずヴィンセントの誕生日に二人分のご馳走を作っていた。
いつか迎えに来るという言葉を信じているわけではないし、雲の上の存在となった彼と、また一緒に暮らしたい願望があるわけでもない。
ただ、弟のように可愛がっていたヴィンセントを、いつまでも忘れたくない。一緒に暮らしたのは六年間だけでも、エルにとっては大切な家族だから。
「こんな私も、未練たらたらよね……」
テーブルを飾り付けし終えたエルは、ため息をつきながら椅子へと腰かけた。
ヴィンセントが去ってからのエルの生活は、恐ろしいほど平穏だった。鉱山のオーナーが「また働いてほしい」とギルドに依頼してきたので、エルは診療所での仕事を再開した。
三年経っても知っている顔ばかりで、人恋しいエルとしてはありがたい職場だった。
休みの日にはたびたびアークが尋ねてきては、ヴィンセントの近況を報告してくれた。
彼は着実に皇宮内でも頭角を現し、様々な権限を皇帝から移譲されるようになった。
そして去年、第二皇子が病で亡くなったことを機に、ヴィンセントは正式に皇太子としての地位を与えられた。
エルがそんな物思いにふけていると、玄関のドアをノックする音が聞こえてきた。
この家を訪問する者など一人しかいない。エルは「アーク?」と声をかけながらドアを開けた。
「エル。そのような開け方は不用心ですよ」
「ヴィー……!」
そこには、立派な大人に成長したヴィンセントの姿があった。十歳の頃以来に見る黒髪に、別れた時よりもさらに凛々しくなった顔。それに小説の中の彼とほぼ変わらぬ、たくましい身体。
ただ小説の冷徹皇帝とは異なり、優しい表情で瞳を潤ませている。
「会いたかったですエル」
そして彼は昔と変わらぬ態度でエルに抱きついてきたが、あの頃とは感覚がまるで違う。エルは、彼の腕の中にすっぽりと収まる形で抱きしめられていた。
「なぜヴィーがここに?」
「来ちゃいけませんでしたか?」
「そんなことはないけど……」
五年も音沙汰がなかったので、もう会う気が無いのかと思っていた。
ヴィンセントはふと家の中に目を向けてから、顔を曇らせる。
「……どなたか、いらっしゃる予定でしたか?」
「ううん。その……、今日はヴィーの誕生日だから」
この状況を本人に見られるのは、エルとしてはとても恥ずかしい。彼は皇宮で目覚ましい活躍と成長を見せていたのに、エルは未だに彼との思い出に浸っているのだから。
「もしかして、お一人で僕のお祝いを?」
「うん……。五年も経っているのに変よね。それにもう、今日はヴィーの誕生日ではないのに」
正式な彼の誕生日は先月。今年は皇太子になってから初めての誕生日だったので、国中で盛大な祝祭がおこなわれた。
「そんなことありません。ずっと僕を想っていてくれたなんて嬉しいです」
彼は嬉しそうに、目を細める。それから片手でエルの頬に触れながら、反対の頬へと口づけをした。
(……このスキンシップも五年ぶりね)
さすがに大人の彼にこれをされると、心穏やかではいられない。
エルは気を紛らわせるように、彼の手を引いて家へと招き入れる。
「良かったら一緒に食べましょう。ヴィーの好きなビーフシチューよ」
お互いに近況を報告し合いながら、久しぶりに楽しい夕食の時間を過ごした。
初めは成長したヴィンセントに戸惑いもしたが、彼の心はあの頃と何も変わらなかった。
今まで会いに来られなかったのは、エルとの約束を果たすために頑張っていたからだという。
『離れていても支え合う』。彼がそれ実行していたことが嬉しい。
食後のお茶を淹れていると、ヴィンセントは改まったように話を切り出した。
「エル。ずっとお待たせして申し訳ありませんでした。やっと準備が整いました」
「準備って……?」
なんだろうと首をかしげていると、彼はポケットから小さな箱を取り出した。
(あの時の箱……)
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