44 / 55
43 ヴィンセント25歳 16
しおりを挟む
エルヴィンは「エルシーさま~!」と嬉しそうにエルに抱きついてきたが、その顔には直前まで泣いていたような涙の後が。
エルはハンカチを取り出して、その涙を拭ってやりながら微笑んだ。
「あら皇子様。今日は夕食をご一緒する予定でしたよ?」
「やっぱりエルシーさまと一緒にいたいです」
先日はルヴィを弟にしてお兄ちゃん気取りだったが、まだまだ甘えたいお年頃のようだ。こんな姿も愛おしい。
「僕一人では役不足らしいです」
若干、不満げな表情で息子の頭をなでるヴィンセントの姿を見て、皆が驚いたような表情を浮かべる。
(皆、冷徹皇帝のパパな姿が意外だったみたい)
この状況を目にしたエルは、ふと良い考えが浮かぶ。この姿を見せていたほうが、先ほどの誤解が解けるかもしれない。
「お二人ともよろしければ、こちらでご休憩ください」
「わーい!」
「感謝します、皇妃」
エルの隣にヴィンセントの席が用意され、エルヴィンはエルの膝の上でご機嫌な様子でお菓子を頬張り始めた。
エルとエルヴィンは楽しそうに会話しており、ヴィンセントはエルの椅子の背もたれに腕をあづけながら、息子を優しく見つめている。
その姿を目にした女性たちは、感嘆の声を上げた。
「本当の親子みたいですわ……」
「陛下のあのような温かい眼差しも、初めて拝見します」
「皇妃様が選ばれた理由が一目瞭然ですね」
これには、マリアンを擁護していた女性たちも、反論の余地がなかった。
「マリアン嬢に非はないけれど、今回は諦めたほうがよろしいわ」
「そうですわね。皇子様のお気持ちは無視できませんもの」
そう言い残してマリアンの周りから人が去る。一人残されたマリアンは、うつむきながらハンカチを握りしめた。
「お前が幸せになるなんて、絶対に許さないっ……」
「はあ~皇子様、とっても可愛いわ!」
儀式当日。儀式用にあつらえたエルヴィンの衣装を見て、エルは心臓を押さえながら喜んだ。
「エルシーさまも、可愛いです! ここがぼくと同じです。あとここも!」
今日の衣装は、親子コーデとして注文した。エルヴィンは同じ部分を見つけては嬉しそうに報告してくる。
「エルヴィン。パパと同じところはないのか?」
ちなみにヴィンセントともお揃いコーデだ。
儀式をするのはエルとエルヴィンだけなのでその必要はなかったのだが、二人で衣装を選んでいる際に彼はぼそっと呟いたのだ。
「僕はのけ者ですか?」と。
最近のヴィンセントは、エルとエルヴィンが仲良しすぎることに、少しだけ不満があるようだ。
嫉妬心を見せている姿がおかしくもあり、愛おしい。
「パパはここが同じ!」
「よく気がついた。えらいな」
ヴィンセントに抱き上げられたエルヴィンは、さらに付け加えた。
「パパのここと、エルシーさまのここも同じだぁ。ぼくにはないの」
(えっ?)
指摘されて驚きながらエルは、ヴィンセントを見た。彼も同じく困惑した表情でエルを見つめている。
「……皇妃の注文ですか?」
「いいえっ。私はなにも……。きっとデザイナーが気を効かせたのでしょう……」
「そうですか……」
(ヴィーとはそんな関係ではないのに、気まずいわ……)
お互いに視線をそらす姿を見て、エルヴィンは不思議そうに首をかしげた。
神殿での儀式が始まり、エルとエルヴィンは二人そろって入場した。
中には大勢の貴族が集まっており、一番前の席にいるクロフォード公爵はご満悦の表情だ。
(エルシーとしては、少しは親孝行になったのかしら?)
問題行動が多い娘をかばい続けてきた公爵としては、やっと肩の荷が下りたのではないか。
父親としては、娘が生んだ子も見たいのかもしれないが。
(ヴィーが求めれば、それも可能かもしれないわ)
ヴィンセントの打ち明け話を聞けたおかげで、今のエルにはもう彼を拒む気持ちはない。彼がエルシーを望む日が来るなら、素直に受け入れるつもりだ。
(それに、エルヴィンはルヴィを喜んでいたもの。本当の兄弟ができればきっと嬉しいと思うわ)
やっと親子関係が復活する息子へ視線を向けて見ると、エルヴィンはにこりと笑みを返してきた。
祭壇の前へと到着し、神官が儀式を始めた。神への祈りが終わり、最後にナイフとマカロンがひとつ運ばれてくる。
ナイフで二つに切り分けた食べ物を親子で食べることで、継母の儀式が完了する。
小さなパンを使うことが多いと聞いていたが、ヴィンセントの指示だろうか。エルヴィンが食べやすいようにお菓子にしたようだ。
その様子を見守っていたヴィンセントは眉をひそめた。儀式が始まる前に確認したマカロンと、微妙に色が違う気が。
光の加減かとも思ったが、妙な胸騒ぎがする。
神官がマカロンを二つに切り分け、二人へと差し出した瞬間、ヴィンセントは動いた。
エルはハンカチを取り出して、その涙を拭ってやりながら微笑んだ。
「あら皇子様。今日は夕食をご一緒する予定でしたよ?」
「やっぱりエルシーさまと一緒にいたいです」
先日はルヴィを弟にしてお兄ちゃん気取りだったが、まだまだ甘えたいお年頃のようだ。こんな姿も愛おしい。
「僕一人では役不足らしいです」
若干、不満げな表情で息子の頭をなでるヴィンセントの姿を見て、皆が驚いたような表情を浮かべる。
(皆、冷徹皇帝のパパな姿が意外だったみたい)
この状況を目にしたエルは、ふと良い考えが浮かぶ。この姿を見せていたほうが、先ほどの誤解が解けるかもしれない。
「お二人ともよろしければ、こちらでご休憩ください」
「わーい!」
「感謝します、皇妃」
エルの隣にヴィンセントの席が用意され、エルヴィンはエルの膝の上でご機嫌な様子でお菓子を頬張り始めた。
エルとエルヴィンは楽しそうに会話しており、ヴィンセントはエルの椅子の背もたれに腕をあづけながら、息子を優しく見つめている。
その姿を目にした女性たちは、感嘆の声を上げた。
「本当の親子みたいですわ……」
「陛下のあのような温かい眼差しも、初めて拝見します」
「皇妃様が選ばれた理由が一目瞭然ですね」
これには、マリアンを擁護していた女性たちも、反論の余地がなかった。
「マリアン嬢に非はないけれど、今回は諦めたほうがよろしいわ」
「そうですわね。皇子様のお気持ちは無視できませんもの」
そう言い残してマリアンの周りから人が去る。一人残されたマリアンは、うつむきながらハンカチを握りしめた。
「お前が幸せになるなんて、絶対に許さないっ……」
「はあ~皇子様、とっても可愛いわ!」
儀式当日。儀式用にあつらえたエルヴィンの衣装を見て、エルは心臓を押さえながら喜んだ。
「エルシーさまも、可愛いです! ここがぼくと同じです。あとここも!」
今日の衣装は、親子コーデとして注文した。エルヴィンは同じ部分を見つけては嬉しそうに報告してくる。
「エルヴィン。パパと同じところはないのか?」
ちなみにヴィンセントともお揃いコーデだ。
儀式をするのはエルとエルヴィンだけなのでその必要はなかったのだが、二人で衣装を選んでいる際に彼はぼそっと呟いたのだ。
「僕はのけ者ですか?」と。
最近のヴィンセントは、エルとエルヴィンが仲良しすぎることに、少しだけ不満があるようだ。
嫉妬心を見せている姿がおかしくもあり、愛おしい。
「パパはここが同じ!」
「よく気がついた。えらいな」
ヴィンセントに抱き上げられたエルヴィンは、さらに付け加えた。
「パパのここと、エルシーさまのここも同じだぁ。ぼくにはないの」
(えっ?)
指摘されて驚きながらエルは、ヴィンセントを見た。彼も同じく困惑した表情でエルを見つめている。
「……皇妃の注文ですか?」
「いいえっ。私はなにも……。きっとデザイナーが気を効かせたのでしょう……」
「そうですか……」
(ヴィーとはそんな関係ではないのに、気まずいわ……)
お互いに視線をそらす姿を見て、エルヴィンは不思議そうに首をかしげた。
神殿での儀式が始まり、エルとエルヴィンは二人そろって入場した。
中には大勢の貴族が集まっており、一番前の席にいるクロフォード公爵はご満悦の表情だ。
(エルシーとしては、少しは親孝行になったのかしら?)
問題行動が多い娘をかばい続けてきた公爵としては、やっと肩の荷が下りたのではないか。
父親としては、娘が生んだ子も見たいのかもしれないが。
(ヴィーが求めれば、それも可能かもしれないわ)
ヴィンセントの打ち明け話を聞けたおかげで、今のエルにはもう彼を拒む気持ちはない。彼がエルシーを望む日が来るなら、素直に受け入れるつもりだ。
(それに、エルヴィンはルヴィを喜んでいたもの。本当の兄弟ができればきっと嬉しいと思うわ)
やっと親子関係が復活する息子へ視線を向けて見ると、エルヴィンはにこりと笑みを返してきた。
祭壇の前へと到着し、神官が儀式を始めた。神への祈りが終わり、最後にナイフとマカロンがひとつ運ばれてくる。
ナイフで二つに切り分けた食べ物を親子で食べることで、継母の儀式が完了する。
小さなパンを使うことが多いと聞いていたが、ヴィンセントの指示だろうか。エルヴィンが食べやすいようにお菓子にしたようだ。
その様子を見守っていたヴィンセントは眉をひそめた。儀式が始まる前に確認したマカロンと、微妙に色が違う気が。
光の加減かとも思ったが、妙な胸騒ぎがする。
神官がマカロンを二つに切り分け、二人へと差し出した瞬間、ヴィンセントは動いた。
95
あなたにおすすめの小説
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる