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第一部 第一章 それならそうと早く言ってよ
0話 エルサーシアの娘たち
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三姉妹は母の部屋で遺品の整理をしていた。
大聖女の葬儀ともなると一日や二日では終わらない。
一言お別れのご挨拶をと弔問客が連日連夜の大行列をなして訪れた。
ガラスで覆われた棺の中で、ただ目を閉じて昼寝でもしているかの様に、
その口元は微笑みを浮かべている。
三日の予定が五日に、それでも途切れぬ民衆を追い返すわけにも行かず、
保存は万全にして痛む事も無し、母ならばきっとそうするだろうと、
最後の一人が振り返り、また振り返り城門を出ると十日目の夕日が落ちた。
「これは貴方が五歳の時に差し上げたものね」
長女が見つけたハンカチには、如何にも子供が作りましたと言いたげな、
だからこそ可愛らしい刺繍が施されている。
それを見た二女は治まっていた涙が、また溢れ出して来た。
「あ゛~ぞうでずばぁ~!ごでばぁ~
わ゛だぐじがぁ~!お゛が~ざばに゛ぃ~
う゛う゛う゛う゛~~~」
引き出しの奥から見つかる耳飾りの片方の様に、
鮮やかに蘇る懐かしくも愛しい、
嬉しくてそして哀しくなる記憶。
「これ!それで拭いては駄目よ!こちらを使いなさいな」
「あ゛じがど~~~」
「お姉様は一番のお母様っ子でしたものねぇ」
三女は泣き虫な姉の頭をそっと撫で、しみじみと部屋を見廻す。
亡き父母の愛で満たされていた温かな空間も、
やがて訪れる沈黙を受け入れているように思えた。
「そう言えば宮棚はまだ見て無かったですわね」
寝台の枕元に設置された戸棚を指さす。
普段は使う事のない、でも何か特別な思い入れの有る。
そんな物を入れて置く所だ。
「そうねぇ、何か有るのかしら?」
長女が寝台に登り、そろりと小さな扉を開く。
中には一通の手紙が入っていた。
「これは・・・」
「まさか!遺書?」
「お゛が~ざばぁ~~~」
丸いテーブルの中央に手紙は置かれ、それを三姉妹が囲んでいる。
「お、お姉様、開けて下さいましな」
「そ、そうね、開けるわよ!」
「お゛が~ざばぁ~~~」
長女が恐る恐る手紙を開く。
「これは・・・呪文ね・・・」
「呪文?」
「お゛が~ざばぁ~~~」
「何の呪文ですの?」
「さぁ?見たことが無い呪文ねぇ」
「ぎっど~お゛が~ざばぁが~わ゛だじだぢに゛~
の゛ごじで~ぐだだっだの゛でずばぁ~」
「唱えてみませんこと?」
「え?大丈夫かしら?」
「だびじゅに゛ぎばっでま゛ずばぁ~」
「そうね、お母様が危険なものをこんな所に置きませんわね」
「お願いしますわ、お姉様」
意を決して長女が呪文を唱えると、庭の方から大きな水音が聞こえて来た。
まるで滝が落ちる様だ。
続いてガシャンッ!と機械音がした。
「中庭の方ね!」
「えぇ!行ってみましょう!」
「お゛が~ざばぁ~~~」
はてさて彼女達がそこで何を見るのか、
そしてお母様がどの様な人物だったのか。
これからそのお話をしましょう。
大聖女の葬儀ともなると一日や二日では終わらない。
一言お別れのご挨拶をと弔問客が連日連夜の大行列をなして訪れた。
ガラスで覆われた棺の中で、ただ目を閉じて昼寝でもしているかの様に、
その口元は微笑みを浮かべている。
三日の予定が五日に、それでも途切れぬ民衆を追い返すわけにも行かず、
保存は万全にして痛む事も無し、母ならばきっとそうするだろうと、
最後の一人が振り返り、また振り返り城門を出ると十日目の夕日が落ちた。
「これは貴方が五歳の時に差し上げたものね」
長女が見つけたハンカチには、如何にも子供が作りましたと言いたげな、
だからこそ可愛らしい刺繍が施されている。
それを見た二女は治まっていた涙が、また溢れ出して来た。
「あ゛~ぞうでずばぁ~!ごでばぁ~
わ゛だぐじがぁ~!お゛が~ざばに゛ぃ~
う゛う゛う゛う゛~~~」
引き出しの奥から見つかる耳飾りの片方の様に、
鮮やかに蘇る懐かしくも愛しい、
嬉しくてそして哀しくなる記憶。
「これ!それで拭いては駄目よ!こちらを使いなさいな」
「あ゛じがど~~~」
「お姉様は一番のお母様っ子でしたものねぇ」
三女は泣き虫な姉の頭をそっと撫で、しみじみと部屋を見廻す。
亡き父母の愛で満たされていた温かな空間も、
やがて訪れる沈黙を受け入れているように思えた。
「そう言えば宮棚はまだ見て無かったですわね」
寝台の枕元に設置された戸棚を指さす。
普段は使う事のない、でも何か特別な思い入れの有る。
そんな物を入れて置く所だ。
「そうねぇ、何か有るのかしら?」
長女が寝台に登り、そろりと小さな扉を開く。
中には一通の手紙が入っていた。
「これは・・・」
「まさか!遺書?」
「お゛が~ざばぁ~~~」
丸いテーブルの中央に手紙は置かれ、それを三姉妹が囲んでいる。
「お、お姉様、開けて下さいましな」
「そ、そうね、開けるわよ!」
「お゛が~ざばぁ~~~」
長女が恐る恐る手紙を開く。
「これは・・・呪文ね・・・」
「呪文?」
「お゛が~ざばぁ~~~」
「何の呪文ですの?」
「さぁ?見たことが無い呪文ねぇ」
「ぎっど~お゛が~ざばぁが~わ゛だじだぢに゛~
の゛ごじで~ぐだだっだの゛でずばぁ~」
「唱えてみませんこと?」
「え?大丈夫かしら?」
「だびじゅに゛ぎばっでま゛ずばぁ~」
「そうね、お母様が危険なものをこんな所に置きませんわね」
「お願いしますわ、お姉様」
意を決して長女が呪文を唱えると、庭の方から大きな水音が聞こえて来た。
まるで滝が落ちる様だ。
続いてガシャンッ!と機械音がした。
「中庭の方ね!」
「えぇ!行ってみましょう!」
「お゛が~ざばぁ~~~」
はてさて彼女達がそこで何を見るのか、
そしてお母様がどの様な人物だったのか。
これからそのお話をしましょう。
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