大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記

おじむ

文字の大きさ
14 / 87
第二章 なのに私は王都へ行くの

13話 帝国の陰謀

しおりを挟む
後宮女官長ボード伯爵夫人は近年に無く神経質になっていた。
数年来後宮を留守にしていた側室が第二王子の精霊院通学に合わせて
戻って来ているからである。
后妃と側室の動線が重ならぬ様に気を配らなければならない。
お互いに顔を合わせても良い事など何一つとして無いのだ。

国王も何かと気を揉んでいる様で「異変が有れば直ちに報告するように」
と直々に御下命ごかめいが為されている。

些細な出来事も見逃すまいと、厳戒態勢を敷いていた。

「ご実家へ・・・で御座いますか?」
侍従次長マルキスの通達に女官長は胃が痛くなって来た。



「左様、週の半分はご実家でお過ごしになられる」

揉め事を回避するために側室が離宮に住まう事は珍しく無い。
ただ通常は王宮の敷地内にある別邸が使われる。
馬車で半日かかるような別荘地で暮らすのは異例の事だ。
そんな我儘を赦し、毎週末に通い詰める王にも呆れる。

王都に戻るかと思えば、今度は実家と後宮を重複すると言う。
そんな話は聞いた事もない。
反論など言える筈も無いが、必要な要求なら許される。

頻繁ひんぱんに出入りなされるとなれば、その都度つど検閲けんえつせねばなりませぬ。
お部屋もその都度に封鎖ふうさせねばなりません。
女官の頭数が足りませぬ故、増員をお願いしとう御座います」

本来、後宮は気軽に出入りの出来る様な場所では無いのだ。

「うむ是非も無しか、その件は承知した」
くるりと背を向けて退室するマルキスを見送り、やれやれと首を振った。

「ずっとご実家でいらしたら宜しいのに・・・あら!今のは失言ね」

傍で控えている女官と顔を見合わせて苦笑いする女官長であった。
だがそれは程なく杞憂きゆうとなる。
2度ほど行き来した後は実家に留まり、王宮には顔を出さなくなった。

***

「どうにか間に合ったな・・・全く無駄骨を折ったものだ」
ひじ掛けに突いた腕に頭を乗せてビクトルは愚痴を溢した。

「ダモンは中立を通すとの言質げんちを取りましたし、
夫人とは友諠ゆうぎを結べたのですから、あながち無駄ではありますまい。
それにしても皇女を寄越すとは、あちらも奮発ふんぱつしたものですな」

精々公爵家あたりが来ると思っていたマルキスが驚きを口にする。

「ふん、聖女に対抗しての措置であろう。面子めんつこだわる奴らよ。
こちらとしては好都合だがな」

「あとは殿下と皇女との婚姻を整えて」
「うむ。そうなれば和平交渉が始まる。その時が勝負だ」

和平の条件としてフリーデルの立太子をバルドー側が要求する。
そして王はそれを受け入れるだろう。

その時こそ正に本願成就の第一歩を踏み出すのだ!

***

南の野蛮人。
南蛮と恐れられ忌み嫌われるバルドー帝国だが、
実際には7つの属国を従えて、28の民族を纏める
強力な統治機構を備えた官僚国家である。

彼らが野蛮人と言われるのは、その歴史が破壊と再生を繰り返して
来たからに他ならない。

国名こそ“バルドー”をかんしているが王朝は数千年の間に幾度も変わっている。
腐敗した前王朝を革命で以って倒し、新王朝を興してはまた倒される。
現ガンビ王朝は千年前に滅ぼされた王朝が二百年前に再び復活したと言う
珍しい経緯を辿たどっている。

「これより朝議ちょうぎを始める!皇帝陛下にご報告の有る者は御前に参進さんしんせよ!」
丞相じょうしょうカヒ・ゲライス公爵が立ち並ぶ臣下達を見廻す。

「では私めから申し上げまする」
得意げな顔で外相のアバル・ノーランド侯爵が進み出る。

「オバルト王国に御留学なされて居られますラミア皇女殿下に置かれましては、
第二王子フリーデル殿下と御友諠ごゆうぎを結ばれ、
王宮での交流会に招かれたよしに御座います。
また聖女様とも親しく言葉を交わされ友好を深めつつあるとの事、
万事恙無ばんじつつがなく運んでおりまする」

「ラミアは息災そくさいかの?」

「はい陛下。皇女殿下は健やかにお過ごしになられて居られまする」
頭を垂れたままのアバルは薄笑いを浮かべている。

これといった報告も他に無く朝議は終了した。
皇帝は奥の間に戻り、臣下達はぞろぞろと退室する。

「丞相様がお呼びで御座います」
すっと後ろから囁く声が聞こえた。
“箱持ち”と呼ばれる宮城内の伝令である。

「うむ、承知した」
振り向く事も無くアバルは答えた。

謁見の間の在る紫空殿しくうでんを出て東門を潜ると
丞相ゲライス公爵の居住する白雲殿はくうんでんが姿を現す。
白瓦しろかわらかれた屋根が雲の波の様である。

「アバル・ノーランド参上仕さんじょうつかまつりました」

楼閣の最上階。
望楼ぼうろうの一角にたたずみ外の景色に視線を注ぐ丞相の背中に告知した。



「聖女を殺める事は可能であるか?」

明日の天気でも尋ねるかの様に丞相は言葉を舌に乗せる。
感情と言うものをまったく感じない抑揚の無い声。
虚空に投げられたその言葉は、しかし紛れもなく自分に向けられたものだ。

「聖女様を・・・で御座いますか?」

いくらなんでもとアバルは蒼くなった。
戦闘民族ダモンの血を引く娘、それだけでも手強い。
ましてや教会から聖女と号されたなら、その法力や恐るべし。

「案ずるでないわ、例えばの話である」

殺せるか否かで今後の戦略が変わると言うのである。
正面切っての戦争では互いに甚大な損失が出てしまう。
だからこそ策を巡らせて相手を弱体化させるのだ。
聖女の存在はパワーバランスに大きな作用を及ぼすだろう。
排除出来るのならばそれに越した事は無い。

「なんとも言えませぬ。判断の材料が有りませぬ故」
「ならばその材料を揃えよ」
「はっ!畏まりまして御座います」

(精霊王と契約した本物の聖女を殺せるわけが無い!)
えらい事になったとアバルはなげいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...