大聖女エルサーシアの遺言~とんでもヒロインの異世界漫遊記

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第二章 ラブ・イズ・ブルー

35話 小指の想い出

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人体を支えているのは骨格である。
その周りに筋肉が張り付き、脂肪がそれをうるおし、
筋膜と皮膚が内臓を包み込む。

それらを統括し指令するのが脳である。

そして人体を養っているのは血液だ。
血液が滞れば肉体は滅び朽ち果てる。

国家の血液は“経済”である。
よく商売と経済を混同しがちであるが、それは誤りだ。
商売は利潤を追求し富を生むものであり、原動力である事には間違い無いが、
あくまでも経済の一部に過ぎない。

国家としての経済は、その富を民に再分配しなければならない。
その配分や、法制環境の整備、産業発展の推進などを含めての“経済”なのだ。
そもそもの意味は“経世済民<世を治め民を助く>”である。

経済とは即ち“勘定かんじょう”である。

全ての収入から、あらゆる支出を差し引いて“不足無し”
それを達成するために勘定するのだ。

一穂いっすい麦穂むぎほの麦粒を数え一反いったん辺りの収穫を量り、
総じてその年の豊凶を判じて分配の手立てを講じる。
需要と供給が示す天秤の傾きを見定める。
それが“勘定”と言うものだ。

ここでも良く勘違いが起こる。
財政均衡ざいせいきんこう」を勘定と思ってはいけない。
財政は過去の結果が現在に現れたに過ぎない。
正に未来を勘定に入れて居ないのだ。
財政均衡思考は足かせにしかならない。

経済は生き物だ、自然現象と同等だと考えねばならない。
操ることなど出来はしない。
ぐ時もあれば嵐の夜も来る。
それを踏まえて勘定するのだ。

戦争は武力のみに非ず。
経済界もまた戦場となる。
しかも目の前には倒すべき敵の姿は無いのだ。

経済の戦に敗した国の民は自ら命を捨てる。
高きより身を投げ、或いは人生を捧げ築き上げた職場で首を吊る。
誰に殺されたのかも知らぬままに、我が身を嘆きつつ・・・

経済は常に循環させなければならない。
血液を止めてはならぬように。

***

「うふっ、はてさて困ったのう、収拾が着かなくなって来おった。うふふふふ。
盛りの付いた猫は騒がしくて難儀じゃの。うふふふふふふふ」

「第三軍を当てまするか?」

弱体化した占領軍ではもう抑えられない。
本国の大部隊を動かす段階に来ている。

「いいや、独立を承認する」
植民地を手放すと丞相は言う。

「・・・」

「うふっ、解らぬか?容易く手に入れた栄華えいがは、容易くしおれる。
あ奴らに国を差配する事など出来まい。
独立と言う名の檻の中に閉じ込めるのだ。
美味い餌で手懐けた後は、じわじわとくびり殺してくれるわ。
うふふふふふふ。それよりもオバルトとの戦に備えねばの」

「では休戦の使者を?」
成る程と“箱持ち”は納得した。

「良きに計らえ」
「御意のままに」

****

「ワシらの勝ちや!」
「独立万歳~!」
「ウィ~~~!」


党本部は歓喜にいた。
帝国の使者が独立承認の旨を通告して来たのだ。

「早過ぎひんか?本軍が来る思たんやけどな」
「帝国は落ち目なんや、ビビッてもたんやで!」
「そやそや!占領軍も引き上げて行きよったし本軍も居らへん、
来週には外交官が来て独立の話進めるっちゅうとったやんけ!」
「国の名前どないするんや?トム」

宣伝部長のカーン・コッフィーが、広報の為には国名を早く決めろと
以前から要求している。

「デカシーランド民主労働者共和国や」
「おぉ~~~そのまんまやんけ!」

名は体を表す。
彼らの頭の中には資本投下による経済発展など、一欠けらも存在してはいなかった。
この世界に産声を上げた最初の民主主義は余りにも未熟であった。

***

バルドー帝国はデカシーランド独立に際して幾つかの条件を付けた。

1.オバルト軍の即時撤退
2.帝国民の財産と権利の保障
3.大使館の設置と外交官の治外法権
4.安全保障条約に基づく駐留軍の容認
5.通商保護条約の締結

これらの意味する所をデカシーランド新政権は理解できなかった。

後ろ盾を失い、利権を手放し、無条件の外交特権を許し、
常にクーデターの危険を抱え、経済を支配される。
帝国の言葉巧みな交渉術によって、良い様に転がされた。

オバルト側がそれに気が付いた時には帝国と新政権との合意文書が
教会に提出され承認されてしまっていた。

骨折り損の草臥くたびれ儲けである。

***

かつて地球に誕生した最初の生物は子供など産まなかった。
自身を分裂させてクローンを発生させたのだ。
世界にはイブしか居なかった。

クローンの集団には致命的な弱点が在る。
多様性が無い為に、何か大きな異変が起こるとたちまち全滅してしまう。

そこでイブは思った。
「男が欲しい!」と。
おのれの肋骨をぎ取ったのはイブの方であった。
男は多様性を発生させる道具でしか無かったのだ。
性の分化に依り生物の多様性は飛躍的に向上した。
世界は大博物館と化した。

“カンブリア大爆発エクスプロージョン”と呼ばれる時代の到来だ。

手あたり次第の実験的進化。
目的の分からない形態。
ありとあらゆる生物門が出揃ったとされている。
勿論、殆どは絶滅し化石のみが残っている。

当初の男性は生殖後に用済みとなったが、モッタイナイ精神の働いたイブは思った、
「なんか他に使い道ないかいな?」と。

「そや!敵が来た時の鉄砲玉にしたろ!」
男性は共感性を弱められ、代わりに攻撃性が強められた。

男性が他人の気持ちに鈍感であるのは、これが原因である。
程度の差こそあれど男性は基本的にサイコパスである。
だから女性は男性の無神経さを責めてはならない。

「こんな私に誰がした!」
と世の男性のY染色体は叫んでいるのだ。

***

何時もの通り夜明け前に目が覚めましたのんご~~~すぴ~~~んご~~~すぴ~~~


そっとカルアンの腕をよけてんごっ***すぴ~~~
寝台から抜け出しんごっんごっんごっ身支度を整えますのすぴ~~~~~~

最初の頃はカルアンのイビキがうるさくてがぁ~~~ぐうぅぅぅぅがぁ~~~ぐうぅぅぅぅ
何度も目を覚ましてしまいましたわこっ・・こっ・・こっ・・こっ
もう慣れましたけれどごごごごご~~~

線路沿いの家に住んでいる人がぶしゅる~~~んごっ
電車の通過に気付かなかったのにんごっんごっ・・こここここ驚いた事がありますけれど・・・・くかっ!
あれと似ていますわねぷしゅ~~~~~~

確か高次脳機能によるぐがっぐがっんがっ効率的選択でしたかしら・・・・・こっ
人の話を聞かないお方が・・・・・・時々居られますけれど・・・・・
本当に聞こえていないくきっ・・・・のかも知れませんわね・・・・・

無呼吸症候群ですわねぷしゅる~~~~~・・・

半開きの目が気持ち悪いですわ~
あれで見えていないのが不思議ですわ。
正に節穴ですわね。

夫婦関係を持つようになって、私は甘えんぼさんになってしまいましたの。
滑稽で愉快だとしか思わなったカルアンの無神経さに腹が立つ様になりましたのよ。
まさかカルアンに対して承認欲求が生まれるとは思いもしませんでしたわ。

理屈では解っていますのよ。
男はそう言う生き物だと言う事くらいは。
なにせ前世では男性でしたもの。
私ほど男性を理解している女はいませんわ!
それでもイライラしますの・・・

このままではいけませんわね。
夫婦円満の妨げになってしまいますわ。

独立騒ぎも収まってしまいましたし、ストレス発散の場がありませんわね。
適当な理由をでっちあげて、また暴れてやろうかしら?
相手はバルドーですもの構いませんわよね!

そうと決まればシモーヌの特訓ですわ!
体術は御庭衆に仕込んで貰っていますの。
問題は魔法ですわね。
シモーヌの契約精霊は綿精霊ですので、攻撃魔法が使えませんの。

「何とかなりませんの?ルルナ」
「あぁ~そうですねぇ~、出来ない事も無いですね」

ほぉ!言ってみるものですわね。

***

ルルナの話では、賃貸契約の手続きを魔法化し、システムが承認すれば、
契約精霊を貸出せるそうですの。

「具体的にはどうしますの?」

手続きの魔法化と言えば、親子鑑定がそうですわね。
たしか血液を使いましたわね。
他人の血は平気ですけれど、自分の血を見るのは嫌ですわ。

「契約書に呪文を書いて、双方の血液を垂らします」
「痛いのは嫌よ!」
「一滴で良いのですよ、針でちくっとするくらいで」

やっぱりですのね!痛みには滅法めっぽう弱いですわ~
けれど可愛い弟子の育成の為ですもの仕方が無いですわね・・・

「それで呪文はどうしますの?」
「それはサーシアが考えて下さいよ」

現象を表現する言葉ですわね。
そうですわねぇ~
何が良いかしら?

本来なら使えない魔法が使えるのだからお得ですわよね!
お得感の有る言葉と言えば、あれしか思い浮かびませんわね。

乗ってる♪ 乗ってる♪
乗ってる♪ 乗ってる♪
とーちゃ~んが♪ かーちゃんに~♪

乗ってる♪ 乗ってる♪
乗ってる♪ 乗ってる♪
とーちゃ~んが♪ かーちゃんに~♪

かーちゃんに乗れば~♪
安上り~♪

「どうして!そんなに下品なのですか!」

そんなに怒らなくても・・・

「では他のにしますわ」
「もう承認されましたよっ!」

システムが良いと言うのだから、良いではないの・・・

「シモーヌを呼んで来て頂戴な」
「はい姫様」

アリスが呼びに行きましたの。
その間に契約書を用意致しましょう。

何ですか~?師匠これから稽古ですねんけど
「ここに署名しなさいな」
何ですのん?これまた変な事ちゃうやろな
「契約書よ」
何の契約書ですのん?イヤな予感しかせんわ~

面倒臭い子ですわねぇ~

「良いから早くなさいな」
貴方に拒否権は無いのよ!

わかりました~これで宜し~ですかぁ言い出したら聞かんからな~この人?」
ふむ、次は血ね。

「小指を出しなさいな」
「エ!エンコ詰めますのん?!ウ、ウチなんぞヘタ打ちましたん?」
「そんな物騒な事はしませんわよ!」

ハイラムでもあるまいし!
精霊の賃貸契約だと説明して納得させましたの。

ウチが上級魔法をめっちゃ嬉しー・・・夢みとるんかなめっちゃ嬉しー?」

かなり嬉しいようですわね!
そうでしょうとも、そうでしょうとも。

「少しチクッとするわよ」
優しゅうして下さいね師匠勉強しまっせ!上級魔法!
「分かっていますわ」

「ほなお願いしまぁ~あああああグサッ!グリグリグリ痛い!痛い!痛い!グリグリグリグリ
入れ過ぎ!入れ過ぎ!ズリッ!ズリッ!先っちょだけ言いましたやんやっぱりこの人頭おかしい
師匠!師匠!抜いて抜いてもう耐えられへん当たってる!当たってる骨に~骨に当たってますぅ~
奥まで入ってるから~神経刺しとるさかい~イクッ!イクッあの世に行ってまう~ひぃぃぃぃぃぃもうアカ~~~ン!」


シモーヌが逝ってしまいましたわ。
ドMでしたのね!

十二支ちゃん達に交代でシモーヌに付いて貰う事にしましたの。
魔法は私が直々に教えて差し上げますわ!
可愛い弟子の為ですもの。
心を鬼にして鍛え上げますわ!

一個師団を潰せるくらいには仕上げませんとね!
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