エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

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13話

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 大きな扉が開かれると中央階段の下では白髭を貯えた熟年の男性が仁王立ちしていた。

 なかなか立派な髭だ、ちょっとアンジェロみたい。

「旦那様、ティーナ様とお話にあった客人をお連れ致しました」

「うむ、ご苦労であった!」

 そこまでいうとバトラさんはどこかへと去っていった。

 ……あれ、このあとどうしたらいいの?

「むっ? ユリウスはどこだ!? 己が心に決めた人を待たせるとは何をやっている!」

「あ、あの、私は構いませんので――」

「父上ー、ティーナ嬢はいつお着きになるのでしょうかー?」

 声がするとティーナと同じくらいの少年が階段の上から顔を覗かせた。

「えっ、ティ、ティーナ嬢!?」

「何をしているのだユリウス! いつ何時、何があってもいいよう備えろと言ったはずだ!」

「申し訳ございません、今すぐそちらに!」

 大慌てで階段を駆け下りてくる少年は階段を踏み外すとこちらに向かって宙を飛んだ。

「う、うわああああああああ!?!!」

「――危ない!」

 咄嗟に受け止めようと動いたが少年はピタリと宙で止まる。

「何をやっているのだお前は」

 少年は男性によって掴まれていた。

 この人……なかなかやるな。

「お、お待たせして申し訳ありません、父上」

「馬鹿者! 謝るのは私ではないだろう!」

 少年は掴まれたままズイッとティーナの前に出される。

「ッ! た、たたた大変申し訳ありませんティーナ嬢!」

「い、いえ~……お気になさらないで、ください――」

 ティーナは近くなった距離で若干仰け反り両手を前に振っていた。

「あなた、いい加減に降ろしてさしあげなさい。ティーナさんも困ってますわ」

 透き通るような声が聞こえると階段から綺麗な女性が降りてくる。

「む、これは失礼した!」

「――痛っ!?」

 少年は落とされるとお尻をさすった。

「ワン!」

「わっ! ……い、犬?」

「驚かせてごめんなさい。この子はアンジェロ、私のお友達なの」

 差し出されたティーナの手を少年は照れながら掴み立ち上がると両親と共に並んだ。

「ティーナ嬢、使いが遅くなったご無礼大変申し訳ない。私はギルバート、妻のメリシャに息子のユリウスだ」

「いえ、こちらこそこのような恰好で申し訳ありません。こちらはメイドのエレナ、このお方は道中で私を助けてくださったリッツさんです」

 挨拶をするとギルバートさんがジッと見つめる。

 いきなり無礼者とか言われないよな……。

「この青年が……ところで街の疫病を治したという噂は本当か」

「はい、話せば長くなるのですが……本来であればファーデン家へ嫁ぐ身としてギルバート様へお知らせするはずのところ、身勝手な行動をとり申し訳ありません」 

「何を謝る? 人を救うのに許可などいるものか、よくやってくれた! ユリウスよ、やはりお前の眼に狂いはなかったな!」

「はい父上!」

 褒められたユリウスの前でティーナがホッとしているとバトラさんがやってくる。

「旦那様、お食事のご準備ができました。歓迎も兼ねてお先にいかがでしょうか?」

「むっ、それもそうだな。では移動しよう!」

 大きな部屋に入り案内された席へ着くと隣にはエレナさんと、その横ではアンジェロが丁寧に椅子へと乗せられていた。目の前の料理にアンジェロは眼を輝かせている。

 アンジェロ我慢だ……ここで食べてしまえば歓迎ムードが台無し、乾杯まで耐えてくれ!

「あの……メイドである私がご一緒するなど……」

「何を言う! ティーナ嬢の付き人であれば大事な客人である! もちろんご友人もな!」

 エレナさんは頭を何度か下げると席に座る。

「さ、いつまでも待たせたら悪いわ」

「そうだな、それではティーナ嬢の来訪を祝し――乾杯!」

「ワウ!」

 料理が次々と食べやすい大きさに切り分けられ運ばれてくる。

 お、この魚は香草が使われているのか。それに添えられている花は外でみた――料理の彩りとして使っているわけか。

「あら、どうしたの? まさか、どこか具合でも悪かった?」

「え、えっと……私、こういうのまだわからなくて……」

「――奥様、大変失礼致しました! お嬢様はまだこういった食事には不慣れでして……!」

 エレナさんが立ち上がると精一杯頭を下げる。

 あれ、自由に食っていいんじゃないの? 俺も作法なんて知らないぞ。

「うふふ、そんなこと気にしなくていいのよ。食事とは命に感謝し味わい楽しむもの、作法なんて後から覚えればいいわ」

「ワフッ」

 そうだとでも言わんばかりに吠えたアンジェロの口はソースにまみれていた。

「アンジェロ、お前はあとで洗わないとダメだな」

「リッツさんもお口にソースが……」

「えっ、まじ?」

「はっはっはっは! 聖人であってもただの人と変わりはないものだな!」

「俺、聖人になったつもりはないんだけど」

 笑いが起きるとティーナは料理に手を付け始めた。

 それから数日、俺は街を救ったお礼として屋敷へ泊まらせてもらうことになった。そして案の定、俺とティーナはお城から呼び出しをくらうことになった。
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