エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬

文字の大きさ
34 / 150

34話

しおりを挟む
 ファーデン家へ戻ってきた俺は問題を抱えていた。斡旋所へ行ったはいいが、受付に着いた瞬間我先にと人が集まり、身動きがとれなくなったのだ。

 くそ、聖人という肩書きを甘く見過ぎていた……。これじゃあ斡旋所は使えないし、バトラさんに誰か紹介を……いや、さすがにまだ何もやっていないのに頼むのは早すぎる。

 ……久しぶりに村でも行ってくるか。

「聖人様じゃねぇか! 久しぶりだな!」

「元気してた? 最近色々あってさ、羽を伸ばしにきたよ」

「がっはっはっは! こんな何もねぇ村にくるとは相変わらずだな。ゆっくりしていってくれ」

 男は手を振りながら畑に戻っていく。ほかの村人も俺に気付くが挨拶すると仕事に戻り、街のような人だかりができることはなかった。

「ワン! ワン!」

「アンジェロ、あんまり遠くにいくなよー」

 アンジェロが駆け回り村人たちに挨拶していると少女がやってきた。

「おにいちゃーーーん!」

「君はあのときの……どうだい、あれからお父さんの調子は?」

「元気だよ! わたしもお手伝いがんばってるんだ!」

「お~偉いねぇ、おとうさんも大喜びだろ?」

「うん! ――そうだ、いま迷子のおねえちゃんがおうちにきててね、だれかをさがしてるんだって。おにいちゃんはしらない?」

「誰だろう? 街のみんなにも聞いてみるから、一度その子に会わせてもらってもいいかな」

「はーい、こっちだよー」

 アンジェロを呼び戻し少女と一緒に歩いていく。

「おねえちゃーん!」

 川につくと洗い物をしていた女性の下へ少女が走り出す。女性は艶のある真っ黒な髪に見たこともない民族的な服を着ていた。

「やっとお会いすることができました、旦那様!」

 女性はとてもいい笑顔をしている。

 ……何を言ってるんだろうこの人は。

「人違いじゃないでしょうか」

「いえ、神獣もおりますしあなた様で間違いありません!」

 こいつ、アンジェロの正体を知ってるのか?

「おにいちゃんのおともだちだった?」

「あ、いやー……ちょっと混乱してるみたいだ。話してみるからあとは任せてくれ」

「わかった、お手伝いにもどるね」

 少女が去っていっても目の前の女性はニコニコと笑顔を見せている。

「さ、いきましょう旦那様!」

「ちょ、ちょっと待て! 俺は君の夫じゃないし君のことを何も知らない!」

 女性は笑顔のまま不思議そうにしている。

「そうでした、私しか知らないんでしたね」

 何なんだこの子は……。

「とりあえず名前を教えてくれ。俺はリッツだ」

「私はニエと申します。神獣に選ばれし者と契りを交わすためあなた様を探しておりました」

「いったい何のことかわからないんだが、アンジェロのことを知っているのか」

「すでに名ももらったのですね。アンジェロ、これからよろしくお願いします」

「ワン!」

 ニエはアンジェロを撫でると抱き上げクルクルと回った。

「さ、行きましょう! 私、楽しみだったんです。神獣に乗って旦那様と共に駆けるのが!」

「行くって……どこに?」

「旦那様の行きたいところへ! それが道を開くのです!」

「いや、どこにもいかないし……その旦那様ってのやめてもらえるかな。名前で呼んでくれ」

「わかりました、リッツ様!」

 素直なのか何か隠してるのか、全然読めないぞ……。

「ニエは神獣のことを知っているのか?」

「はい、私たちは先祖代々神獣と共にありましたから」

「神獣っていったい何なんだ? 君はどこから来た?」

「んーそれはまだ言えません! でも、すぐにわかりますからご安心を!」

 謎だらけだが何かを知ってるのは間違いないな。

「……ここじゃ目立ちすぎる。俺が世話になってる屋敷があるからそこにいこう」

 森に入りアンジェロに乗るとニエは大喜びで俺に抱き着いていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

処理中です...